2007年
2008年
2月

12秒のドラマ
(08/02/28)

■出演
パト(ポルテロ) 
ダビ・ベレンゲル(デフェンサ)
ハビ・カスケロ(セントロカンピスタ)
パブロ・エルナンデス(セントロカンピスタ)
イケチュク・ウチェ(ゴレアドール)
そして、多数の白ピエロたち

「ダビ!審判はオフサイドの笛を吹いているんだ!いったい何を急いでいるんだ!何をしようとしているんだ」
ポルテロのパトが大声でダビに向かって叫んだ。カピタンのダビが急いでボールを拾いに行き、審判とポルテロの近くにボールを置こうとしている。顔は前を向いたままで、まるで誰かを捜しているかのようだ。
「まあ、見ていろ!」
前を見続けたまま、そう応えるダビ。試合が開始されてから64分後の出来事。コーナーフラッグ付近でドレンテ、トーレス、カンナバロ、ラモス、ガゴ、ロベンの6人のマドリ選手がゴールの祝福をしている。ダビが鋭くボールを蹴る。そしてこの瞬間から12秒後、カシージャスの右脇にウチェの強烈なシュートがネットに突き刺さった。

ダビ・ベレンゲルの回想
「自分のすぐ脇にいた主審のダウデン・イバニェスが止まったままこちらを見ていたし、マドリのゴールが無効のものだということはわかっていた。ラウルとバンニステロイの二人が自分の近くにおり、そしてやや前方にはグッティとエインセの二人しかいない。彼らとカシージャスをのぞいて、他の選手はコーナー付近にいるのはわかっていた。そして自分にこう言ったんだ。
『我々の唯一のチャンスがやって来た!』
急いでボールを前方に蹴った。その瞬間、自分の体に稲妻が走ったように感じられた。」

ダビ・ベンゲルからハビ・カスケロへとボールがわたる。

ハビ・カスケロの回想
「ゴールが決まったあと、線審が最初にすることはなんだか知っているかい?センターラインまでライン沿いに走っていくことさ。それぐらい子供のフットボール選手だって知っている。しかも、ロベンのシュートが決まる前に、すでに線審が旗を高々と上げていたし、コーナー付近で喜んでいるマドリ選手のすぐそばに線審がいるじゃないか。誰だって、ゴールが無効になっていることがわかるさ。
『ダビ!こっちだ!こっちだ!俺にボールをよこせ!』
そう叫んだが、騒ぎまくっている観衆の声で何も聞こえない。
『ちくしょう!ボールをよこせ!』
その叫び声なんか聞こえていなかっただろうダビが俺にボールをよこした。まったくの一人っきり、それはよくわかっていた。後ろを見る必要もないこともわかっていた。ただ前に向かって突っ走っている自分が、まるでピストルの弾になったように感じられた。そして走る自分の前に見えるのは、少なくとも自分の目に入るものは、たった二人のマドリ選手と青い芝のみだった。ベルナベウのグラウンドがこんなに広く思えたことはなかった。」

グティをかわしたハビ・カスケロから、パブロ・エルナンデスへとボールがわたった。

パブロ・エルナンデスの回想
「誰も前にいない右サイドを走り続けた。短い時間だったのだろうが、とてつもなく長い時間に思えた。走りながら胸がドキドキする。それは全力疾走しているからではなく、いま凄いことをしているんじゃないかという興奮からだった。自分の前には誰にもいなく、広大な空きスペースの中に入り込んでしまったようだった。
『落ち着くんだ!落ち着くんだ!』
そう自分に言い聞かせながら走る。そしてボールが自分に向かってくる瞬間、自分の左側にいたエインセとグッティが作る隙間の向こう側に、ウチェが走り込むのが見えた。ボールは彼のところに行く宿命となっているのだと信じてワンタッチでパスを出した。」

そのボールは、ゴール前に走り込んできたウチェの横にピッタリとわたる。

ウチェの回想
「彼らのゴールが決まった瞬間、センターラインにいたのは俺とパブロの二人と、エインセとカンナバーロの二人だけだった。そしてコーナー付近に走っていく選手たちを見て、カンナバーロも走っていってしまった。残されたのは我々二人とエインセだけ。俺とパブロとどちらかともなく目を見合わせ、暗黙の了解でそれぞれサイド方面に開いていった。ダビのパスがハビに渡った瞬間、俺とパブロはそれぞれのサイドを走り始めた。左右のどちらの選手にもパスがだせるように、我々はサイドラインにそって走り続けた。そして最終的に俺がゴールを決めることができた。だが、自分の右足で放ったシュートがゴールになったとはいえ、あのゴールは個人のものではなくチームプレーによって生まれたものだと思う。」

そして最後にパトの回想
「もし我々が決めたゴールを映画に例えるなら、カウンタアタック最優秀オスカー賞となるだろうね。それもこれも、俺の忠告をダビがよく聞いてくれたおかげだったと思っている。あの俺の一言でヤツは落ち着いてボールを出すことができたんだ。へっへっへっ!」


ベルナベウへの道
(08/02/27)

まるで昨シーズンのライカーバルサを模倣しているような感じを受ける2月のレアル・マドリ。あるいは11月バンガールもどきと言ってもいいかも知れない。いずれにしても、ベティス戦で、あるいはエスパニョール戦で、多くのバルセロニスタが受けた大打撃とどうしようもなさを、今は大部分のマドリディスタが同じように抱えていることになる。そういう彼らに同情することは彼らに対して大変に失礼なことであるから、ここは首位を走るチームに対して尊敬の念をもって、“ザマアミロ”と暖かい激励の言葉をおくり、更なる落ち込みぶりを遠くからニヤニヤと眺めてあげよう。彼らが“嬉しい”ときは、我々が“嬉しくない”ときであり、彼らが“嬉しくない”ときは我々が“嬉しい”ときという構図は永遠に崩れない。それが、世界的規模のライバルクラブというものであり、一粒で二度楽しめるグリコキャラメルみたいな贅沢なファンでもある。

リーガ制覇とチャンピオンズ制覇を大優先し、国王杯なんぞはすでに“捨てた”彼らに、今週水曜日の唯一の“嬉しい”ことは、バレンシアが勝利することにある。自ら主役となることを放棄し、第三者的な立場となった彼らのことはとりあえず無視を決め込み、主役の我々はリーグ戦のこともチャンピオンズのことも忘れ、ベルナベウ決勝戦への道を追求する。カンプノウに乗り込んでくるのはクーマン・バレンシア。チャンピオンズ参加圏内に入っていながらもクビとなったキケ監督の後釜としてベンチに入ってはや4か月。順位的にはUEFA参加圏内に入っていない悪状況だ。

ラニエリ、クーペル、ベニテスという監督がベースを作った上に、キケがそのまま引き継いだスタイルで現在に至っているバレンシアを、シーズン途中で“クーマン風”に変貌させるのは大変な作業であることは間違いない。これまで彼が指揮してきたチームでの試合風景を見る限り、決してスペクタクルなどは要求しないものの、左右に広がったエストレーモを置き、ボール支配の優位さをもって戦っていこうという基本姿勢。今シーズンの残り+2シーズンという契約期間中に、休むことなくクーマン風に選手替えしていくつもりなのだろう。だが、バレンシアニスタはマドリディスタやバルセロニスタに優るとも劣らないほどの要求大好きファンで知られている。クーマンに時間はない。今シーズンの最大の目標を国王杯制覇とし、それでお茶を濁そうと企んでいても不思議ではない。彼らはリーグ戦での試合以上に全力をあげて戦いに挑んでくるだろう。事実上のホームアンドアウエー決勝戦。できることなら第一戦めで片つけてしまおう。

サンティアゴ・ベルナベウへの道。その道、つまりバルセロナ→マドリッド間は、先週から以前と比べものにならないほど短くなっている。AVE(新幹線)が開通し、所要時間はわずか2時間30分。コスタ・デル・ソルの大都会マラガまで4時間チョイとまでなった。マラガからバスに乗りマドリッドまで8時間、そして再びバスを乗り換えバルセロナまで8時間かけて到着し、いざ、カンプノウへ!と乗り込んだのは今から二昔以上も前、う〜ん、スペインも近代化が進んでおります。

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マヌケなゴールをぶちかまされたマヌケな人たち
(08/02/26)

終身選手ラウル
「彼らのおこなったプレーはインテリジェンスあるものだったということを認めざる終えない。審判がゴールを無効なものとし、ヘタフェの選手がボールを蹴ってゲームを再開した瞬間に自分としてもそれを防ぐ手段があったと思うが、あまりにも突然のことで何もできなかった。」

終身会長カルデロン
「・・・・・・・・・・・・。」

準終身選手グティ
「彼らのゴールを生み出すことになった我々のミスは、まるで4歳の子供が犯すような幼稚なものだった。ああいうミスが我がレアル・マドリに起きること自体、いまだに信じられない。情けないったらありゃしない。」

終身会長カルデロン
「・・・・・・・・・・・・。」

終身選手カシージャス
「まったくもって幼稚なミスだった。これからの大事な試合に備えて、学習材料の一つとしなければならない。ゴールポストの中にボールが入ったら、まず主審と線審に注目すること、これは大事なことだということを学んだ。」
プフッ!

終身会長カルデロン
「・・・・・・・・・・・・。」

エインセ
「まったくもって合法的なゴールであり、個人的には彼らのインテリジェンスあふれるプレーに拍手を送りたい。フットボールとはこういうものさ。」

終身会長カルデロン
「・・・・・・・・・・・・。」

シュステル
「この世界に長いことを足を突っ込んでいるが、あんなゴールは見たこともない。インテリジェンスあふれるゴールだって?もし、それを認めるようなことになれば、我々の選手がマヌケだということになる。したがって、ノーコメント!」

終身会長カルデロン
「・・・・・・・・・・・・この敗戦は計算外だった。」

そして、マヌケ発言大賞は、我らがスポーツ・ディレクターであるペジャ・ニヤトビッチ氏に決定!
「我々の多くの選手が相手ゴール近くでゴールの祝福をしていたのだから、審判はあのプレーを止めるべきだった。なぜなら審判は常に公平でなければならないからだ。」
う〜ん、たまんねっす。


Medio lleno o medio vacio ?
(08/02/24)

ボトルに半分の水(シャンパンでもワインでもウイスキーでもコーラでもケチャップでも何でもいいが)が入っているとする。この状態をどう見るか、それ次第で悲観主義者か楽観主義者かを判断するスペイン的言い回し。そして、典型的なラテン的スペイン人であればこう言うだろう。
「半分も水が入っている。」
そして典型的なカタルーニャ人(カタラン)はこう語るだろう。
「半分もカラになっている。」
もちろん前者が楽観主義者、後者が悲観主義者となる。つまり、典型的なカタランは悲観主義的な発想をする人が多いことになる。

ローマを相手にしたチャンピオンズの試合で惨めにも敗北したレアル・マドリ。これを典型的なカタランは、バルサにとって悪い結果だと判断する。なぜなら、国王杯・チャンピオンズの戦いに離脱したメレンゲにとって、今シーズン残された唯一のタイトルはリーグ戦となり、しかも週1回の試合スケジュールとなる彼らは、三つのタイトル獲得をかけて戦っているバルサより優位な立場となる、そう考えるからだ。だが、クライフバルサ時代以降に育った“若い”バルセロニスタの間では、このメンタリティーの変化が見られる。彼らにとってバルサは“永遠の2位チーム”ではなく、常にタイトル獲得に絡んでくる“勝利チーム”という意識が強い。そういう新しいジェネレーションの彼らにとって、マドリの敗北は決して悲観主義的にとらえるものではない。美味しいパエリャを食べるよりもマドリの敗戦、クラシコ観戦の楽しみがなくなろうと、マドリの二部落ち、それを望む新カタラン。そして日曜日のレバンテ戦、この試合だけは、旧カタラン世代であろうと、新カタラン世代であろうと、しっかりと「半分も水が入っている」と思われる試合だ。

だが、カンプノウにやって来るレバンテの選手たちにとって、今の状態はボトルに「半分も水が入っている」状態でも「半分もカラになっている」状態でもない。なぜなら、彼らにとってはボトル自体が存在していない状況だからだ。無責任なクラブ首脳陣、特に傲慢クラブ会長のせいで、彼らすべての選手が、“年俸”はおろか“月給’さえもらっていない状態が続いている。それに嫌気がさしたサビオなどの主力選手はすでにクラブを離れているが、彼のように行き場所のある選手はまだいい。多くの選手は移籍先もなく、しかもほぼ無給で毎日毎日働くことを強いられている。昨シーズンの後半と同じように、今シーズンに入ってからも何回もストライキをおこなっているレバンテ選手たち。バルサ戦を前にした金曜日にも、彼らはロッカールームにこもり練習することを拒否し、月給の支払いを要求する行動にでている。選手だけではなく、監督を含めたすべてのコーチ陣、そして道具係からマッサージ師に至るまで、現場のすべての人たちがストライキをおこなっている。

その彼らが企画している一つの抗議行動。それは多くの人々が注目するカンプノウでの試合で、審判の笛が鳴ったと同時に芝生に1分間座り込み、抗議の意思を世界中に表明すること。果たして、これまで例を見ない“スペクタクル”な場面がカンプノウに登場するかどうか。こんなことには異常なほどの興味を感じしてしまう自分としては、次のようなことが疑問となる。
・レバンテボールで試合が開始された場合。
ゲームを進行しないレバンテ選手に対してカードが示されることになるだろうが、果たして誰にカードを示すのだろうか?
・バルサボールで試合が開始された場合。
果たして、ガラガラ状態の相手ゴールに向かってゴールを決めにいくだろうか?バルデスが90mドリブルしたうえでの歴史的ゴールシーンといのが見られるのだろうか?
そんなことだけが注目されるカンプノウ・レバンテ戦。

こんな11人スタメン選手という感じでいいんじゃないか?


El contrato vitalicio
(08/02/23)

“永久契約”とでも訳すのか“終身契約”とでも訳すのか、いずれにしてもそんな意味での契約がレアル・マドリのシンボル選手に対しておこなわれている。これまでこの契約を“勝ち取った”選手はカシージャスとラウルの二人で、グティに対してもそのうちおこなわれるという、マドリディスタだけではなく、バルセロニスタにとっても非常に嬉しいニュース。もっとも“永久契約”とか“終身契約”とか言っても、別にカシージャスが77歳になってもゴールポストの中で居眠りしながら座っているわけでもなく、ラウルが80歳になってもヨロヨロとグランドを歩き回っているわけでもない。そうしてくれればバルセロニスタにとってはこれ以上嬉しいことはないが、さすがにそうはならない。

ラウルは2009−10シーズンまで、カシージャスは2016−17シーズンまでというのが、これまでクラブと結んでいた契約期間。そして“終身契約”を結んだ彼らは、それこそ100m走行を5分もかかるような状態になっても(残念ながら)ベルナベウに登場できるというわけではなく、一つの条件がある。現在の契約が切れた翌シーズンから、最低でも公式試合に30試合出場していることが条件となっている。したがって、もし、負傷とか不調のせいとか年齢的なことで、29試合しか出場できずにシーズンを終わった場合、クラブ側は一方的に彼らに対して“サヨウナラ、お元気で!”という通告をすることができる。つまり、“永久”でも“終身”でもなんでもないのだ。

いま自分が持っているスペイン滞在ビザの名は“永久ビザ”というもの。スペイン語を日本語に直訳するとこういう名となる。だが、実際は“永久”でもなんでもなく、5年ごとに更新しなければいけない。それでも“永久ビザ”と名が付いていることは、たぶんスペイン的感覚なのだろう。これと同じように、彼らの“永久契約”も、スペイン的感覚として受け止めないと誤解のもとになる。

実はバルサでもこの名誉にあずかった選手がいる。複数いたような気もするが、唯一覚えている選手はセルジ。ガスパー会長がバルセロニスタに対し八方美人ぶりを発揮した結果、こういうわけのわからない契約を発表した。だが、その永久選手は翌年にはもうバルサにはいない。バンガールがいらないといったら絶対いらない選手となるわけで、それがじゅうぶんわかっているセルジはAt.マドリへと移籍していく。世の中、エスケロみたいな選手がゴロゴロしているわけではない。

グティに対する“永久契約”はまだおこなわれていない。バルセロニスタとしてはこの選手にこそ、永久にマドリでプレーして欲しいと願うものの、まだその契約は実行に移されていない。レアル・マドリの情報に関しては最も詳しいと思われるアス紙の報道によれば、彼に対する最低試合出場回数が、ラウルやカシージャスより10試合も多い40試合となっていることにより、グティがふてくされているからだという。40試合の公式戦出場、これはグティにとって無理です。美男愛人とキスシーンなどとスキャンダルに騒がれながら、実は男ではなく妹だったというオチがつき“気持ち悪い家族だ!”と、からかわれているグティに愛の手を!

物事がそれなりにうまく運んでいる時には、余計なことをせずにそのままの状態を保っていればいいものを、ソシオからの人気とりに必死なクラブ会長はどうしても八方美人ぶりを発揮してしまう。マドリのガスパーは、宿敵クラブを引き離してダントツ首位という状態に狂喜してしまったのか、こういう願ってもない状況を利用して今回の“El contrato vitalicio”作戦にでた。バルサとのポイント差は9ポイント。それがこの作戦を実行に移してから、気がついてみれば5ポイント差となってしまった。なんだか、向こうから勝手に転び始めているぞ。


良い内容、良い結果
(08/02/22)

“今回のチャンピオンズの新しいルールとして、グループ戦6試合と1/8の2試合の結果を基に、獲得ポイントの多い4チームがシードとなり準々決勝の抽選がおこなわれる。ポイント数は、勝利2ポイント、引き分け1ポイントとして計算され、またシードチームは第一戦がフエラ、第二戦がホームでの試合となる。”
記憶に間違いがなければ、これが去年の夏に流れたチャンピオンズ関連ニュース。チャンピオンズ準々決勝の組み合わせ抽選は、いままでと違いシード抽選となるらしい。だが、これまでのメディアを流し読みした限り、どこもこの新ルールに関して触れていないので、ひょっとしたら“新ルール案”ということだったのかも知れない。でも、もしこれが今シーズンからの新ルールだとしたら、バルサは有利な立場となる。

そう、もし、そうだとしたら・・・グループ戦6試合、1/8戦1試合を消化した現段階で、最高ポイントはバルサとマンUの2チームで、両方とも12ポイントを稼いでいる。バルサの次の試合は地元カンプノウだから負けるわけはなく、したがって最高ポイント獲得チームとなり、対戦相手がどこであれ、準々決勝第二戦を地元で戦える優位さを持つことになる。セルティック・パークでの勝利は単に次のラウンドに進めることを容易にしただけではなく、モスクワ決勝までの道のりをホンワカと明るく照らし出してくれた。

これまでバルデスやミリートが救ってきたバルサを、デランテロたちが救ってくれた。ここ2年間で、最もフットボール選手らしい選手に見えたロナルディーニョはまさに驚きだったし、アーセナル時代に見たことがあるロスカ・ゴールをアンリが見せくれた。そして、エトーもようやく戻ってきたし、100%ではないもののメッシーもそれなりにメッシーらしくなってきた。だが、残念なことが一つ。
「どんな結果で終わろうと、カンプノウでの試合は重要なものとなる。したがって二人に対しては、あえてタルヘッタをもらうような指示は出していない。」
そうニースケンス代理監督が語る一方、メッシーの答えも彼らしいものとなる。
「タルヘッタ?タルヘッタがどうしたって?」
タルヘッタを一枚でももらえば次の試合は不出場となることさえ知らなかったメッシー。次のカンプノウの試合が“難しい”わけがない。準々決勝の試合に備えて、コーチ陣はヤヤとメッシーに指示を出すべきだった。ベニテスやモウリーニョが監督であったら、間違いなく指示をだしていただろうと思われる単純にして重要なこと。

わずか一試合だけの“素晴らしい内容での勝利”をもって、将来を予想することはできない。だが、このチャンピオンズのセルティック戦の勝利は、リーグ優勝に向けての明るい希望だけは感じさせてくれた。レアル・マドリとかミランとは違い、バルサというクラブはリーグ戦を捨ててチャンピオンズに賭け、それを成功させるような才能も歴史も持ったチームではない。それぞれのチームの歴史を見ればわかるように、例えば、バルサの場合、チャンピオンズを征するシーズンはリーグも征している。リーグ戦での好結果がチャンピオンズの戦いに反映され、逆にチャンピオンズでの好結果がリーグ戦に反映されるチーム、それが言い意味でも悪い意味でもバルサだ。

セルティックファンが、これまでセルティック・パークで見たこともないようなスペクタクルなフットボールに出会えた。ベンチに下がるロナルディーニョに対して感謝の拍手。同じようにアンリに対しても向けられた大きな拍手。そして2千人のバルセロニスタがセルティックコールをおこなえば、それに対してバルサコールを大合唱でおくり返すセルティックファン。昔よく見た神宮球場六大学野球のような風景。うん、なかなか素晴らしく良いぞ。
「今からだいぶ昔のこと、ここで我々は国連チームと戦ったんだ。相手は強かった。素晴らしい戦い方をするチームだった。だが、それでも我々は彼らに2点も入れることができたし、わずか1点差という最少得点差で90分間を終えることができた。そう、我々のチームも素晴らしかったんだ。」
今から20年後、この試合を観戦に来ていたセルティックファンが孫を連れてスタジアムに来るたびに、セルティックおじさんはこう語るのであった。

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チャンピオンズ
(08/02/20)

“明日”に何か希望を感じさせてくれる試合内容だったかと言えば、断固としてノー。リーグ優勝の可能性がほんの少しではあれ見られるようになったかと言えば、まさにイエス。リーグ優勝を達成するチームは、試合内容がどうであれポイントを確実に稼いでいく能力を持っていることが、重要な要素となると同時に、勝利が3ポイント、引き分けが1ポイントの世界であり、決して試合内容を何ポイントと審査員が判定する体操のような勝負の世界ではない。と、ある友人がサラゴサ戦を見終わって言っていたが、もしかしたらそのとおりかも知れない。

試合内容の良し悪しが普通は勝負を決めるものの、ひどい内容でも運次第で勝利することができる。試合内容がどんなに優っていても、相手の方に特大の運があって負けてしまうこともあるのだから、こういう勝利は当然の権利として胸を張って威張ることができる。今となっては“美しきフットボール”などと、歯が浮くような表現で過大評価されることが多いクライフバルサだが、伝説のチームとなることを可能とした要因の一つは、クライフやレシャックが持っていた想像を絶するような強運だった。彼らの持つ強烈な幸運なしに、3年連続リーグ最終戦逆転優勝など可能となるわけがない。だから、こういう勝利こそ、まだほんの少しではあれ、リーグ優勝の可能性を感じさせてくれる。宝くじは買った人にのみに当たる権利があるように、幸運は探さないとやって来ない。でも、この試合を見る限り、100枚宝くじを買ったサラゴサの方が外れ、2枚しか買わなかったバルサの方が当たってしまった感じだった。それでも、当たった方が勝ち、誰が何と言おうと勝ち、とは言うものの、本当に、ひどい試合だったのであった。

バルサの幸運は、アホのフアンフランが相手チームにいたからこそやって来た。ミリートを温存したビルバオ戦のように、今回はイニエスタを温存し、“リーグ優勝なんか望んでいません”と言っているかのようなライカー采配であるにもかかわらず、フアンフランが幸運をプレゼントしてくれた。
「ゴールチャンスでも何でもないああいうプレーで、ペナルティーを吹くことはあり得ない。」
試合後にそう語るイルレッタ。だが、ゴールチャンスであろうとなかろうとPKエリア内のハンドは立派なペナルティィィィィィ!!!!! なのだ。そのことは、フットボールに興味ある子供でも知っている。線審がハンドと判定したのだから、自然の法則に従ってPK。もちろん、それが誤審だったかどうか、それはまた別の問題となる。例えば、この試合の2時間前におこなわれたマドリの試合で、ロベンやバンザマンを赤紙一発退場させなかった審判の判断と同じように、それが誤審かどうかは別として、否応なしに受け入れなければならない判断となる。

さて、チャンピオンズ。明日の希望をまったく感じさせてくれないライカーバルサにも、まだチャンピオンズが残っている。いや、チャンピオンズだけではなく、国王杯もリーグ戦も優勝の可能性を残している。とめどもなく指揮能力に限界を感じるコーチ陣。クラック・メッシーの負傷続きと戻ってきてからの不振状態。お国ご奉公に忙しかったエトーとヤヤ。どう考えても下降線をたどっているデコと、ベンチスタートが自然なチャビ。そして負傷から戻ってきたらどうしようもない状態になっているエドゥミルソンなどが作り上げる二流っぽい中盤。では、このチームのメリットはどこにあるのか、それは強固なデフェンサだ。24試合戦ってわずか16失点、この数字が如実にそれを示している。バルデス、カピタンミリート、マルケス、そしてもちろんイニエスタ、この4人がいまだに三つの戦いに残ることを可能にしてくれた選手たち。ひたすら攻撃を!それがバルサのフィロソフィーであるとすれば、残念ながらそのフィロソフィーをかろうじて支えている選手はイニエスタだけであり、残りの三人は守備の選手たち。それが言い意味でも悪い意味でも、そして気に入ろうと気に入るまいと、現在のライカーバルサ。

右サイドでプレーする左足利きのナカムラという選手が攻撃のカギを握っていると、セルティック戦を控えた特集番組で解説者の一人がそう語っていた。フムフム、もしそうであるならば、かつてベニテスがメッシー封じに右足利きの選手を左ラテラルに配置し成功したように、ライカーもサンブロッタを左ラテラルとして起用すべきではないのか。彼にとって自然なポジションであるし、しかも両足を器用に使える選手。だが、大雑把な我らがバルサコーチ陣はそういう些細なことにはこだわらない。理由は知らないものの、そのサンブロッタは招集さえされていない。でも、だいじょうぶ、バルデスが、カピタンミリートが、そしてマルケスが、来シーズンはいない現コーチ陣のマイナス面をカバーしてくれる。しかも相手はセルティックではないか。決して“難しい”試合ではない。カンプノウ・セルティック戦を消化試合としてしまおう。

バモス、バルサ!


ビクトル・フェルナンデス
(02/08/17)

自他共に認めるマドリディスタ、それでも尊敬する監督はヨハン・クライフであり、理想とするチームは“ドリーム・チーム”時代のバルサと言う。そのビクトル・フェルナンデスはいつの間にかサラゴサの監督をクビになっていた。クビになったことは知っていたが、もうとっくのとうに忘れていた。

1990−91シーズンの途中からサラゴサの監督に就任し、スペイン一部リーグの監督としてデビュー。それ以来今日に至るまで、例外なくどこかの一部リーグ(ポルトガルも含めて)で、一シーズンも休まず監督を続けている数少ない“エリート監督”でもある。彼の履歴をのぞくと、オポルトでトヨタカップとスーペルコパ、サラゴサで国王杯とレコパを獲得しているが、個人的に最も印象深いのは何と言ってもレコパ制覇。バルサカンテラ選手だったナジンが劇的なゴール(ポルテロのシーマンのプレーも印象的だったが)を決めて優勝した試合であり、そして同時に、サラゴサクラブ史に残る唯一のヨーロッパタイトル獲得を実現した試合でもあった。この第一次サラゴサ監督時代は、1996年の末に監督更迭となって終了するが、ビクトル・フェルナンデスの“黄金時代”と呼べるのは、1998年から始まる4年間のセルタ時代だろう。別に何のタイトルもとっていない4年間であるものの、魅力的なフットボールを展開していたことを多くの人々が記憶している。モストボイ、カルピン、そしてティアゴのお父さんマジーニョのクラック選手たちが、ハーモニー豊かにプレーしていたシーズンは、“トータル・フットボール”の片鱗を見せていたように思う。

であるにもかかわらず、一度足りとしてバルサの監督候補となったことはないし、スペインのビッグクラブでの監督経験もない。そしてこれからも、ありそうもない。

いつだったか、レアル・マドリが監督候補の一人として、彼の名をあげたことがあった。最終的に落選ということになるが、その理由が“ロッカールーム内を統率する能力に欠ける”というものだったらしい。ビッグクラブを指揮する場合、この能力が不足しているということは、致命的なことなのだろう。想像を絶する高額な年俸をとり、すでに名声を得ているわがままな選手がゴロゴロしているローカールームをまとめることができなかったら、チーム内のバランスが崩れてしまうことは目に見えている。今まで“小さい”クラブしか指揮した経験を持たないビクトル・フェルナンデス、それでもセルタ時代にはモストボイと揉め、今またダレサンドロと衝突していたらしい。もっとも、彼がビッグクラブに招聘されないのはそういう理由だけではなく、何か他にも欠けていることがあるのだろうが、あまり興味がないので追求しない。

してみると、豆腐やコンニャクのように、ウンニャとロッカールーム内をまとめてしまうという評判のライカーは、ああ見えてもビッグクラブでの指揮能力に相応しいものを持った監督となるのだろう。もっとも、先日のバーベキューパーティーの様子をテレビで見た限り、選手たちがまとまっていると言うよりは、むしろバラバラという感じがしないでもないが・・・。まあ、そんな推測は別として、惜しむらくは監督としての才能がチョイと欠けていることか。

賞味期限切れ監督イルレッタが率いる新生サラゴサ。このチームに興味もなければこの試合にもあまり興味はナシ。ひたすらセルティック戦に備え、少しでも気分を良くしてバルセロナに帰還すればよろしい。サラゴサ戦をパスし、やっとそろったバルサ最強11人スタメンでセルティック戦を戦うべし!


ジャーナリズム
(08/02/15)

バルサ2大パンフレットメディアの一つであるエスポーツ紙の低迷化は、とめどもなく進行している。マルカ紙、アス紙いう中央スポーツメディアは、もちろんマドリ系メディアであることを基本とし、アンチバルサという傾向は誰もが否定できないものの、それでもそれぞれ何人かの優秀なジャーナリストを獲得し、内容の充実化を図っている。それに比べ、エスポーツ紙は昨年の秋頃から、わずかに残っていた良心的なジャーナリストの首切り作戦を展開し、さらに“ラポルタ万歳新聞”としての道を走ろうとしているかにみえる。ミケル・リコ、彼はエスポーツ紙の誕生と共に副編集長として良心的なコメントを読者に提供してきたジャーナリスト(と、個人的にはそう思っている。)であり、そして首切り作戦の犠牲者の一人となったジャーナリストでもある。解雇となった去年の年末からいつか触れようと思っていながら、なんとなく面倒くさくて放っておいたミケル・リコ氏の興味深いインタビューを見つけた。

バルサにはリーグ優勝の可能性がまだ残っていると思うか?

その手の質問には罠があることぐらい知っているだろう?可能性があるかと聞かれたら誰もがあると答えるだろう。なぜならポイント的にはまだ可能なのだから。だが、今のバルサの戦いぶりを見れば、優勝なんかできるわけがないというのが現実的な発想。チャンピオンチーム特有の“臭い”さえ感じられない。

サイクルが終わったということか?

ライカーバルサのサイクルはすでに昨シーズンで終わっている。それは火を見るより明らかだ。バルサを構成するすべての人々、つまりラポルタからエスケロまで、すべての人々が短い間の成功の“貯金”で生き続けていることぐらいあなたにもわかるだろう。

いったい、ロナルディーニョには何が起きているのか?外側からはわからない何らかの事情があるのだろうか?

1年半前までのロナルディーニョを個人的に評価するとするならば、彼個人としても予想だにできなかったほどのクラブ貢献をしてきた選手だと思っている。例えばゴール数だけを見てみても、セレソンやフランス時代に、これほどのゴールを入れられる選手だとは誰しもが予想しなかっただろうし、彼もまた予想していなかったと思う。いや、そんなゴール数を見なくても、クラブの持っていた雰囲気をすっかり変えてしまった貢献だけでも、素晴らしいものがあるだろう。だが、残念ながら彼の貢献期間はあまりにも短いものとなってしまった。ここ1年半にわたって、一人のエリートフットボール選手が必要とする最低限の練習内容も時間も放棄してしまった。体に休養を与えるために必要な夜の睡眠も放棄してしまった。いかに天才選手とはいえ、20か月近くの練習放棄は致命的だ。いかに元のような体に戻そうとミニキャンプを張ったところで、あまりにも失われた期間が長すぎた。もし、他のクラブでやり直そうとすればそれなりの、つまりかつての70%ぐらいのロナルディーニョに戻れることは可能かも知れないが、もうバルサではとても不可能だろう。この世界はそれほど甘いものではない。

デコはかつてのような活躍が可能だろうか?

個人的には、ライカーバルサのベースとなる重要な選手だと今でも思っている。だが、彼の最大のネックは、常にプライベートの問題なんだ。奥さんとの離婚問題、女性問題、新しい奥さんとの問題、そして子供たちの健康問題。それらのプライベートの問題に加え、何か月前からか来ているあるクラブからの美味しいオファー。もし、彼がタイトルに飢えたかつてのデコであり続けるなら、バルサでの復活も可能だろう。だが、いずれにしてもフットボールに集中することを邪魔する多くの問題をいまだに抱えているようだ。

アーセナルでのアンリを我々は見ることができるだろうか?

彼の入団の理由は純粋なフットボール的な要素というよりは、かつてのフロレンティーノが試みた“ガラクティコ”作戦の物まねに過ぎないことは、現場で働いているジャーナリストなら誰でも知っていることだろう。バルサ公式によれば常に負傷中であり、その負傷から解放されればという希望をソシオにメッセージしているが、アーセナル時代のアンリとして期待することは個人的には不可能なことだと思う。

カタランメディアはジョバニをボージャンと同じように高く評価しているが?

今シーズンが終了すると同時に、クラブは彼を売ることを考えている。そんな選手を低く評価できると思うか?

モウリーニョがバルサに来る可能性はあると思うか?

もし、クライフが反対することでそれが実現しなかったとしたら、バルサというクラブにとって大きな傷跡を残すことになるだろう。そして、もし彼が来るようなことになったら、今とは比べものにならないほどのメディア間の“戦争”が開始されるだろう。バンガール時代のこともあるし、チェルシー時代のこともある。彼とうまくいっていないジャーナリストは数え切れないほどバルセロナにいる。それでも、個人的には彼がバルサに入団しても何の問題もないと思っている。重要なのは、モウリーニョは誰しもが思っているように素晴らしい監督であり、タイトル獲得を約束してくれる数少ない監督だ。しかも、オランダ人監督傾向から抜け出す一つのチャンスであるかも知れない。

クライフの影響力というのは実際にあるのか?

つい最近のラポルタの発言でも、チキ、ライカー、クライフ、そして会長自ら会合を持っていることを認めている。したがって、クラブ内の人物としてクラブ名簿には掲載されていないものの、外部から大きな影響力を持つ人物であることは、誰もが否定できない事実。投票権さえ持っていないが、影響力のある意見を持った人物であり、当然ながら現在のラポルタ政権にあって重要人物の一人であることにはかわりない。

サンドロ・ルセーは会長選挙に出馬すると思うか?

100%間違いない。

エスポーツ紙をクビになった理由は?

経費の削減がその理由。なぜ経費を削減する必要が生じたのか。それは売れ行きがメッキリと落ち込んでいること。なにゆえ売れ行きが落ちてしまったのか。それはカタルーニャ2大スポーツ紙を脅かす“無料新聞”の拡大・拡張が進んだからであり、そしてインターネットの普及が進んできたからだ。だが、私の解雇の理由はそれらの問題とは無関係であることは、多くの人が知っているだろう。ラポルタ御用新聞として提灯記事を書くことを拒否したからだ。

なにゆえ、カタルーニャの2大スポーツ紙が、これまでの歴史をみないほどくっきりと二つに分かれてしまったのか。例えば、エスポーツ紙はラポルタ万歳、クライフ万歳、エトー万歳、アンリ万歳、そしてアンチ・ロナルディーニョ、アンチ・デコ、アンチ・エドゥミルソン。一方のムンド・デポルティーボ紙といえばまったくその逆を行っており、ルセー万歳、ロナルディーニョ万歳、そしてアンチ・エトー。なんでこういうことになってしまったのか?

大企業のスポンサー化が進む前では、こんなことにはならなかった。近代のジャーナリズムが抱える大問題は、このスポンサー問題抜きにして語ることはできないだろう。有名人選手やクラブ関係者が契約しているスポーツ用品企業、その他の企業、そしてスポーツ新聞社が提携している同じような企業との関係。そしてその各新聞社の親元となる大企業が抱えるスポンサー企業との関係。まことにもって複雑にして魑魅魍魎とした世界になっている。残念なことに、現場で働くジャーナリストだけではなく、編集長とか副編集長でさえ、この関係から逃れることはできない。それでも、良心的なジャーナリズムが死ぬことはないだろうと楽観的に考えている。正しい報道に命をかけているジャーナリストは、何らかの方法で生き延びていくだろう。しかも、読者はバカではない。バルサのソシオやシンパたちをだまし続けることはできない。


カーニバルと携帯
(08/02/13)

2月のバルセロナはカーニバルと携帯見本市で賑わう。スペイン国内での“カーニバル本場”は何と言ってもテネリフェだが、バルセロナでもそれなりのカーニバル風景に遭遇することができる。フランコ独裁政権時代には禁止されていたものの、1980年代の後半あたりからバルセロナの街にも復活。だが、3、4年するとショボンとしたお祭りになっていた。再び賑やかな風景を見せ始めたのはここ4、5年のことだと思う。個性豊かな衣装を身につけた人々がパレード行進し、そして夜ともなれば、多くのディスコでその続きがおこなわれる。もちろん、ブラジル人にとっては特別な日々。

かつて、バルセロナで仕事をしていたロナルドというブラジル人は、忙しい仕事のスケジュールの合間を縫ってリオに自家用飛行機で飛び、カーニバルを楽しんでしまったことで問題になったことがある。だが、厳しい毎日を送っている我らがR10はそんなことはできないので、本場を知っている彼にとってはいかにもセコイ感じのするカーニバルとはいえ、仕事場となっている街で楽しむしかない。

日曜日のオサスナ戦試合終了後、我らがR10はさっそくカーニバル衣装を身につけ、バルセロナのディスコで朝まで楽しんでいる。4人も5人も、ゴリラみたいな私設ガードマンが常に彼の周りにいるから、当然ながら目立ってしまう。カーニバルに時間制限などないが、それでもディスコは早朝の6時に閉まってしまう。閉店と共に何処とも知れず消えていくR10グループ。翌日月曜日の夜、彼らは場所を変え、ガバとカステルデフェルスの街にあるディスコへ。ここではサンバパーティーでカーニバルを楽しんでいる。友人のサンバグループに混じってボンゴを叩いて観客から拍手を浴びる我らがR10。このパーティーもまた火曜日の朝まで続くことになる。何たって、カーニバルなのだ、こまかいことを言ってはいけない。カンプノウにあるジムで昼寝をしたあと、再びカーニバルは続く。火曜日の夜、今度はゲイとアートの街で知られるシッチェスに出没。この街にある収容人員3千人というバカでかいディスコで、グデングデンに酔っぱらいながら踊りまくりカーニバルを楽しんだ我らがR10御一行は、カーニバル最後の日となる翌日水曜日の夜もしっかりとフィーバーしたという。練習?そんなものは我らがR10に必要はない。心の底からブラジル人した彼は、スッキリとした気分で土曜日の試合にのぞむことができた。

カーニバルが終わるとスペイン広場を会場として、世界最大の携帯見本市が11日から14日の間まで開催されている。世界各国から何十万人も集まってくるといわれる見本市だから、どこのホテルも超満員。

1982年に開催されたスペインワールドカップ。まだメディア化が進んでいない時代のワールドカップであり、入場チケットはそこら辺にあるキオスコでも前売り券が売られていた。大勢のフットボールファンがやって来ることを予想したホテル業者は、普段より数倍の料金を設定。だが、そのあまりにも高い宿泊料に驚いたフットボールファンの多くは、グラウンド観戦をあきらめテレビ観戦としたため、ホテル業界は大きな打撃を受けてしまった。それから10年後、その反省感がまだ残っている時期に開催された1992年バルセロナオリンピック。各ホテルはそれなりの一時的値上げをするものの、ワールドカップ期間のそれより非常に穏やかなものとなった。もちろん、オリンピックが開催されていた1か月間、バルセロナのホテルは超満員となる。

今は2008年。多くのホテル関係業者がその反省の色を失ってしまっている。携帯見本市の期間中、3つ星、4つ星ホテルの一室料金は700ユーロ即払い条件付き。普段は120ユーロ程度の部屋が700ユーロ、高いところでは1000ユーロもとっている。もしこのような状態が毎年繰り返されることになれば、見本市会場を他の国の街に持って行かれることを、いまだに気がつかないバルセロナ観光局局長ガスパー元バルサ会長。過去の過ちをアッという間に忘れてしまうラテン人。反省と、その反省を継続させることは大事だ、と、エドゥミルソンあたりが言いそうな言葉。とは言うものの、良いなあホテル業者は儲かって・・・。


いざ、勝負!
(08/02/10)

エトー、ヤヤ、デコ、サンブロッタ、ボージャン、シルビーニョ、プジョー、エスケロ、ジョルケラ、とまあ、それぞれ事情が異なるものの、大事なセビージャ戦を前にして、その試合に起用できない選手がゴソッといるもんだ。とは言っても、こんなことを理由に「普段以上に難しい」試合として、言い訳の材料とすることはできない。素晴らしい選手、良い選手、それなりの選手と、22人のメンバーにはそれぞれ違いがあるとは言うものの、この試合に起用できる選手たちもそれほど捨てたもんじゃない。それどころか、いかにセビージャが相手とはいえ、じゅうぶん勝利できる内容の選手たちがそろっている。

ジェットラグに苦しんでいるであろうマルケスは決してスタメンで起用すべきではない。これまでの彼の負傷原因を顧みれば、常に長距離移動をしたあとの試合で倒れることが多い。2か月以上試合に出場していないハンディがあるとはいえ、守備的にはサンブロッタやプジョーと比べてドデカイ差があるわけではないオラゲール。たて続けに試合出場しているトゥランとはいえ、もともとフィジカル面で勝負する選手ではなくポジショニングと経験で仕事をこなす選手だ。エドゥミルソンも久しぶりの試合出場となるが、練習に戻ってきてから数週間たっているので心配の材料とはならない。デコの代わりはマイナス面よりプラス面が多いグジョンセンが立派に役目を果たすだろう。イニエスタ、アンリ、メッシーというデランテロ組も超一流であり、何よりも1週間の休養期間を得たメッシーに大きな期待と希望が寄せられる。

欠場者の多いことから生じる“問題”となる試合というよりは、ライカーバルサにとって、これ以上は望めないほどの期待の大きい試合となった。オサスナ戦でかろうじて見せた“勝利に向けたハングリー精神”が本物であるかどうか、ライカーを中心とするコーチングスタッフに起こりつつあるメンタル面の変化が本物であるかどうか、そしてタイトル獲得に向けた意欲が本当に回復しつつあるのかどうか、それはすべてこのセビージャ戦で明らかになる。もし勝利することができたなら、翌日のマドリの試合結果とは関係なく、リーグ制覇に向けた候補チームの一つとして名乗り出ることになる。
バモス、バルサ!

理想的なスタメン11人


前半戦での各選手総括(下)
(08/02/09)

トゥレ・ヤヤ
ほとんど見たことがなかった選手ながら、バルサで2、3試合みただけで超ヒット商品と認定。ライカーバルサのピボッテはボール配球係というよりは、第三のセントラルとしての意味合いが強い。その意味でほぼ完璧に仕事をこなしている。それでも、以前いたクラブでの試合をビデオで見たり、今回のアフリカ・カップを見る限り、彼はピボッテとしてではなく、インテリオールとして起用したい気がする。大事な試合、一発勝負の試合には、ピボッテであれインテリオールであれ、起用場所に関係なく絶対欠かせないスタメン選手。

エドゥミルソン
何やらグランド内よりグランド外で活躍するシーズンをおくっているエドゥミルソンだが、それもこれも負傷グセがついているから仕方がない。長期負傷して戻ってきたかと思えばすぐに負傷し、1月には再びドクター許可が下りたにもかかわらず、これまで出番が与えられていない。ヤヤの不在期間にはもっと出番がやって来るかと思ったが、それでもやってこなかった。これからのシーズン後半戦に主役の一人になるとはとても思えない。そして、彼もまた今シーズンをもって契約切れ。
グラシアス、そしてスエルテ!

チャビ
先月このコーナーで、チャビに関して次のように書いている。
“中盤でのフィジカルな戦いが必要とされるフエラでの難しい試合や、チャンピオンズでの大事な一発勝負の試合には向いていない。すでに勝負が決まり試合そのものを“殺す”必要が生じた後半20分あたりからの出場が理想的な選手。”
その発想は、オサスナ戦で劇的なゴールを決めたあとでも変わっていない。例年のシーズン以上に“火花’が見られず、ボールに追いつくのにいつも1秒遅く、相変わらず足を突っ込まない悲惨なシーズンをおくっていると言って良い。10年間にわたる絶対スタメンというプレッシャーが重たく襲ってきたのか、あるいは“定番選手”としてリラックスしすぎてしまったのかも知れない。新たなサイクル作りに、間接的に協力していく貴重な存在。

デコ
相変わらずグランドを離れたところで賑やかな話題を提供してくれる“見本とならない”選手だが、シーズン開始当初はデコらしいところを見せていた。上昇気流に乗ってかつてのように大活躍するかと思われたところで負傷し、リハビリ終了後にはなかなか上昇気流に乗れないでいる。これまでの彼の平均した調子は、奪われたボールの数が奪ったそれより圧倒的に多いことからもわかるように、決して納得できるものではない。とは言っても、R10とは違い、時間の経過と共に本来の彼の調子に戻る可能性も秘めているし、後半戦に向けての重要な選手となるかも知れない。2010年までの契約があるとはいえ、もし補強選手獲得資金の補助となるような美味しいオファーが来たとしたら、貴重な売り商品となっても致し方ない。
セビージャのポウルセンを希望!

グジョンセン
まったくもって不遇な扱いを受けている選手というイメージが大きい。デランテロとしてではなく、セントロカンピスタとしてのセンスを持っていることを、クラシコ戦数週間前から示してきたにもかかわらず、そのクラシコ戦から理由もわからないまま再び出場機会が与えられなくなってきてしまった。セントロカンピスタの数が少ない現在のライカーバルサにあって、貴重な選手とはいうものの、これからも出番が急激に増えることはないだろう。シーズン終了後、良いオファーが来ればクラブを去るも良し、もし残るとすれば貴重な控え選手の一人となるかも知れない。

イニエスタ
バルデス、ミリートと共に、ライカーバルサをどうにかこうにか支えてきた中心人物。左サイドデランテロとしては誰よりも機能することを示してきたし、もちろんインテリオール選手としても完成度の高さを証明してきている。残りのシーズンはもとより、来シーズンからの新たなサイクル形成に向けた中心選手となる。メッシーと共に、2014年6月30日までの長期契約を持つ。

ジョバニ
残りのシーズンにどれだけ重要な存在となるのか、あるいは来シーズンからの新たなサイクル形成に必要な選手なのかどうか、そこら辺はわからないものの、これまでのところでは予想以上の活躍を見せている。彼個人としてはゴールをぶち込める頻度の高い右サイドがいいのかも知れないが、チームの一つの駒として考えた場合、ジョバニの適切なポジションは左サイド。これまですべてのバルサインフェリオールカテゴリーチームで示してきたように、彼はゴレアドールではなく最後のパスを得意とするタイプの選手。そしてバルサB以外、すべてのカテゴリーで左サイドを担当してきている。彼の違約金は3千万ユーロ。もしそれに近いオファーがあれば今が売り時。

アンリ
半年近く試合出場していなかったことを考慮に入れたとしても、これまでのプレー内容には、個人的には少々残念な感じがする。システムの違い、プレーポジションの違いと、彼には同情の余地があるとはいえ、これまで移籍金に見合った活躍は見せていない。唯一の救いは、ボージャンとの絶妙といって良い雰囲気のコンビを見せてくれていることか。それでも、チームに慣れてくるであろう後半戦には期待をしてみたくなる選手でもある。できることなら、週1回の出場が理想的。

ロナルディーニョ
ゼロ。限りなくマイナスに近いゼロ。これだけ飛び抜けた才能を持ち、メディア的にもスポットライトを浴びる素材を持ち、そして多くのファンからも温かい目で見守られてきた選手でありながら、1年半にもわたって満足な練習をしてこなかったという致命的な過ちを犯してきたが故に、シーズン途中での2回にわたるミニキャンプぐらいではかつてのR10に戻るわけがない。彼の過ちは、同時にソシオの重要な財産をしっかりと管理しなければならなかった指導者の過ちでもある。カンプノウ敷地内にR10銅像を建て、クラブ金庫内を暖めてもらったあとに、スエルテ!そしてグラシアス!

メッシー
シーズン残りの試合はもちろん、来シーズンからの中心人物とならなければならない貴重なソシオの財産。毎シーズンのことながら、負傷が彼の最大の敵であり、それを認識した上で、コーチングスタッフは彼の起用方法を考えるべきだろう。週2回の試合では必ず2試合目に消えてしまうことは、これまでに証明されているし、負傷するパーセンテージも増えることになるのは明らかだ。

エスケロ
今シーズンも残ることになるとは予想する人も少なかったし、まして冬以降も残ることになるとは多くの人が予想だしていなかった。リーグ戦1試合出場、国王杯1試合出場、それでもエスケロはバルサに残ることを決めたようだ。すべての試合が重要なものとなる後半戦に彼の出番はまったくない。それはファンも知っているし当人も知っているはず。それなのになにゆえバルサに残るのか。リーグ戦順位中盤をいくチームならスタメンで出場する実力を持つ選手だけに惜しい気がする。今シーズンで契約が切れ、クラブの裏口から去ることになる。

エトー
国王杯制覇とチャンピオンズ制覇に向けて、ライカーバルサの主役中の主役とならなければならない選手。バルデス、ミリートと共に、来シーズンからのカピタンに!

ボージャン
負傷者と調整不足のデランテロが続出したことにより、想像以上の出場機会に恵まれたシーズン前半。個人的には、後半20分程度からの出場が続くことが理想的だと思っていたが、予想以上にプレー時間が長くなっている。常にサイドに置かれるという、彼としては不慣れな位置での起用をされているが、それでも17歳とは思えない活躍を見せていると断言して良いだろう。これから短くても10年は、バルサの顔の一人としてクラブに君臨していくであろう“今日のキラキラ星”選手となった。


前半戦での各選手総括(上)
(08/02/08)

8年間にわたりバルサの監督を務めたヨハン・クライフは、翌シーズンに向けたプランニングは2月頃からおこなっていたと語っている。その彼の子分であり、親分のフィロソフィーに忠実なチキ・ベギリスタインも、アビダル、ミリート、ヤヤ、アンリなどの獲得構想は昨年の2月からスタートしたと語っている。そして今はその2月。すでに来シーズンに向けたチーム構想が練られているのは間違いない。100%の保証を持って語られることを誰一人としてできないものの、ライカーと彼の信頼するコーチングスタッフたちは、来シーズンいない可能性は大だし、当然ながら、何人かの選手がクラブを離れ、そして何人かの選手がクラブにやって来る。来シーズンからの新たなサイクルの形成に向けて中心となる選手たち、つまりバルデス、アビダル、ミリート、マルケス、ヤヤ、イニエスタ、メッシー、エトー、ボージャンたち、そして今シーズンをもってクラブを離れることになるであろう選手も含めて、ここら辺で前半戦での各選手独断総括。

バルデス
ミリート、イニエスタと共に、これまで最も安定した活躍を見せている選手。クライフが評価するような、カシージャスと並ぶ実力を持った選手かどうかは別として、すでにスビサレッタの域は越えているだろう。決勝ゴールを決めたベレッティがパリでの英雄となるのはフットボール界の運命なれど、あの試合でのバルデスの活躍は五つ星と言っていい。今シーズンだけではなく、すでに何シーズンも前から彼の活躍が評価されても良いにもかかわらず、バルデスならではの、あの生意気そうなイメージがマイナス材料となっている。だが、それでも、来シーズンからはカピタン候補の一人に推薦!

サンブロッタ
お世辞にも褒めることができないシーズンスタートを切った選手とはいうものの、試合出場の継続性を勝ち取っていくごとに安定感がでてきている。バルサの選手として相応しいテクニックを持ち合わせていることにはかわりはないないものの、テクニックよりはフィジカルを武器とする選手は、バルサにやって来て必ず調子を落とすことがあるが、サンブロッタもその一人。だが、それでもチームが必要とする場合には、それにじゅうぶん応える仕事を達成している。2010年までの契約が残っているが、果たしてミランに移籍することになるのかどうか。美味しいオファーが来れば売るも良し、もし契約を全うするのであればそれも良し。

オラゲール
負傷に泣くシーズンをおくっているが、もともと絶対のスタメン選手でもない。ここ何シーズンか出番が多かったのは負傷選手が多かったからで、もしそのようなチーム事情がなければ、これほどの出場回数は与えられなかっただろう。そうとは言え、監督の期待に最低限応える活躍を見せてきたことも確かであり、その意味では貴重な控え選手となっていた。サンブロッタが来シーズンも残ることになり、セントラルがさらに補強されることになれば、クラブを去ることになるだろうと予想。

マルケス
毎シーズン繰り返していることだが、今シーズンも軽いものだったとはいえ、何回か負傷している。それでもセントラルとピボッテ役をこなせる貴重な選手であり、特にミリートとのセントラルコンビは、現在のバルサセントラルの中では最高の組み合わせと言える。今月で29歳となる選手ながら、バルサにとってあと2年間は必要な選手。今シーズンの終了時にはAt.マドリからのオファーが来そうな雰囲気だが、クラブは彼は移籍させるべきではないだろう。バルサBでプレーしているバリエンテが、“オー・マイ・師匠”として学んでいかなければならない鏡のような選手。

プジョー
これまでのすべてのシーズンと同じように、エリート界における一人のプロ選手としての見本のような存在。それは100%の力を出し切っての練習態度や、常に集中力をもってのぞむプレー態度で確認することができる。だが、務めるポジションがセントラルであれラテラルであれ、明らかに下降ラインをたどっていることは否定できない。それが年齢的なものによるフィジカルの低下からなのか、あるいはメンタル的に疲労しているのか、そこら辺はわからないものの、今まで“コンクリート壁”であったものが“レンガ壁”になったようであり、そして走力も劣ってきているのがはっきりとわかる。それでもリーグ戦後半の逆襲劇には欠かせない選手であることも確か。

トゥラン
出番が多いとは決して言えないシーズン前半だったが、必要に応じてかり出されるとそれなりの仕事をしてしまうのだから、やはりトゥランはトゥランなのだ。瞬時のスピードの衰えをポジショニングでカバーしている超ベテラン選手。だが、やはり、これといった大勝負や一発勝負の試合には向いていない。他の選手を適当に休ませることが必要な場面で登場し、最低限の仕事をこなす貴重な選手。チーム内五本指に入る高額所得者である彼は、今シーズン限りで契約が切れる。したがって、もちろん来シーズンには彼の姿はカンプノウでは見られない。そして彼のかわりにカンプノウにやって来るのはバルサ顔のガライ。
グラシアス、そしてスエルテ!

ミリート
トゥレ・ヤヤと並んで今シーズン補強選手の中での最高ヒット商品。パス能力が中級程度であるにもかかわらず、それを補う素晴らしい素材が多い。ポジショニング、マーキング、ボール奪取能力、そして完璧な集中力。プジョーの全盛期を思い出させるような内容であり、そして強烈なキャラクターも貴重品だ。近い将来、それもかなり近い将来、プジョーにかわるカピタン候補ナンバーワン。新しいサイクルが誕生するであろう来シーズンからのバルサデフェンサの要として中心となる選手であり、そしてその前に、残りのシーズンの試合での守備の要としてとてつもなく重要な人物。
ミリートをカピタンに!

アビダル
かつてのボハルデがそうであったように、そしてバンボメルなどもそうであったように、バルサにやって来たばかりのフィジカル面を特徴とする選手は、シーズンが煮詰まってくると同時にフィジカル面に問題を起こしていく。アビダルもその典型的な一人だ。それまで在籍していたクラブとの練習メニューの違いからくる現象のようだが、それでも実力を持った選手はその障害を自ら乗り越えていく。スーパーアビダルとしてデビューした彼が一時的に落ち込んでいたものの、最近はそれなりに調子を取り戻してきている。残る課題は攻撃参加、だが守備面ではまったく問題はない。

シルビーニョ
どうでもいいことながら、個人的にはセルタ時代から非常に気に入っている選手。一度でも彼の練習風景を見たなら、他の誰よりも真剣に打ち込んでいる選手であることに気がつくだろう。あくまでもテクニシャンで攻撃参加が好きなブラジルラテラル選手の代表の一人だが、かつてのベレッティと同じように、あまりにも大きなスペースを後方に残してしまう。それが許される選手は、つまりそれでもお釣りがくるほどの選手は、かつてのロベルト・カルロスとセビージャのアルベスぐらいのものだろう。今シーズンで契約切れとなるシルビーニョに契約更新は訪れない。
グラシアス、そしてスエルテ!


ボージャン、17歳と5か月
(08/02/06)

コスタ・デル・ソルにある避暑地マラガで水曜日におこなわれるスペイン代表とフランス代表の親善試合。この試合にバルサインフェリオールカテゴリーで育った選手が6人も招集されている。レイナ、ナバーロ、チャビ、イニエスタ、セスク、そしてボージャン。ポルテロ、デフェンサ、セントロカンピスタ、そしてデランテロとバランスのとれた6人組。代表招集常連組の一人となっているプジョーは負傷のため呼ばれていないが、もし彼が健康体だったら合計7人となっていたし、世間一般常識によれば、招集されてしかるべきバルデスを含めれば8人ともなる。それでも、オラゲールは当然ながら呼ばれることはないから9人となることはない。また、今回の代表選手の中に顔を出しているグイサという選手も。実は2003年1月から半年だけバルサBでプレーしているが、もちろんバルサカンテラ育ちとは言えないので除外。ちなみに、半年間だけしか見たことがないものの、それにしてもひどい選手だった。

これまでのスペイン代表戦出場最年少記録は70年ほど前に作られたようで、17歳と9か月で出場したナントカという選手が持っていたらしい。これは、あまりにも時代背景が異なりすぎるから無視するとして、近代では2006年に記録された18歳と10か月のセスク・ファブレガスが最年少だという。してみると、ボージャンの17歳5か月という記録の凄さがわかるというものだ。そのボージャンは、余程のことがない限りこの試合に出場することになる。なぜなら“出場させるため”に招集された選手だからだ。

もし彼の父親がセルビア人でなければ、まだ代表に招集されていなかったかも知れない。このまま素直に成長してさえいけば、いつか必ずスペイン代表選手として招集される日が来るのは間違いないとして、父親がスペイン人であったとしたら、今の段階では招集されていなかったかも知れない。どこの代表チームでもそうであるように、そして特にスペイン代表には歴史的にゴレアドールがいない。まだ17歳という年齢で、U21代表を含めたすべてのインフェリオールカテゴリーの代表に選出されているボージャンを、スペインは逃がしたくないのは当然だろう。セルビア代表から招集があっても行かないと、彼自身はこれまで何回も語ってきているものの、他人から見ればその保証はないわけで、早いところスペイン代表に招集し出場させてしまえば、その心配は無用ということになる。したがって、ボージャンは体が動きさえすれば、この試合に無理矢理にでも出場させられることになる。そしてグランドに姿をあらわした瞬間、17歳5か月最年少記録が達成される。だがこんな記録は、これから彼がいろいろ作っていくであろうものに比べれば、他愛のないものかも知れない。

フラン・ライカーはデランテロの3つのポジション、つまり左・右・真ん中と、まるでボージャンの目が回ってしまうのではないかと思うほど移動させて起用しているが、つまるところ彼は決して右サイドの選手ではない。右サイドよりは効率的に働けるとしても、やはり左サイドの選手でもない。彼の良さが100%発揮できるポジションはサイドではなく、プンタとしての真ん中のポジションにある。
「彼をサイドのデランテロとしてではなく、9番として起用しいきたいと思う。」
と、正しくもかつてのバルサ監督・現スペイン代表監督が語っているが、それはまったくもって正しい。

予想以上に、そして必要以上に、バルサの試合にかり出されている気がしなでもない。諸処の事情が生んだたまものであるとはいうものの、非常に試合出場数が多い。もしスペインの普通の17歳の若手選手に、これだけのプレッシャーを与えたとしたら、つぶれてしまう危険性さえあるだろう。だが、幸運ながら、彼はそんな心配をよそに普通の17歳の若手選手ではないことを証明しつつある。プレッシャーなど屁のカッパとばかり、それなりの期待に応えた仕事をしているのは誰しもが認めるところだろう。ゴレアドールとして必要な“自己主張”を適度に持っているのはもちろん、ゴールしやすい位置にいる選手への的確なパス能力とインテリジェンスも持っている。そのバランスの良さが彼の魅力の一つだろう。

今から2年前の2月、つまり彼が15歳の時、フベニルBチームでプレーしている。このシーズンはカデッテA選手登録でスタートし、シーズン終了時にはフベニルA選手となっていた。そして今から1年前の2月、彼はバルサBでプレーしている。フベニルA選手登録でスタートし、冬にはすでにバルサBの選手となり、シーズン終了後はライカーバルサの一員としてエジプト遠征までおこなっている。バルサB選手登録でスタートした今シーズンも、スタート時からライカーバルサ選手となり、そして半年後にはスペイン代表選手、こんな非常識とも思える超がつくスピードで登り詰めている17歳と5か月のボージャン。デビューついでに代表初ゴールも決めてしまおう。

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ライカーバルサ2007年(10−12月)
(08/02/04)

■2007年10月■

ここのところ苦手とするAt.マドリに勝利したりと、地元での試合では圧倒的な強さを発揮するバルサだが、フエラの試合にはなかなか勝利できない。10月20日、フエラのビジャレアル戦で今シーズン初の敗北と共にデコが負傷してしまう。試合内容は9月のそれと変化は見られず、スッキリしない状態が続き、しかも第一次ミニキャンプから戻ってきたロナルディーニョに、その成果があらわれているわけでもなかった。いつの間にか90分間プレーすることは珍しくなり、試合途中でベンチに下がる光景が普通となりつつあった。もちろん心配事はロナルディーニョの“不振”やデコの負傷だけではない。4か月という長期負傷から戻ってきたプジョーに、明らかな衰えが見え始めた。カンテラ組の中で頑張っているメッシー、イニエスタ、バルデスという三人に対し、“不振”のチャビと衰えを見せ始めたプジョーを心配するバルセロニスタ。だが、そんな雰囲気のなか、17歳のボージャンと18歳のジョバニが徐々に参加してくる。とてつもなく明るい話題。

クラブ史上最優秀の選手が集まっていると言ってもいいチームでありながら、相変わらずスッキリしない戦いをしている。その責任は、あくまでもグラウンドでプレーする選手たちにあると主張し続けるラポルタ。チーム事情に関してはいっさい口を出さない彼だが、プラティニとかブラッターなどというUEFA関係者との接触が目に見えて増えてきている。代表に貸し出す選手への貸出料を要求したり、G14組織を解体し、新たな組織作りを目指す地下運動を始めるのもこの頃だ。そして、まるで“ユネスコ大使”のように、アフリカ各地に生きる貧しい子供たちへの救済活動が目立つようになる。2010年に会長職から去ることになる彼だが、すでにUEFA内でのポジション確立や、政治家への変身活動のスタートが開始されているようだ。

■2007年11月■

カタルーニャ地元テレビ局によるエドゥミルソン・インタビュー番組がメディアを騒がせる11月。
「チーム内にプロ精神に欠けた選手がいる。」
簡単にまとめてしまうと、この言葉に尽きるインタビュー番組。その後、“黒い羊”騒動として語られることになる。彼の正しき発言を聞くまでもなく、昨シーズンと同じように、プロ精神に欠けた選手が何人かいることは、すでに明らかだった。グジョンセン発言を批判し、多くのバルセロニスタからひんしゅくを買ったチャビはメディアの前から姿を消し、こういう時にこそ顔を出さなければならないカピタン・プジョーは逃げまくっていた。エドゥミルソン爆弾発言の翌日におこなわれた“注目の記者会見場”に姿をあらわしたのは、何とイニエスタ一人だった。

9月の末にレバンテ相手のフエラの試合に勝利して以来、相変わらずカンプノウ以外のスタジアムでは勝利できないライカーバルサ。試合内容も決して褒められたものとはなっていない。だが、ここで思い出させるのは、チームがうまく機能するヒントが9月の段階で見られたことだ。9月19日リヨン戦後半20分、ロナルディーニョに代わりイニエスタが同じポジションにつく。そしてその後のセビージャ戦、サラゴサ戦、レバンテ戦と一つのスタイルができあがり、チームが一体となってスムーズに機能し始めたかのようだった。だが、ロナルディーニョの“負傷”が完治すると共に、マルケス、ヤヤ、サンブロッタ、デコという選手が負傷してしまう。イニエスタをピボッテに置くという苦肉の策をとりながら、そして大いなる苦戦を強いられながら、徐々に負傷者たちが戻ってきた。ここでも単純に考えれば、リヨン戦以降の機能するバルサに戻れるはずだった。だが、ライカーは再びロナルディーニョを起用し始めてしまった。
「何らかの理由でうまく機能していない選手が何人かいる。もうそろそろドラマチックな変化を試す時期が来たのだろうと思う。」
ヘタフェ戦での惨めな敗北の後、フラン・ライカー監督が記者会見でそう語る。橋を叩いても渡ろうとしないこの慎重監督に、果たしてドラマチックな変化が望めるのだろうか?その答えが出たのが11月27日のリヨン戦だった。ロナルディーニョをベンチに置き、イニエスタを再び左エストレーモとして起用し、理由もなく干されていたグジョンセンをスタメンとして配置した。結果的には引き分けになったものの、希望を感じさせる試合内容となった。さて、来月はクラシコだ!

■2007年12月■

フエラのダービー戦で引き分け、そしてカンプノウでコルーニャをやぶり、苦手とするフエラの試合でバレンシアと対戦。クラシコを翌週に控えた重要な試合であり、もし敗れるようなことがあると首位マドリとの差が7ポイント差(もちろんマドリが勝利したとして)となってしまう。4ポイント差のままでクラシコを迎えるか7ポイントという大きな差を持ってマドリを迎えるか、クラシコの戦いを楽しみにしているバルセロニスタには重要な試合だった。そしてこの試合で、最終的にバルセロニスタからの信頼を取り戻すことに成功したかのような、勇気あるライカーの決断が見られる。再びロナルディーニョをベンチに置き、左エストレーモにイニエスタを起用したのだ。3日前に戦われたチャンピオンズの試合で活躍を見せたグジョンセンもスタメンに顔を出していた。復帰してきたエトーもなかなかの好調ぶりを見せてくれ、結果は0−3でバルサの勝利。不調のバレンシアが相手とはいえ、試合内容も納得できるものだった。この試合でのメッシーの負傷に大ショックを受けながらも、1週間後のクラシコへの期待に熱い魂がメラメラと燃えるバルセロニスタ。そして12月23日、待望のクラシコがやって来る。マドリとの差が1ポイントだけとなり、2008年の戦いに大いに希望を持たせるものとなるはずだった。

試合後三日間ぐらい立ち上がれない状態にしてくれた、これまで見てきたカンプノウ・クラシコの中で最もショッキングな試合。そもそも、試合開始25分前から始められた練習で、いつにも増してチンタラチンタラとおふざけ気分のロナルディーニョの練習風景を見たときから嫌な予感がしていた。だが、もちろん、彼一人のせいでクラシコ敗戦となったわけではない。ライカー監督を中心とするコーチングスタッフ、そしてすべての選手たち、ついでに言うなら、ソシオを代表する背広組のクラブ最高責任者たちにも責任がある。メディアチックではないものの好調を保っていた選手ではなく、メディアによって騒がれる“名のある選手”を優先して起用したライカー監督。一つの決断といってしまえばそれまでだが、結果的にその“名のある選手”たちは、監督の期待に応えることができなかった。これまでライカーバルサを支えてきた“名のある選手”たちと、ライカー監督自身のサイクルが終焉を見たと言える。

このシーズン終了と時期を同じくして、ロナルディーニョやデコ、そしてライカーのサイクルが終了する。バルセロニスタに多くの希望と喜びを与えてくれたこれらの人々が、いつかはクラブを去ることになるのは歴史の運命でもある。彼らに残された期間は半年。まだまだバルサの選手として、一つの輝かしい歴史を作れる可能性が秘められた半年。カンプノウ・クラシコに敗戦したからといってすべてが終わったわけではない。ラ・ビダ・シゲ、そう、まだ何らかの可能性を秘めた2008年がやって来る。と、そうでも思わなきゃ、とてもとても・・・辛い半年間となります。


ライカーバルサ2007年(7−9月)
(08/02/03)

■2007年7月■

大失敗と言っていいシーズンが終了してから、ラポルタはすぐに記者会見を招集している。もちろんクラブ最高責任者である会長として、この大失敗の巻となったシーズンの反省であり、簡単な総括を発表する場であった。そして優勝を逃した原因を彼は一言で説明している。
「Autocomplacencia(アウトコンプラセンシア)」
初めて聞く単語であり、スペインアカデミー事典にも存在していない。わかりやすい日本語にすると“自らに対する厳しさのなさ”という感じになるのだろう。選手たちの“自らに対する厳しさのなさ”を大失敗の原因と総括する会長。だが、彼ら管理職に責任はなかったのだろうか?2年連続リーグ優勝を果たし、チャンピオンズ制覇までおこなった選手たちに、ハングリー精神が欠けつつあったのは確かだろう。美味しいものをいっぱい食べることができて、満腹状態となっていたとしても不思議ではない。だが、その彼らを再びモチベーション豊かに導くのが、ライカー監督を中心としたコーチ陣の役目であり、そしてその彼らの足りないところを指摘するのが、背広組の仕事ではなかったか。しかし、会長からはコーチ陣に対する批判も自らに対する反省の弁もなされていない。悪いのはひたすら選手だった。選手たちのおこないを管理する“内部規律”が話題となったのもこの時期だ。

だが、これまで決して褒められるということがなかったチキ・ベギリスタインは、地味ながらも着実に、しっかりと仕事をしていた。ミリート、アビダル、トゥレ・ヤヤ、そしてアンリという選手を獲得することに成功。
「今年こそは!」
大失敗の巻シーズンに落ち込んでいた多くのバルセロニスタにそう思わせるような、チキここにあり!の快進撃と言っていい補強作戦だった。
「これまでまともな休養がとれなかった夏を過ごしてきたこともあるし、今年ばかりはしっかりと体を休めたいと思う。したがって、コパ・アメリカには行かないよ!」
と、何年かぶりの夏休みを過ごしたロナルディーニョは、いつもどおりの笑顔を見せて合同練習初日に姿をあらわしている。うん、今シーズンのロナルディーニョはチョイと違うぞ、ネ、ネ、ネッ!

■2007年8月■

希望を感じさせる補強作戦が7月に終了したこともあり、多くのバルセロニスタは地中海の浜辺でゴロリンとノンビリできる8月。その彼らに更なる吉報が訪れる。あの、マクシボンを有料(有料!)で欲しいとするモスクワのクラブが登場してきた。出場機会が少ないであろうと予想されたバルサ年金保証選手ベレッティもまた、有料でイングランドに渡っていった。熱い日射しが照らす浜辺で快適な夏休みを楽しむバルセロニスタ。寝転がって見るプレステージの試合は全勝だ。
「今年こそは!」
そう、間違いない。

8月26日、“ふたを開けて見れば、中身は3か月前バルサだった”と落胆気味のリーグ初戦を戦うものの、多くのバルセロニスタに不安はない。
「あれだけの補強をしたのだし、しかも今シーズンのロナルディーニョは違うさ。」
その想いを再確認させてくれた8月29日のガンペル杯。インテルを相手に5−0というスペクタクルな試合結果。夏休みをとることができなかったかわりに、フィジカル面では昨シーズンのままの状態で来ているジョバニが、そのフィジカルの違いを発揮して活躍。だが、サムエル・エトーの負傷が一抹の不安を感じさせる。いや、それでも大丈夫さ、アンリがいるじゃん!という楽観主義が覆う。そして、スエルテ、モッタ!と、海に向かって叫ぶ東洋人。

■2007年9月■

今年こそはと期待されたロナルディーニョには、相変わらず昨シーズンとの変化が見られなところに加え、夜遊びの噂に関してもこれまでとまったく同じだった。そしてチーム成績は決して悪いものではないにもかかわらず、内容がスッキリとしない試合が続く。
「昨シーズンのことは忘れて欲しい。我々はゼロの地点から新たにスタートし、各選手モチベーション豊かに試合にのぞんでいる。今シーズンは再びタイトルを獲得できる年としたい。」
ライカー監督が定例記者会見でこのような内容のことを繰り返せば、ラポルタもシャシャリ出てきて口を挟む。
「昨シーズンの不甲斐ない成績はあくまでも選手たちの責任。今シーズンは内部規律条項もはっきりしているし、昨シーズンのような不祥事は起きないことを願っている。」

それでも、バルセロニスタの見るバルサは昨シーズンのものと同じ印象だった。ロナルディーニョに、そしてデコに、初めてのブーイングがわき起こるカンプノウ。今年は夏休みをとってしっかりと休養したのではないか、初心に戻ってモチベーション豊かにプレーするはずではなかったのか、ジム管理職を捨てて毎日練習に励んでいるのではなかったか、それにもかかわらず、なにゆえ体が動かないのか、期待はずれのロナルディーニョ、あるいはデコを見ながらなげき始める多くのバルセロニスタ。だが、動きの悪い選手は彼らだけではなかった。チャビ、サンブロッタ、アンリなどにも大いなる疑問が投げつけ始められた。軽い“負傷”を理由にし、第一ミニキャンプを張るロナルディーニョ。
「かつてのようなロナルディーニョの復活は絶対にあり得ない。」
そう語っていたサンドロ・ルセーの言葉に真実味がでてきた今日この頃。


ライカーバルサ2007年(4−6月)
(08/02/02)

■2007年4月■

地元カンプノウでマジョルカとレバンテ相手に最少得点差でかろうじて勝利したものの、フエラのサラゴサ戦で1−0で敗北,そしてビジャレアル戦も2−0で敗北。リーグ戦首位の座は揺るぎないものとなっていたライカーバルサに徐々に暗雲が押し寄せてきたかのようだ。だが、そのような曇りがちな毎日を才能ある一人の選手が明るく照らし出してくれた。クラシコでのハットトリックに続き、世界中のフットボールファンの記憶の中に留められるであろうスペクタクルなゴールを決めてくれた選手、そう、そのレオ・メッシーが主役となる4月。

近代フットボール界において、神と祭り上げられる選手はマラドーナだけかと思っていたらそうではなかった。神のプレーを再現してしまったレオ・メッシー。4月18日カンプノウで戦われたヘタフェ相手の国王杯、この試合でメッシーはスペクタクルな“メッシードーナー”ゴールを決める。
「何が何でもメッシーを止めるべきだった。何をしてでもだ!」
試合後、ヘタフェ監督ベルナルド・シュステルにそう言わせた伝説的なゴール。この試合の4日後におこなわれたビジャレアル戦に敗北しても、多くのバルセロニスタはもちろん、クラブ関係者に至っても“メッシーゴール四日酔い”状態が続いていたと言って良い。
「リーグは大丈夫さ。国王杯も含めてドブレッテも可能だと思う。」
ラポルタがしゃあしゃあとこう語っている。だが、彼らが、そして我々が見てみないふりしている暗雲がズンズンズンズンと怪しげな音をたてて襲来しつつあった。果たして、本当に優勝できるのだろうか?

■2007年5月■

5月10日、国王杯第二ラウンド・ヘタフェ戦。この試合にメッシーを招集しなかったことに関して、ライカーは次のように試合前に語っている。
「もしメッシーがいなければ、彼らは誰にファールをしていいかわからなくて混乱してしまうだろう。」
まるで冗談のような発言だが、シュステルに対する皮肉であることは間違いない。ファーストラウンドで5−2というスコアーで勝利したバルサだから、メッシーを休養させるのは納得できる方針だった。彼がいなくても、別に10人で戦うわけではない。ジョルケラをスタメンとして起用したことも、これまでの国王杯方針であるから批判はできない。だが、ライカーバルサは4−0という歴史的敗北を喫してしまう。4ー0、あまりにも痛々しい敗北。誰の目にも明らかなドス黒い雲がバルセロナの上空を覆い始めた。

そして、それから3日後の5月13日。ベティス相手のカンプノウの試合で“油断大敵、首位脱落”という、これまでかろうじて守ってきた首位の位置をガタガタと音を立てて失ってしまう日がやって来る。後半44分、ベティスフリーキックからの思わぬ同点ゴール、この目の前で見たゴールシーンは決して忘れることはないだろう。壁を作った選手たち、そしてバルデスの前に立つ選手たち、これらのすべての選手に油断があったからこそ生まれた同点ゴール。思い返せば、このシナリオは、これまでのライカーバルサのすべてを象徴するかのような内容だった。俗っぽい表現をすれば、すべての選手たちに“勝利の意欲“が見られず、“やる気”も感じられず、“どん欲”さもなく、“集中力”の不足が感じられ、そして“ハングリー精神”に欠けているようだった。バルセロナの上空に見られる暗雲は、今にも台風を発生させるかのようだ。リーグ優勝?う〜ん、なにそれ?

■2007年6月■

6月9日のカンプノウ・ダービー戦。これまで台風を呼ぶかのようだった暗雲が、幸運にも今にも去ろうとしていた。後半43分を記録するまでバルサはエスパニョールに2−1というスコアーで勝利し、首位にたっていたレアル・マドリはサラゴサ相手に負けている最中だった。もし、このまま何事もなく終了すれば、バルサが首位に返り咲くフィエスタ・デーになるはずだった。例え、マドリがサラゴサに追いつこうが、バルサが勝ちさえすればリーグ制覇は目前となっていた。だがベティス戦の再来という、13日金曜日のような恐怖のシナリオが用意されていた。44分、タムードのゴールが北側ゴールに突き刺さる。そしてカンプノウ観客席がシーンとなったその瞬間、マドリはサラゴサに追いつくゴールを決めてしまうニュースがラジオから流れ出した。去ろうとしていた暗雲は勢いを増してさらに大きくなり、そして台風を呼ぶ。予想以上の大型台風。グア〜ン!

“Juntos,podemos !!!(フントス・ポデモス!)”というキャッチフレーズがマドリメディアに流れ出したのはこの月の最初だ。直訳すれば“一緒なら可能!”、日本語的にすれば“団結すれば何でもできる!”という恥ずかしくなるような俗っぽい言い回し。マドリの快進撃を表現したキャッチフレーズであり、リーグ制覇したあとも語り継がれるものとなった。確かにマドリの試合展開のネチッコさは異常だった。ハングリー精神に基づいた彼らの戦う姿勢が優勝を可能としたのも確かだった。だが、それはあくまでも優勝の原因の一つに過ぎない。もし、バルサに油断がなければ、もし、バルサが満腹状態でなければ、もし、彼らをしっかりとコントロールする管理者がいたとしたら・・・。暗黒時代を迎えていたマドリを救ったのは、奇しくも永遠のライバルである我らがバルサだった。


ライカーバルサ2007年(1−3月)
(08/02/01)

■2007年1月■

2006年8月にモナコでおこなわれたUEFAスーパーカップで惨めな敗北を味わい、そしてその年の12月、日本で開催されたムンディアリート決勝戦にも敗北し、雰囲気の良くないまま年が明けた2007年1月。だが、それでも、我らがフラン・ライカー監督は他のどのクラブよりも長期のクリスマス休暇を選手たちに与えた。まあ、良いように理解すれば、選手たちは気分一新して戻ってきなさい!というメッセージ。そんな感じで2007年がスタート。

まるで“レージェス・マゴス”からのすべての贈り物を独り占めするかのような、一人のプロ選手として、獲得可能なすべての輝かしい賞を独占したロナルディーニョ。だが、それでも、年が明けたことにより彼の“生活スタイル”に変化が起きたわけではない。己の原点を忘れず常に“ロナルディーニョ”でいようとするかのように、合同練習初日にはやって来ていない。いや、彼だけではなく、マルケス、デコなどという選手も参加してきていない。毎年恒例の“飛行機の遅れ”や“乗り継ぎ便の変更”、あるいはデコ定番の“家庭の事情”とやらで、それぞれ練習パスとなった初日。2006年世界最優秀監督として表彰された我らがライカーは、もちろん彼らに罰則など与えない。特定の選手に罰則を与えるのは彼のスタイルではないし、物事はすべて当事者同士が直接話し合えば解決することになっている。したがって、この広い世界でも、戦争が起きている国など一切ないと信じている希少な人物でもあった。そして、この人物が率いるチームは、試合内容が良いわけでもなく、結果も驚くほどのものではないにしろ、順位的には他のチームを押さえていた。3年連続優勝などはお茶の子さいさいであり、何試合を残してリーグ優勝が決まるのか、気の早いバルセロニスタはそこまで予想していた。何たって、2月になればエトーとメッシーが戻ってくるじゃないか!

■2007年2月■

だが、“レージェス・マゴス”からの贈り物が一つももらえなかったことに怒り狂っていた一人の選手がいた。アフリカの吠えるプーマ、サムエル・エトーだ。カタルーニャの地方都市ビラフランカでおこなわれた子供向けアニメのプロモーションに参加した彼は、大勢の子供たちがいる前で取材班に怒鳴るかのように“仲間批判”をスペクタクルに展開する。
「俺は誰かさんと違って練習に遅れてきたこともないし、これまで一度たりともさぼったこともない。」
と、恐れ多くも世界最優秀選手に対し批判の怒鳴り声を上げると同時に、世界最優秀監督に対しても一言付け加える。
「ライカーは悪いヤツだ。」
あらまっ!

これだけのことを言われても、世界平和主義者であるライカーは、“表面上”いっさいのリアクションをしない。当事者同士が話し合って解決したのか、あるいはパンチの一つでも喰らわせたのか、そこらへんは外部の人間にはわからないから、“表面上”と表現するしかない。確かなことは、これまでに生じた問題への対応と同じように、クラブ公式発表上ではなんの処罰も与えられていないことだ。そしてもう一つ確かなこと、これまでライカー監督のチーム統率能力を評価していた多くのバルセロニスタの間で、少しではあるが疑問符が浮かび上がってきたことだ。だが、それでもライカーバルサは“現役ヨーロッパチャンピオン”であり、宿敵レアル・マドリに差をつけて首位にたっていた。ロナルディーニョ・ミッチェリン騒動が起きても、エトーがラーシング戦で出場拒否騒動を起こしても、まだバルサ一家に地震はやって来ていない。試合内容のお粗末さは続くものの、ライバルはいない。さて、何試合を残して優勝が決まるのだろうか、それが興味の対象だ。

■2007年3月■

「今のチームは固い仲間意識に欠けている感じがするし、逆境を乗り越えようとする激しい練習もおこなわれていない。もちろん自分も含めて、こういう状態を変えていかなければならないと思う。」
正しくも、そして勇気あるグジョンセンの発言が、突如としてメディアを騒がせる。世界最優秀選手はジム管理人と化し、マルケスは恋人のいるマドリッドに行くのが日課となり、そして“家庭の事情”が日常茶飯事となってしまった選手は、監督の許可を取り、練習に参加して来ない日が何日か見られた。
「選手間の問題はロッカールームで解決するのが理想的。しかも彼の発言は的を射ていないものだと思う。」
クラブ公認消防士チャビ・エルナンデスが火を消しに走ってきた。だが、この大事な火は消すべきではなかった。この火を囲んで、当事者同士が真剣に総括すべきものであった。ロナルディーニョやデコ、あるいはマルケスだけの問題ではなく、すべての選手にあてはまる指摘だったからだ。

3月6日、リバプールに0−1で勝利するものの、前月カンプノウで戦われた“スッテンコロリン”敗北の結果がたたり、早くもチャンピオンズの戦いから姿を消すライカーバルサ。とは言うものの、チャンピオンズ2年連続制覇というのは奇跡に近いものと理解していたバルセロニスタに、悔しさはあっても大きなショックはなかった。
「今年は3年連続リーグ優勝でじゅうぶん。」
それが大半のバルセロニスタの思いだった。したがって、4日後にカンプノウで戦われるクラシコに勝利すれば何の問題にもならないチャンピオンズ早期敗退。そうなるはずだった。だが、そうはならなかった。3−4−3という、これまでまともに練習したこともないシステムを起用して戦うという、何がどうなったのかトチ狂ってしまったライカー監督。メッシーがハットトリックを決めながらも、引き分けという残念な結果に終わってしまった。それでも大丈夫、マドリとの差は相変わらず5ポイントもある。うまくいけば、最終戦を待たずに優勝できるかも知れない、よね?