2月20

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コネッホに笑顔が戻ってきた日

「ゴールを決めたとき知らないうちに何か叫んでいた。魂の叫びとでも言うんだろうか、心の底からの喜びが叫びとなってあらわれたんだ」
これまで決して声を荒げて公に不満をもらすこともなく、バンガールの言われるままにプレーすることを心がけてきたサビオラ。もちろん彼にとって納得のいく“ミッション”ではなかったものの、沈黙を守り監督の命じるままにプレーをしてきた。自分をマークしている選手をどこまでも追いかけていかなければならない。それは彼にとって初めての経験。だがバンガールが去りアンティックが監督となって彼はコネッホとして復活することが可能となった。サビオラがサビオラとなって戻ってきたインテル戦。それは自分の知っていることだけをグランドの中で展開していくこと。自分の知っていること、それはゴール。これまで失いかけていたゴールの嗅覚が戻ってきたコネッホ・サビオラ。

眠れない夜が続いていた。何か結論のでない不可解な思いが頭の中をグルグルと走り回っていた。それはここ2か月にわたって続いていたことだ。夜中に寝返りをうち再び何かの思いに沈んでいく。朝まで熟睡できることはほとんどない2か月が続いたコネッホ・サビオラ。だがここ2日間に限って言えば、気がつくと朝が訪れている。もう何も考える必要はないし、本来の自分に戻ればいいという安心感が自然と熟睡を誘ってくれる。もう寝返りをうつ夜は終わった。自分の知っていることをすればいい、そう、ひたすらゴールだけを目指せばいい。

「バルサの選手となってからの自分の最高のプレーができた試合の一つと言っていいと思う。監督が代わってからグランドの中での自分の役目も変わった。今の自分の役目はゴールを狙うこと、そのためには完全な自由が得られていること。したがってこれまで自分がやって来たとおりの、つまり自分が知っているフットボールをすればいい。」
フットボール選手としてのサビオラに変化が訪れた原因は非常にわかりやすいものだ。彼にこれまで考えたこともないようなプレー目的を与えたバンガールはもういない。彼の代わりにベンチで指揮をとることになったアンティックは彼に前線での完全な自由を与えることを最優先とする監督だった。アンティックもかつてはユーゴスラビア代表の歴戦の選手だ。サビオラが今シーズン爆発しない理由を誰よりも理解している人物だった。

「誰が監督であろうと指導者の要請に応えるのが我々選手の役目。だからバンガールに自分をマークしている選手を地獄の果てまで追いかけろといわれれば自分はそうしなけれなばらない。そのことでこれまで一度たりとも不満をもらしたことはなかった。」
確かにサビオラはこれまで一度たりとも不満をもらしてはいない。だがそれは“公”にという意味においてだ。移動のさいには常に彼と同室になっているチャビ、彼の耳にはサビオラの“不満”ではないが“苦しさ”が常に伝わってきていた。ベッドに横になり世間話をしている間に気がつくと小さな寝息をたてているサビオラが、ここ何か月か夜中に話しかけてくるようになっていた。サビオラの悩みを誰よりも理解しているチャビ、彼はサビオラの苦悩につき合うことになる。アルゼンチンに残してきた多くの思い出話につき合うハメになったチャビ。だがもうその必要はない。サビオラにかつてのサビオラが戻ってきたからだ。


ガッツにも笑顔が戻ってきた日

8万2千人のバルセロニスタがスタンディングオベーションで一人の選手の復帰を祝った。
「お帰り!ルイス・エンリケ!」
サビオラのゴールを祝うよりも、コクーやクルイベルトのゴールを祝福したときよりも大きな声援が一人の選手に向かって捧げられたインテル戦。チームの、そしてバルセロニスタのカピタンがグランドに戻ってきた。ルイス・エンリケ、バルサの魂がついに復活してきた。

3か月半ぶりの復帰。ひたすら長く、しかも暗いトンネルだった。自分の負傷から脱出するための苦労だけではなく、チームが不振に苦しんでいるのを指をくわえて見ていることしかできなかったことにイライラした100日。だがそのトンネルはすでに出口を後ろにしている。もうトンネルからは脱出した我らがカピタン。8万2千人のバルセロニスタやテレビを前にして彼の復帰を祝ってくれた世界中のバルセロニスタに感謝すると共に、そのお礼を必ず返したいと語るルイス・エンリケ。
「自分がフットボール選手であるということが再び実感できた感動的な瞬間だった。自分からフットボールをとったら何ということのない人間であるということは知っている。だからフットボール選手ルイス・エンリケとして、自分を暖かく見守ってくれた多くのバルセロニスタにお返しをしなければと思う。そう、あくまで自分はフットボール選手の一人。それが実感できたことが何よりも嬉しい。」

だが試合翌日の記者会見場に現れたルイス・エンリケは自分の復帰が可能になったことよりも、何よりも嬉しかったニュースはあのマドリッドでおこなわれたと噂された“真夜中のパーティー事件”裁判が選手側勝利に終わったことだと語りはじめる。
「この場にいるすべてのジャーナリストにお願いしたい。この経験を生かして今後のプロフェッショナルな活動に精をだして欲しいと思う。スポーツジャーナリストの社会的要請はスキャンダルなニュースを流すことではなく、真のスポーツジャーナリズムでなくてはならないだろう。だから証拠も何もない段階でのセンセーショナルなコメントは避けて欲しい。」

わずか10分程度のプレーだった。それでも彼がフットボール選手として再認識できるためには十分な時間だった。身体もリズムもまだ普段の半分も出来上がっていないことは誰よりも承知している。だがそんなことはもう問題ではない。このままアキレス腱が耐えてくれれば時間の問題で身体やリズムは戻ってくる。もちろん厳しいポジション争いも戻ってくる。
「今は少しずつ少しずつ100%の状態にもっていければいいと思う。これから多くの練習時間が必要となるだろう。そしてフットボール選手として再認識できた自分にはそれがたまらなく嬉しいことに感じられる。わずか10分のインテル戦ではあったけれど、自分には100分ぐらいに感じられた試合でもあった。身体もリズムも周りの選手に比べるとお粗末なもんさ。でも一つだけ約束しておこう。彼らは非常に良いプレーをしているけれど、彼らのポジションを奪うために必死になって練習していくことを。俺はプロだかんね。」