ジェラール・ピケ、1987年2月2日バルセロナ生まれ。彼がこの世に誕生してきたその日からバルサソシオとして登録されており、2008年の番号は4万8212番となっている“ベテラン”ソシオだ。これもすべてアマドル・ベルナベウという祖父を持ったことに由来する。22年間続いたヌニェス政権内で重要な役割を演じたベルナベウ氏。その彼の手に引かれ、孫のピケがバルサの入団テストを受けにテスト場に姿をあらわしたのが1997年夏のこと。すでに身長も高かったし、テクニック的にも面白いものを持っていたこともあるし、しかもコネもピカピカ光っていたから当然ながら無事合格。バンガールがバルサのベンチに座ることになった1997−98シーズン、ジェラール・ピケは、アレビンBチームをスタートしてバルサカンテラ選手となった。

“黄金の1987年世代チーム”がスタートするのは翌年からだ。ジェラール・ピケに加え、トニー・カルボ(現アリス・サロニカ)、セスク・ファブレガス(現アーセナル)、ビクトル・バスケス(現バルサ)、マーク・バリエンテ(現セビージャ)などの1987年世代によって構成されたチームが、アレビンカテゴリ・インファンティルカテゴリーで可能な限りのタイトルを獲得していく。そしてカデッテカテゴリーに入るとレオ・メッシー(現バルサ)が加入し、“黄金のカデッテチーム”ができあがる。バルサカンテラ史においてもゴシック文字で記録されることになる、この1987年世代チーム。だが、フベニルカテゴリーに突入していくと共に、セスクがアーセナルに、そしてその後ピケはマンチェスターへとそれぞれ移籍していく。それから4年後、ピケは再びバルサに戻ってきた。移籍料は500万ユーロ、そしてオプションボーナスとして200万ユーロ。まあまあ手頃な値段と言えるだろう。

2008年7月3日、ジェラール・ピケのバルサ入団記者会見が開かれた。記者席の後方には、彼の弟のマーク、両親のジョアンとモンセ、そして祖父のベルナベウが座っている。家族の一人が“我が家”に帰ってきたのだ。
「バルサに戻るチャンスを与えてくれたすべての人々に感謝したいと思っている。17歳という若さで我が家を去ることになったのは、当時の自分に一つの大きな目標があったからだ。それはプロの選手として1日も早く独立すること、幸いにもそれが可能となり、そして今、子供の頃からの夢であったバルサでプレーすることも実現したことになる。まだ21歳の自分が言うのもなんだが、もしバルサで現役生活を終えることができれば、これ以上幸せなことはない。」
将来を大いに期待されたかつてのカンテラ選手が、心のクラブに戻ることが実現し、当人、家族、クラブ、バルセロニスタにとってすべてが丸く収まったイメージでメディアが持ち上げる。だが、現実はそれほど甘いものではないことは、バレンシアから出戻りしてきた元カンテラ選手ジェラール・ロペスが証明してくれている。

「バルサというクラブは歴史的に見て、クラブ首脳陣にしてもファンにしても、カンテラ出身選手に対して厳しいところがある。そういう意味で言えば、自分も毎試合毎試合厳しいチェックを受けることになると思う。でも、プレッシャーには負けない自信があるし、ひたすたチームが勝利するためにプレーするだけさ。」
そうなのです。彼が語るように、カンテラ選手に対する地元ファンの見方は、非常に厳しいものがある。しかも彼の場合は単なるカンテラ育ち選手ではなく、10代半ばにしてすでに他のクラブのオファーを受け、一度バルサを去っていった選手だ。その“事件”をいまだに忘れず、ピケ獲得に批判の意見を持つバルセロニスタも多い。さらに、彼の獲得を誰が望んだのかもはっきりしていない。ペップの希望ではないようだし、勝手に出て行った選手を買い戻すことなどしないと公言していたチキの要望でもないだろう。一時的にレンタルされていたサラゴサで活躍したわけでもないし、ましてマンチェスターで光り輝やいた存在となっていたわけでもない。

「彼の将来性を大いに期待している。」
こう語るラポルタの言葉が、ジェラール・ピケの現実を如実に表しているような気がする。そう、この選手には時間が必要だ。2年ぐらいかけて、徐々に徐々にスタメンを勝ち取っていけばよい。彼の持ち味は何と言っても長身をいかして高いボールに強いこと、そしてバルサカンテラ育ちならではのボール出しのセンスの良さ。だが、反面、器用にいくつかのポジションをこなすセンスはない。カデッテ、フベニル時代に右ラテラルやピボッテを務めたことがあるが、セントラルというポジションと比べるとそれほど効率良いプレーはしていないし、サラゴサ時代にもそれは見せてくれていない。いずれにしても、ボール出しのセンスを武器として、とりあえずはマルケスの控えとして出発することになるのだろう。もし、マルケスが負傷という不運に見舞われないシーズンをおくることができれば、ピケの出番が限られたものとなるのは仕方がない。あらゆる意味で彼には時間が必要だ。そしてラポルタではないが、個人的にもピケの将来は大いに期待できるものだと思う。

これまでのプレステージでの練習試合を見る限り、マルケスの控え選手として順調に調整ができているようだ。ペップ監督の彼に対する信頼感も試合ごとに増しているような気がする。バルサとの契約は2012年までの4年間。違約金は5000万ユーロと設定された。

スエルテ! ピケ!
ブエナ・スエルテ!