FIFAエージェント - 魑魅魍魎の世界
(2001/4/11)

世の中に「インテルメディアリオ」と呼ばれる職業を持つ人々がいる。仲介者、代理人、マネージャー、いろいろ呼び方があるように、彼らが契約しているフットボール選手に対しておこなう仕事も、多種多様である。外国から移籍してきたばかりの選手家族には、まず家探しから始まり、子供がいる家庭なら学校探しもしなければならぬ。もちろん奥さんの買い物場所の案内から、少しは言葉の問題も手伝わなければならぬ。独り身で来た選手には、夜のスポット場所、あるいは彼女探しのヒントも与えてやらねばならぬ。ある時はお父さんであり、お兄さんであり、またある時は親友のようでなければならぬ。そして、彼らの最も大事な、しかも職業として成り立つ本来の仕事は、選手の売り買い、クラブ会長との交渉、クラブ間同士の間に入っての交渉、etc .etc。これらによって生まれる莫大なコミッション・プラスアルファで彼らは富を築く。別名「FIFAエージェント」と呼ばれ、魑魅魍魎の世界に生きる人たちである。

大金持ちたちに、税金対策上絶好の場所として知られるバージン諸島。ここにゴルティン・コーポレーションとい名前の会社がある。この会社を経営しているのは、シルバ・マルティンとロッチャ・ピッタという人物。ロナルドがバルサからインテルに移籍した際に一躍有名になった「ロナルドのすべてを買った人々」である。

1998年の春、ロナルドはオスローにいる。すぐ近くに迫ってきたフランスワールドカップに出場するブラジル代表として、練習に明け暮れる毎日が続く。だが一方、彼はバルセロナからの連絡をひたすら待っている。ここ何日かを通して、彼の代理人とバルサ指導部の間で「年俸見直し交渉」がなされ、その結果次第ではバルサを離れなければならない羽目になることを聞いていた。彼個人としてはどうしてもバルセロナを離れたくはない。なぜなら、バルセロナの街がすごく気に入っていたし、近郊のカステルデフェルスという海に面した町に家も買っていた。そして何よりもフットボール選手として最高のシーズンをおくったバルサというチームを離れたくなかった。もし彼が自分の意志で決められるものなら、絶対バルサを出ない、と思っていた。

ホテルにいるロナルドに代理人のマルティンから電話がかかってきた。
「OKだ!」
ロナルドは喜びの叫び声をあげ、隣にいたカタルーニャから来ている何人かの特派員と一緒にシャンパンで乾杯。まるでパーティーのような騒ぎになった。「おめでとう!」「おめでとう!」という特派員の祝福を受けて「ありがとう!」と応えるロナルド。だがそのパーティーは、2時間後にかかってきた電話で中断される。再びマルティンからだった。
「すべてダメになった。これからインテルとの交渉を始める」
シャンパンが入ったグラスを持った特派員が目にしたのは、恥も外聞もなく泣きじゃくるロナルドだった。

この6年前、ロナルドは「個人としてのすべての権利」をゴルティン・コーポレーションに売っている。当時16歳だったロナルドが、どのくらいの知識と認識と覚悟があったかはわからない。契約書には両親のどちらかのサインが必要だったが母親が反対したため、代理人は別居中の父親の所までいってサインをもらっている。その最初の契約書はだいたい次のようなものだった。
「フットボール選手ロナルジーニョは、彼の名においてすべての『交渉権』をゴルティン・コーポレーションに委ねる事に同意する」
それはロナルドの意思とは関係なく、代理人の判断で選択されたクラブとの自由な交渉、妥結、承認まで含まれることを意味している。またそれはあるクラブへの入団、移籍の際の『交渉権』だけではなく、ロナルド個人の肖像権、つまりコマーシャル出演やグッズなどに関するすべての『交渉権』も含む。
「ゴルティン・コーポレーションはこの契約期間内、ロナルジーニョに対するあらゆる援助をおこなうことを義務づけられる」
あらゆる援助とは、
「個人的問題、職業としてのプロフットボール選手としての問題、さらに財政貯蓄までの助言」
まで含まれる。つまり個人としてのロナルドの人生問題から、プロとしての働き場所までの「ロナルドのすべて」を含んだ契約であった。この契約期間は10年、それ以降どちらかの意思による契約解除がない限り、1年1年更新される。

ロナルド代理人とバルサ首脳陣の交渉で、何があったかは想像の域をでない。代理人側に言わせれば「最終段階でバルサ首脳陣があまりにも高額な年俸を出すことにビビッた」ということであり、バルサ側から言わせれば「代理人とインテル側ですでに話しができあがっていた」ということになる。いずれにしても、この移籍でゴルティン・コーポレーションは莫大なコミッションを稼いだことは間違いないだろう。そしてロナルドは、親であり、兄であり、そして何よりも彼の人生の支配者である代理人の説得により、バルセロナを離れミラノへ向かう。

ブラジル人の代理人が選手を納得させるときに、必ず使われるフレーズがある。
「君のクラブはセレソン・ブラジルなんだ。ヨーロッパのクラブでプレーするのは、あくまで金稼ぎと考えなければならない」
この言葉に、ロナルドが納得したかどうかは解らない。

この「個人の全てを独占」してしまうシステムが、ブラジルによく見られる選手と代理人の関係であるが、ヨーロッパではかなり違う方法で代理人が存在する。それは次回で。