ペップとその仲間たち
(2001/4/20)

かつてグアルディオーラのキャプテンであった、アンドニ・スビサレッタ。92年バルセロナオリンピックで優勝した時の同僚フランシスコ・ナバレス・マチョン・”キコ”。そしてサブコーチであったチャーリー・レシャックがそれぞれの経験から、ペップのことを語っている。


アンドニ・スビサレッタ
あれは1992年の5月、ウエンブリーでのチャンピオンズリーグ決勝戦の前日だったんだ。もうじき練習が始まるという時に、ペップとサリーナスが貴賓席の方を見ながら何やら口論してるんだよね。
ペップ「あの階段はね、優勝カップを受け取る所まで33段あるんだ。有名な話しだよね」
サリーナス「ちがうよ、ペップ。33段じゃないよ。俺が言うんだから間違いない。」
ペップ「本当だよ、あれは33段あるんだ」
サリーナス「違うんだなあ、お前、わかってないなー」
それを聞いててね、イライラしてきた俺は言ったんだ奴らに。
「いいかい、その答えを知る一番いい方法は、明日の試合に勝って実際にお前達が階段を上って行けばいいんだ。そうすれば、おのずと何段かわかるさ」
そして翌日の決勝戦、俺たちはクラブ初のヨーロッパチャンピオンズカップを手にしたんだ。前日の彼らの口論のことなどすっかり忘れていたのは、当然といえば当然だよね。何たって、俺達は優勝してみんな興奮状態なんだから。そしてキャプテンのアレサンコが優勝カップを高々と上げた時、俺の後ろにいたペップの声が聞こえたんだ。何て言ってたと思う?
「やっぱし、33段だった。はっはっはっっ。1段ずつ数えたんだ」
今でも時々思うんだけれど、あいつは階段が何段あるのか知りたいがためにチャンピオンズリーグに優勝したかったんじゃないかってね。

キコ
俺のクラブ、アトレティコ・マドリがリーグとカップを両方とった翌年の話しなんだ。俺たちはバルサと大事な試合を戦っていた。もちろんバルサにとっても、それは大事な試合だったんだけどな。ペップとはもう何試合も戦っていたし、ナショナルチームでも一緒だったからヤツのことはよくわかっていたつもりだったんだ。ところがその試合、ヤツは走ってはしゃべり、止まってはしゃべり、審判を見れば何か言っているし、仲間の選手をつかまえては怒鳴ってる。あげくの果てに俺達にまでなんかくっちゃべってるんだ。とにかく試合中とめどもなく何かしゃべっている。
「おまえ前に上がれ・・・俺が後ろをカバーする・・・おーい、ここに残れ、俺が前に行く・・・あがれー・・・下がれ・・・待ったあ・・・よし、まかした・・・だめだっ、ストップ、ストップ・・・」
試合中、ずーとこんな感じなんだヤツは。俺はいい加減アタマにきて彼奴をつかまえて言ったんだ、
「おいペップ、お前どうしちゃったんだ! いったい何しゃべってるんだ! いいかげん俺は、お前の声を聞くとアタマが痛くなってきた。頼むから黙ってくれ。なっ、頼むから!」
そしたらヤツはね、右手をこめかみに持ってて少し考えるようなしぐさしてさ、俺にすまなそうな顔してこう言ったんだ。
「あっ、ごめん」
ペップはこういうヤツなんだ。謝るほどのことじゃないのにな。俺は思わずグランドの真ん中でヤツを抱きしめちゃったんだ。笑っちゃうだろ!

チャーリー・レシャック
バルサのカンテラに詳しいのは、何と言ってもオリオル・トルト。ペップも彼に見つけられてラ・マシアに入寮したんですね(LA MASIA 参照)。彼が私たちに言った言葉を今でも覚えています。
「この子は将来すごい選手になる」
彼は間違っていなかった。
私は長い間、少年部のフットボールのコーチをしてきました。それでペップを初めて見た時、これは他の子供たちと違うと一目でわかりましたね。それはどういうことか説明しましょう。普通の「うまい」子供たちはね、ボールを受けるとまず何をするかというと、ボールを持ったままドリブルにいくか、前にいる相手の選手をなんとか抜こうとするものなんです。だがペップが初めての練習で見せたことは、ボールが来たら瞬時にワンタッチでマークされていない選手にパスすることだったんですね。それも的確に、スピードのあるボールを。これは言葉で言うには簡単だけど、非常に難しいことなんです。多分ペップは、強靱な体力を必要としない典型的な選手の一人でしょう。そして最も優れているところは、普通の選手はグラウンドの一部しか視野に入らないけれど、彼はワイドスコープでグラウンドが見れる才能があったことでしょう。
ヨハンが私の推薦を受け入れてくれて、二人でバルサBに試合を見にいったんです。彼はプレーしていませんでした。バルサCにいっても彼はいない。
「おい、チャーリー、あんたの言う、そのすごい面白い少年はいったいどこでプレーしてるんだい?」
そこで少年部の監督に聞いたんです、ペップはどこでプレーしてるのか。そうしたら、彼はまだ体力的に他の選手についていけないので、練習だけさせてるという答えだったんですね。そして体力が一人前になり次第、スタメンで使ってみようかと思ってると。ヨハンは早速バルサBで、次の試合からプレーさせるように命令していました。それから何試合かして一部に上げたんです。
あれはマジョルカ戦でした。よく覚えています。ペップをマークするのはあの強靱な体を持つアニマル・ナダール(現マジョルカ、そして当時もマジョルカ)に違いない。そこで試合前に、ヨハンがペップに言ったんですね。
「いいか、坊や。もしナダールが左に行ったら君は右へ、ナダールが右に行ったら急いで左へ行くんだ。わかったね」
ペップは見事にヨハンの指示を守り、ナダールとはほとんど接触することなしに試合を終えることができました。彼はボールを受けると、ナダールが来る前にワンタッチでボールをながし、急いでナダールの反対側に走っていきました。もし、ナダールにちょっとでも触っていたら、きっと吹っ飛んでたろうね、あのころのペップは。