ジェラール「今回は自分の欲望に勝つ」
(2001/10/13)

久々の練習を終え、ジェラールはコップにつがれた牛乳を一気に飲み干す。そして更衣室の方に向かう。すると、すれ違う同僚たちから騒々しくも暖かい、背中へのパンチが襲ってくる。それはまるで、彼から発生する強靱な生命力がまわりに伝染するかのような風景だ。特にロッケンバックとすれ違うとき、その音はいっそう派手なものになった。今日は負傷組が集まって、それぞれの負傷具合にあわせた練習をしている。それは肉体的に何の問題もない選手から見ると同情を感じるものであるが、彼らにしてみれば長い間のジム内でのリハビリから解放され、やっと復帰が現実近くになる屋外での気分が高揚するものであった。

ジェラール・ロペス(バルサロナ・1977年)は力強くしゃべり始める。
「一日でも早くプレーしたいという思いでいっぱい。でも二度と同じ過ちは犯したくない。どんなに気持ちがせいても、どんなにプレーしたくても、完全に治ってからじゃないと。だからバレンシア戦は自分の意志で出場を断念したんだ。僕にとっては特別な試合にも関わらずね。」

ジェラールはカンプノウでのマジョルカ戦で、ソレールと接触して再び負傷した。
「3人の選手交代がもう済んでいる状況だった。このままプレーし続ければ傷が悪化するかも知れないという危惧はもちろんあった。でも、同僚たちをどうして10人にできると思う? そんなこと不可能だよ。」幸いなことに、彼のケガは大事に至ることはなかった。だが再び2週間近くのリハビリを余儀なくされる。

「アレサンコがいつだったか僕に言ったんだよね。一度ひざの手術をした後は、必ずひざ近辺の筋肉問題がおきるってね。彼も同じような手術しているから詳しいんだ。特に僕の場合、少し重傷だったから余計そうかも知れない」。彼の手術を担当したラモン・クガット医師は、ひざの手術は通常20分ぐらいでおこなう。だがジェラールの場合は一時間半もかかった大手術となってしまった。

「プレシーズンで、してはいけない過ちを犯してしまった。同僚の選手たちと一緒になって、バケーション帰りの選手と同じような感じで練習に参加してしまったのさ。つい自分の筋肉に変化が起きていることをすっかり忘れてしまった。手術後と以前では、しばらくの期間同じわけないのに。つまり、自分のプレーしたいという欲望にすっかり負けてしまった結果だったんだ」

「監督が僕に何を期待しているか、それを直接説明してくれる監督が好きだ。レシャックはリハビリ中の僕のところに何回も訪ねてきてくれた。そして言うんだ。とにかくリハビリに集中しろとね。他のことは一切考えるな。お前には絶対チャンスがやってくる。色々なポジションがお前を待っているだろうとね。」そしてレシャックはジェラールが戻ってくると、言葉通りの行動をとる。
「少なくてもプレーできる可能性が見られると、彼は僕を各種のポジションで試していた。いつも違うところでね。」

ジェラールにとってレシャックは、バレンシア時代のクーペルを想像させる存在だ。クーペルはレシャックと同じように彼を信頼しきってくれた。そしてラッチオ戦でのハットトリックが、全世界への彼のプレゼンテーションとなった。ジェラール・ロペスここにあり。

「今のバルサはクーペルのころのバレンシアに似ていると思う。個人よりもまずチームブロック優先。そしてその固いブロックを基盤に、獲得した得点をより有効に活用していく。そういう意味で、バルサは去年のそれとは比べものにならないぐらい良くなっていると思う。個人プレーよりチームトータルとしてのプレーの確立。もちろん時間が必要なことは間違いない。でも最も重要なことは、チームの求めているものがはっきりしているということでしょう。だから時間はかかるかも知れないけれど楽観的ではありますね。」

夏の間、いまだにリハビリに励んでいる時期、ミランからの強烈なオファーを断っている。背が高く、顔立ちがはっきりしたこの若者の獲得を、いまだに夢想する多くのビッグクラブが存在する。例え、今は故障上がりの選手とはいえ「将来を担う大型選手」として彼を認識するクラブが多いのはなぜだろうか。

それぞれの監督が持つ「システム」に融合するかどうかとい問題以上に、クラブ首脳陣としては「選手の持つ才能、特に彼の場合は試合を読む能力」を高く評価している。試合の流れの中でおきる瞬間ごとの状況判断の優秀さ、各状況に合わせて第六感をともなう判断、そして守り、攻撃し、ボールをワンタッチで処理し、瞬時にしてパスをだす能力。そして右足といわず左足といわずのシュート力に加え、強烈なヘッディングシュート力の持ち主である。少しずつといわず、多くのものをあらゆる面で持ち合わせているジェラール。これだけのことをやってのける若者選手を放っておくわけがない。

それでミランのオファーはなぜ断ったのですか?

「僕は色々なクラブで勉強して、今やっと自分のクラブに、自分の街に、自分の家に帰ってきたんだからね。これ以上の幸せはないし、これを捨てる気持ちはもちろんないです」


EL PAIS 2001.10.12
RAMON BESA(訳・カピタン)