クライフ「フットボールが好き」
(2002/3/27)

クライフとセルジ・パミエス(ジャーナリス)との会話で生まれたこの本。天才的フットボーリスタの語る言葉が、ジャーナリストの筆によって活字になった本である。ここではフットボールに関することのみ語られている。したがってヌニェスもガスパーもレシャックも登場してこない。ほんの一部を抜粋して紹介する。

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フットボールは単純な二つの基本的なことで成り立っている。
一つは、もしあなたがボールを持っていたら、正確にパスできるテクニックを持っていること。
二つ目は、もしあなたにボールが回ってきたら、それを正確にコントロールするテクニックを持っていること。もし正しくコントロールできないのであれば、それは正確にパスもできないということになる。

「ボール支配」ということに関して間違った理解のもとに意見をしている人を最近みかける。「ボール支配」というもののコンセプトは、単にボールを持ち続けることだけではないことがわかっていないようだ。そのボールをどのように活用していくかということが問題なのに。

「我々がボールを支配している限り相手はボールを持っていないわけだから、当然相手チームにゴールチャンスはやって来ない」
こう私が言ったとき、それは「我々が試合の主導権をにぎる」という意味なんだ。ボールを支配する、つまり主導権にぎっていれば相手チームはもちろんそのボールを奪いに来る。これによって何が生まれるか。そう、スペースが生まれるんだ。攻撃するために最も必要なスペースがね。

ボールを常に支配していくことの重要性は、そのことによって仲間の選手にボールを回していくという権利が生まれることだ。例えば、今あなた方のチームが1−0で勝っているとしよう。そしてボールも常にあなた側にあるとしよう。相手チームの選手はそこで何をしてくるか。普段ならしてこないだろう危険を犯してでもボールを奪おうとしてくる。危険を犯してくるわけだから、当然ミスを犯すケースも普段以上に増えてくる。そしてそれはあなた方の攻撃を可能にするスペースが生まれてくるということでもある。相手は無理して動いてくるわけだからね。当然のごとく、普段では生まれないスペースが広がってくるんだ。

そしてボールを支配していく上で注意しなければいけないこと。それはできる限り、ボールを持っている選手の前に自陣の選手が少ないことが望ましいということだ。それは次のように言い換えることができるだろう。つまりディフェンスの選手間でボール支配をする時間を、極力短くするということだ。それは単純な理由さ。ディフェンスをしている選手の中で、いったい何人が中盤の選手やデランテーロよりテクニックがあるか。普通のクラブでは一人もいないと考えた方がいいだろう。最もテクニック的に優れた選手たちによって、ボールは回されるべきなんだ。テクニック的に優れた選手がいるポジション、それは中盤だ。したがって中盤でボールは回されなければならない。そしてそれを楽にするのは、中盤の選手の数を相手チームより一人多くすること。そうすればボールは回りやすくなるだろう。最近の傾向として中盤・中盤という感じの選手は2、3人しか置かない傾向がある。だが私は常に4人の選手を中盤選手として配置した。それもテクニック的に最も優れた4人の選手をね。

グランド上ではできるだけ選手を自由にプレーさせる事が重要だと思う。私がこう言うと、古いファンの人々は60年代末のアヤックスやオランダ代表をイメージするだろう。すべての選手に自由なプレーを展開させることが可能だった時代。そう、それは正しいと思う。だが同時に忘れがちではあるが重要なことを付け加えておかないといけない。自由なプレーというのは常に一つの規律というか、約束事があって初めて可能になるということを。

自由にプレーする権利はすべての選手にある。だがその自由を得る選手は、一つの瞬間に一人だけだということを忘れてはいけない。そしてその一人の自由なプレーの裏では、少なくても5人の選手がその選手のカバーに走らなければならない。それが規律であって約束ごとなんだ。

例えばもし中盤の選手がチャンスをつかみ、相手ゴールに向かっていってシュートを試みようとする。するとデランテーロの一人は必ず下がってその選手によって空いた穴を埋めなければならない。すべてはポジショニングの問題なんだ。今ではドリームチームと呼ばれる時代に戻ってみよう。ペップ、ラウドゥルップ、バッケロ、エウセビオ。そう例えばこの4人の中盤選手が適切なポジショニングをしていれば、絶対といっていいほど我々を驚かすようなプレーは起きなかった。もしエウセビオが「自由の権利」を得て相手ゴールに走り込んだとしよう。それと同時にどちらかのサイドバックの選手、フェレールかセルジがその穴を埋めにいかなければならない。これで中盤の4人のポジションは壊れない。

ポジショニングということでさらに言うならば、私は各選手の距離は最高10mまでだと思っている。これ以上離れてはいけない。またあの時代を例にとって語ってみよう。我々のチームで誰が一番ディフェンシーブな選手だったか。それはロマリオなんだ。彼の守備的な役目はただ一つ、それはキーパーがボールを蹴る時に、少なくともキーパーがボールをとった場所でおこなわせること、それだけだ。ロマリオはキーパーにプレッシャーをかける任務を持っている。そのプレッシャーで我々のディフェンスが10m前に上がることが可能になるんだ。もしロマリオが夜遊びが過ぎて眠そうにプレーしてこのプレッシャーを怠るとどういうことになるか。キーパーが16mラインのところまで上がることが可能になり、そこからボールを蹴ることになる。そうすると我々のディフェンスは10m下がらなければならなくなる。その結果、中盤の選手も距離間を保つために必要以上に下がらなければならなくなる。もし下がらなければディフェンスと中盤選手の距離が必要以上離れてしまうことになる。チーム全体が下がりすぎないようにする最初のキーポイントを握っていたのはロマリオなんだ。


JOHAN CRUYFF
[ ME GUSUTA EL FUTBOL ]