モリエンテスをめぐって
(2002/09/05)

ロナルドはインテリスタを裏切り、思い通りマドリの選手となった。この間の経過について、いつものようにマドリッドメディアとカタランメディアとの「戦争」が繰り広げられていた。最初の「戦争」テーマ、それは本当にロナルドはバルサに行く可能性があったのかどうかということ。つまりインテルがマドリの傲慢な態度に反発して、バルサに1年間のレンタル移籍を申し出た可能性だ。マドリッドメディアは具体的な証拠をあげられないもののその可能性を否定する。だがそれを真実とするカタランメディアは、それを事実上断ったのが本当にバンガールだったのか、あるいは資金不足が原因でクラブ首脳陣が断ったかで二つに分かれ、カタランメディア内で「戦争」を繰り広げていた。
二つ目の「戦争」原因、それはモリエンテス移籍問題だ。バルサはモリエンテスを獲得する気は本当はなかったとするマドリッドメディアに対し、モリエンテスの要求額が高すぎたからバルサに来なかったとするカタランメディア。
だがマルカやアス、そしてエスポーツやムンドというスポーツメディア間における「戦争」とは別に、それぞれのクラブを担当するジャーナリストに、それぞれのクラブの分析をさせている一つの一般メディアがある。


ガスパーの混乱
El Pais 紙 (Barcelona 発)
A.Pino~l/R.Carbonell 記者

もしかしたらガスパーは、「混乱」という神の顔を見てしまったのかも知れない。あるいは、もしかしたらガスパーは、ロナルドのマドリ入団の経済的支援をしたとソシオに追及されると思ったのかも知れない。ロナルド、それはかつてのカンプノウでの絶対的アイドルだったクラック。あるいはもっと多くのことを一度に思い出したかも知れないガスパー。念願の会長に就任した日に、マドリでフィーゴのプレゼンテーションがあった瞬間のことを。あるいは、そう例えば2か月前に監督就任が決まったバンガールが、2年前にカンプノウで白いハンカチに追い出されるように出ていった日のことを。それらの回想が、今しようとしていることが決して許されるべきことではないと思ったのかもしれない。ソシオの一人として、またバルセロニスタとしてのガスパー、彼にとってソシオからの批判は耐えられないものだ。

いずれにしても、バルサ首脳陣は思いがけない突然のストップをかけた。8月31日22時、モリエンテス移籍交渉が否定的に終始符をうった瞬間だ。ロナルドのマドリ移籍作戦のカギを握る人物と見られていたモリエンテス。チャンピオンズに参加する選手の登録期限2時間前に、モリエンテスの獲得を「諦める」ことを決意したバルサ。その日の夕方にはほぼ交渉成立というニュースまで流れたモリエンテス獲得交渉。だが陽が落ち暗くなってくるに従い再び交渉が難しい局面を迎えることになる。

20時、バルサ首脳陣の一人は次のように記者に語っている。
「交渉は非常に難しいものとなってしまった。インテルに支払われる移籍の際の違約金以外にも、選手が要求する年俸が予想以上に高いものとなってしまっている。だが我々は条件を変える気はない。」

バルサはこの交渉が破談になった原因を、モリエンテス側(当人と代理人)の破格な要求のせいとして残念がる。モリエンテス側が要求した年俸はマドリのそれと同じ300万ユーロだとも言われるし、ある筋によれば500万ユーロとも言われている。バルサ側が提供した具体的な数字についてはわからない。だがこれまで多くのバルサの選手が年俸更改の時に示されたような基本給+出来高計算によるものであることは確かだろう。

23時、日が変わるまであと1時間というとき、モリエンテス獲得交渉の破談をクラブのウエッブページを通じて正式発表する。

これより4日前の8月27日火曜日、バルサはハッセルバイン獲得の交渉を断念し、この夏の補強選手作戦の終止符をうったことを発表している。その発表の中で「ハッセルバイン獲得はそれほど緊急な問題でもなかった」と語っているが、それは明らかにバルサの実体を隠蔽している表現だった。バルサは実に大きな経済的問題を抱えているのだ。例えばリケルメは2回の分割払いで獲得しようとしている選手であり、メンディエタに至ってはレンタル移籍にしか過ぎない。かろうじて100%獲得できたのは、移籍料なしのエンケだけという現実がそれを如実に物語っている。

同じ火曜日、もう一つのニュースが流れた。それはインテルがロナルドをバルサにレンタルする用意があるというものだ。インテルの意図は確かだとしても、だが、果たして、バルサがロナルドを獲得できる可能性を信じた人々がいったい何人いただろうか。ハッセルバインさえ獲得できなかったバルサがどうしてレンタル料として要求する600万ユーロを払えるのか。たった1年のレンタル料に600万ユーロだ。そして翌年には何と完全移籍料として4800万ユーロを用意しなければならない。バルサにとって、そしてバルセロニスタにとって、それはまるで冗談の世界の話しだ。バンガールはロナルドのレンタルを断った理由を次のように語る。
「まず彼のプレースタイルは私のシステムに合わないし、すでに我々は4人の外国人選手がいる。彼らを大事な選手だと思っているし、ロナルドの私生活の態度も気に入らない。」

だがそれからわずか3日後の金曜日、2000万ユーロの移籍料でモリエンテスがバルサにくるかも知れないというニュースが流れる。混乱、混乱、果てしない混乱。副会長でありクラブの経済部門を預かるカステールスがつい最近に語った言葉をソシオは忘れていない。
「現在予想されない、これ以上の補強が可能になるためには、クラブとしては緊急処置として何らかの収入源を得なければならない」
だがガスパーは副会長ではなく会長だった。そしてマドリに一泡吹かせたいと思っているバルセロニスタの一人だった。ガスパーはその金曜日に即時に判断し、土曜日にはすでにモリエンテス獲得に走るようにクラブ首脳陣に命じている。その資金はいったいどこからでてくるのか、それは誰もガスパーには質問しない。

経済的問題からか、もともと計算されたシナリオだったのか、あるいはガスパーの混乱だったのか、いずれにしてもその結論は土曜日の23時に発表されることになった。


 

フロレンティーノによる強権
El Pais 紙(Madrid 発)
Diego Torres 記者

何らかのグループであれば、そう、例えフロレンティーノが生きる建設会社世界のグループであれ、あるいは小学校の仲間が作るグループであれ、もしそのグループが危機を迎えたときにはリーダーの登場が必要となる。そしてそのような状況を乗り越えて、初めて誰がグループのリーダであるかを認識させることにもなる。

ロナルド獲得の最後のチャンスとなったモナコ会談終了後、フロレンティーノ・ペレスは誰がマドリのリーダーであるか、それを認識させる絶好のチャンスをものにした。マドリというクラブ内に古くから伝わる慣習、それは大物選手が中心となってのグループ支配だ。そしてそのグループが迎えた「危機」状況は、モリエンテスのヨーロッパスーパーカップ不出場というものだった。クラブ上層部の命令でデル・ボスケがモリエンテスをフェイノルド戦に外したことを不満に思うラウル、イエロ、グッティの3人のカピタンたち。彼らは直接フロレンティーノに詰め寄り、説明を要求することを決意する。何故、クラブはモリエンテスをバルサに売り飛ばそうとしているのか。それを問いただすためだった。

フロレンティーノは会長に就任した時から、大物選手によって構成されるグループ権力の存在を知っていた。古くはメンドーサが会長を務めたとき、最近ではサンスが会長に収まっていた時もよく問題となったからだ。彼ら会長たちはブートラゲーニョとかサンチス、ミッチェルを神様みたいに扱っていた。これらの選手が要求することは絶対のマドリだった。このあってはならない権力グループを放置してはいけない、建設業の大会社で会長を務めるフロレンティーノにとって、社員の必要以上の権力保持とそれによる反乱は許すことのできないことだった。

一方、この3人のカピタンとフィーゴを頂点とするこのグループは、決して自分たちのことを「一般社員」だとは思っていない。クライフが言うように「クラブの本当の権力はクラブ首脳陣がもっているのではなく、選手控え室を城とするフットボール選手たちにある」と信じている。だから仲間の一人であるモリエンテスがまるで「傭兵」のように扱われたり、「人間性」を無視した扱いをされることに黙ってはいられない。あのフィーゴでさえそう思っているのだ。ムニティスがクラブを離れようが、ファビオがクラブを離れようが、それは冷静に受け止める彼らたち。なぜなら彼らはベンチ内の重要選手ではないからだ。だがモリエンテスはグループ内の仲間だ。さらに彼らには、ディ・ステファノ時代以来のマドリ黄金期を形成している「グループ」の自負がある。

スーパーカップ優勝後のグランドホテルでおこなわれた祝勝会はすでに夜中の2時となっていた。イエロはフロレンティーノに「会談」を申し込む。ホテルのカフェでおこなわれた「会談」。イエロとフロレンティーノは一つのテーブルに向かいあうように座っている。すぐ脇にあるテーブルには、顔だけフロレンティーノに向くような形でラウルとグッティが座っている。

イエロはフロレンティーノに語る。
「会長、オレ達はまるで傭兵のように扱われるのは納得いかない。オレ達はプロ選手である前に、まず人間なんだということを知って欲しい」
彼らにとって仲間のモリエンテスをバルサに売り払うということは、彼らグループへの攻撃と訴える。

フロレンティーノはこれまで自分の会社を大きくするためにあらゆる手段を駆使してきた人間だ。組合組織や敵対会社との対立は珍しいことではない。そして今イエロの前に座っているのはマドリというクラブの会長ではなく、大建設会社の会長のフロレンティーノだった。会社のためなら何でもしてきたフロレンティーノがイエロの前に座っている。フロレンティーノの態度はキッパリとしたものだった。
「プロ組織で、情に流されるのは愚かなことだ。」

モリエンテスはバルサには行かなかった。だが彼の移籍問題で、一人の人間が「グループ」権力に対しリーダーの存在を主張した。このフロレンティーノというリーダー候補と、グループ権力を維持していこうとする仲間たちの内部抗争も生まれることになった。シーズンは長い。シーズンを戦うのも、イタリアからやって来る選手をどのように迎え入れるのかも、すべてこのグループ次第であるということを彼らは知っている。そう、シーズンは長い。


EL PAIS 2002.9
訳・カピタン