バルサ医師白書
(2002/09/29)

ベティス戦の敗北をバンガールは疲労を一つの原因として語っている。しかしヨーロッパの大会に参加しているビッグチームはほぼ同じようなスケジュールのもとで試合をしており、バルサだけが例外ではないはずだ。そして記憶に間違いなければ、バルサには20人前後の出場可能な選手がいるはずだ。まあそれはここでは議論すまい。ここでは違うことが、もっと興味深いことが論じられている。バルサの医師であるプルーナ氏が、選手の「疲労」に関して専門家の立場から説明する。


先週の日曜日(9月22日)から来週の火曜日(10月1日)の10日間で、バルサの選手は実に12000キロ以上という空の旅に出ることになる。リーグ戦、チャンピオンズリーグの試合をおこなうためだ。バルセロナ→イスタンブール、イスタンブール→バルセロナ、バルセロナ→ウエルバ、ウエルバ→バルセロナ、バルセロナ→モスクワ、モスクワ→バルセロナ。単純計算で機内に20時間近く、待ち時間8時間、空港までのバス、あるいは空港からのバス乗車時間が6時間以上、合計34時間をかけての移動となる。

スポーツ医学の医師としての長い経験によれば、エリートフットボール選手が試合で消費するエネルギーは常人では考えられないものだ。バルサの選手を例にとっていえば、一試合90分をプレーすることにより普通の選手であればだいたい3キロの体重が失われる。プジョーやメンディエタに関して言えば、一試合で4キロ痩せることも決して珍しくない。だが彼らエリートフットボール選手にとって、体重の損失そのものは大した問題ではない。翌日からの回復が順調にいけば何の問題もないことなのである。そして肉体的な回復は、同時にメンタル面の回復をもっておこなわなければならない。

それらの回復は試合後にすぐ始めるのが理想的だ。失った水分の補給とエネルギーの補給を可能な限り試合後におこなうのがいい。そしてひたすら休養をはからなければならない。リラックス、リラックス、肉体的にもメンタル面でも、これ以上に大事な要素はない。だが実際には多くの選手にとって試合後に完全にリラックスするということは不可能なことでもある。少なくとも簡単にできることではない。なぜなら試合後の睡眠は普段のそれとは比べらものにならないほどお粗末なものになるのが普通だからだ。「爽快な眠り」などはまず期待できない。試合後に経過したわずかな時間だけでは、試合中に受けた「ストレス」から神経組織が完全に元に戻りきれないからだ。試合中の緊張感、興奮感、怒り、叫び、グランドの騒音、強烈な照明、そして多くのアドレナリンの分泌、これらのものが神経組織を異常化する。そしてその神経組織の異常化が個々の選手の筋肉疲労をさらに生み出す結果となる。

失われた体重の回復、筋肉疲労の回復、メンタル面の正常化、エネルギーの補給、これらのものは試合翌日から始められなければならない。軽いジョギング、ボールに触っての筋肉刺激、これらを30分か40分おこなうことにより次のことが可能となる。まず筋肉に新鮮な酸素を送り込むこと、そして筋肉組織にたまった酸化成分、乳酸化成分、そして毒素の排除が可能となる。だが試合翌日の「回復練習」はじゅうぶん注意しながらおこなわれなければならない。なぜなら「回復運動」と「筋肉増強運動」とは紙一重であるからだ。体重を3キロも4キロも失った段階での「筋肉増強運動」などはスポーツ選手にとって自殺行為にも等しい。したがて細心の注意を払っての回復練習をおこなわなければならない。そしてそれがすめば、後は水分を可能な限り補給し、エネルギー源となるものも可能な限り補給し、休養、休養、そして休養に心がけなければならない。

試合があった日からの2日目の夜は、かなり楽になっているのが普通だ。完全に元の状態に戻る3日目の夜には劣るものの、かなりのペースで回復しているはずである。すべての根源となる神経組織、つまり筋肉疲労やその回復やすべての関節関連の回復、それは神経組織の機能次第となっている。この2日目の夜にはすでにその神経組織が90%は回復するのが常識である。できればこの日には仲間内でのリラックスしたパーティーなどがあれば、さらに神経組織回復によい。いずれにしてもこの日を境に、回復運動が終了し、翌日の練習では次の試合に備えた「エネルギー増強」の練習が可能となる。そしてその夜、つまり前の試合から72時間経過した段階で、すでに90分の試合に出場するための準備ができることになる。

だが実際にはこうならないのが現状だ。それはなぜか? 簡単なことだ。遠征のための移動が、これらの回復運動を台無しにする恐れがあるからだ。いや回復作業がムダになるだけではなく、さらに消耗した状態に選手を追い込むことさえある。長時間にわたる移動は、神経組織に試合でのそれと同じように消耗感を与え始める。そのことは同時に筋肉や関節関係にも打撃を与えることは自明の理である。また待ち時間の多さや、移動の際のイライラがメンタル面に刺激を与え、さらに筋肉や関節に打撃を加える。マイナス面はさらにマイナス面を生み出す。それはふつうの労働者や旅行者にしても同じことであろう。精神的、肉体的疲労が、その回復の条件となる睡眠を妨害する。

これらの厳しい現実をふまえた上で、それでも回復をはからなければならないのがエリートフットボール選手だ。医学的にみてこれ以上できることは、試合翌日の回復運動をさらに強化することしかない。午前と午後に分けてのそれぞれ30分、40分を費やした回復運動。そしてエネルギー補給のために、現代医学が生み出したビタミン剤などの使用も当然なされなけれなならない。さらに「強制的」な休養を選手たちにとらせるための、ホテルなどを利用しての「合宿」も必要となる。

これだけの努力をしても、12000キロという移動は彼らにとって多くのエネルギー消耗となることはさけられない。


Ricard Pruna ( doctor de FC Barcelona)
訳・カピタン