再びクーマンは語るのだ
(2002/11/14)

アヤックスの監督に就任してもう少しで1年が経過するロナルド・クーマン。これまで36試合を指揮し24勝、引き分けが9回、そして敗戦はわずか3試合という素晴らしい結果を残してきている。この結果は同時に1試合平均2.25ポイントを獲得していることを意味し、試合数の違いがあるとはいえバンガール(280試合)監督が記録した2.21ポイントをさえ超える数字となる。2001年1月25日のこのコーナーではまだビテッセ監督クーマンのインタビューを掲載したが、今回はアヤックス監督クーマンのインタビューとなる。


つい最近ですが、アヤックスの会長が「うちのクラブは将来のバルサの選手や監督を育てているようなもんだ」と語っていましたが、やはりあなたの将来はバルサですか?

会長の個人的な意見はもちろん尊重するけれども、自分の将来を決めるのは自分だけであって自分以外の誰かが決めるものではないだろう。まだアヤックスとの契約は2年残っているし、その先のことを考えてもしょうがない。もっとも監督の契約期間なんてあってないようなものというのも確かなことで、もし結果がだせなければ契約終了を待つまでもなく追い出されることになるだろうがね。それがこの職業で喰っている人間の宿命だ。

そうは言っても、いつかはバルサの監督になるというのが多くの関係者の声ですが。

自分がバルサの監督に、それがいつになるかは別として、いつかはバルサのベンチに座ることを夢見ている人間だということは秘密でも何でもない。もうかれこれ1万回近くは繰り返し語ってきたことだから、多くの人がそう予想したとしても不思議なことじゃない。その願望はアヤックスの監督となった今ももちろん変わってはいない。だが同時に、その願望を持っていることと、バルサ以外のクラブのオファーを検討するということはまた別の問題だとも思っている。チームの調子や結果には常に波があるように、監督の立場にも常に波乱がやってくる。「タイミングのいい時期」に「タイミングのいいオファー」が来た場合、それを検討しないのはプロとは言えないだろう。バンガールの下でコーチをやっている時に、自分の監督としての可能性を確かめたくてビテッセに行った。それが監督業での最初の冒険だった。そしてアヤックスから監督就任の要請が来た。ビテッセでは予想以上にうまくことが運んでいたから、この要請を受けるのは冒険といえば冒険でもあった。でも失敗の可能性を恐れていては何もできない。常に危険は避けられない世界に生きているプロとしての自覚は人一倍あるつもりだ。

あなたの選んだ冒険がアヤックスというクラブで「成功」という報償を与えようとしているようですね。

「成功」するかも知れないけれど「失敗」するかも知れない。一つだけ言えることはビテッセを指揮していたクーマンとアヤックスを指揮しているクーマンという監督は同じ人物だということさ。違いは何かと聞かれたら、クラブが抱えている選手のレベルの違いと答えるしかない。そんなもんだよ、フットボールは。

ガスパー会長にしてもバンガール監督にしても次期の監督候補としてあなたを一番にあげていますが。

自分は事実しか信じない人間。これまでバルサは一度たりとも正式なオファーを示してきたことはないし、繰り返すことになるが、監督なんていう職業についている人間の将来なんてあやふやなもんだ。すべてが結果の世界に生きているんだからね。2年間のアヤックスとの契約が残っているといってもそれは「結果」次第の話しであるわけで、もし4連敗したら今から1か月後にはもうアヤックスの監督ではなくなっているかも知れない。それはバンガールにしても同じだし、監督ではないけれどクラブ会長にしても同じことが言えるだろう。自分の将来がはっきりしていないのと同じように彼らの将来もはっきりしていない。だからはっきりしない将来にことなんかより「現実」に生きるのがより正しいことだと思うよ。

アヤックス会長のいう「バルサのために」というのオーバーとしても、それでも有望な選手は常に他のクラブへの移籍がおこなわれるのがアヤックスの歴史的な運命ですね。

それはしょうがないことだ。アヤックスというクラブはそういう運命にあると諦めるしかない。今の選手でいえばチブやラファ・バン・デル・バーがそういう運命をたどっていく選手だろう。アヤックスよりも更に大きなクラブへ、経済的にも更に多くのものを約束してくれるクラブへ、そしてフットボール選手として最大のタイトルを獲得できる可能性がよりあるクラブへの移籍。それはプロ選手として当然のことだと思う。そういう自分にしてもそういう選手の一人であったわけだし、彼らのことは理解できる。残念ながらそれがアヤックスに限らずオランダクラブ全部が抱える運命なんだ。

来シーズンには何人の有望な選手がいなくなると思いますか?

それはわからない。わからないがかなりの数の選手が移籍する可能性はあると思う。クラブの経済状態も他のクラブと同じように良くないだろうし、まして良いオファーが来ている選手を止めることは不可能だ。問題は、そうそれが問題だとすればの話だが、アヤックスには彼らを引き止めることができないことだ。歴史的にアヤックスは他のヨーロッパのビッグクラブには経済的には立ち向かうことができないし、繰り返すことになるが、選手を育ていつかは他のクラブに持っていかれるのが我々の運命でもあるからね。監督としての立場で言わせてもらえば、もし今の選手たちで3年間戦い続けることができるなら、間違いなくミランを敗った頃のアヤックス、つまり95年のアヤックスになれると信じている。

チブがいつだったか、アヤックスを出るときはあなたと一緒にでたいと語っていましたが。それはバルサになるんでしょうかね。

ハッハッハッハ、そうなるといいけれどお互いにプロの世界に生きている人間だからね。各人が各人の責任のもとに行動するしかない。チブにしてもラファにしても大きなクラブが狙っているのは確かだろう。もう具体的なオファーが彼らのところに来ているかも知れない。チブは21歳、“エスパニョール”ラファはまだ20歳だ。どこのクラブも喉から手が出るほど欲しい選手だろう。個人的な印象としてはチブは来シーズンあたりでたとしてもラファはもう1年ぐらい残るんではないかな。

二人のバルサの選手に関して。まずクルイベル。

クルイベルの可能性に疑問を持つことは愚かなことさ。ゴール数が少ないという批判はバカげている。9番としてはわがままさに欠けているという批判があるとすればそれは当たっているかも知れない。それを認めたとしても彼は偉大な9番だと思う。間違いなくあのポジションでは世界屈指の選手だよ。しかも年ごとに確実に成長している選手だということに気がついている人々が少ないと思う。バルサに入団した頃のビデオと最近の彼のプレー態度を見比べれば一目瞭然。彼はまだまだ伸びると思う。

プジョー。

彼はバルサBにいた頃から知っている選手。己に対する「自信」というものがこれほどまでに一人の選手を成長させるかという良い見本だと思う。成功だとか勝利だとかいうことを心の底から信じることによって生まれる「自信」が彼のすべてだと思う。それが彼のエネルギーであり、クラブに対する愛情が更に彼を強固にしているんだろう。バルセロニスタのアイドルになった感があるけれど彼にはそれが相応しいし、彼の契約更新も嬉しいニュースだった。

チャンピオンズでは次のステップに進むことに成功しましたが、バルサと同じグループの可能性もありますね。

そうなればフィエスタだね。フットボールを本当に愛するファンにとってはまさにフィエスタになると思う。プレステージの試合で見られたように、アヤックスとバルサの試合はスペクタクルの同義語となると言ってもおかしくない。お互いにチームが練れてくる春ぐらいに当たるのが理想的だけれど、グループ戦でも問題はないだろう。1位と2位のクラブが先に進めるわけだし、お互いに進んでオールド・トラッフォードで対戦できれば最高だ。