我らが敏腕弁護士、コローナス
(2002/12/19)

2002年11月23日にカンプノウでおこなわれたバルサ・マドリ戦での“不祥事”に対する制裁が12月10日に発表された。
「カンプノウを2試合閉鎖、罰金4000ユーロ」
これがスペインフットボール連盟競技委員会が7時間という、想像を超える時間をかけての協議の結論だった。そして奇妙というか偶然というか、マドリッドラジオ各局がスポーツ番組をはじめる夜中の0時に合わせて制裁発表がおこなわれた。

委員長のフェルナンド・セケイラは制裁内容を簡単に説明する。スタディアムでおこった“不祥事”のカテゴリーは通常3つのレベルに分けられる。“軽い不祥事”、“重大な不祥事”、あるいは最も重い“非常に重大な不祥事”。
“軽い不祥事”と認定された場合には罰金だけの処分となる。“重大な不祥事”この場合は1試合から3試合のスタディアム閉鎖と罰金、そして“非常に重大な不祥事”と認定された場合は4試合から半年間のスタディアム閉鎖と罰金。今回のカンプノウでの出来事は“重大な不祥事”と語るセケイラ。
「2試合の閉鎖措置としたのはバルサ側が完璧とは言えないまでも厳重な警備をしいていたこと。また加害者の捜索に全力をあげていたことが評価された。ではなぜ1試合ではなかったか、それは選手たちを危険な状態におとしめたこと、しかも試合の中断を生んだことによる。」

それから3日後の12月13日、バルサは控訴委員会にこの判決を不服として控訴する。控訴するにあたってバルサ弁護団は競技委員会に提出した“申し出書類”以外の新たな内容のものは用意していない。つまり競技委員会に提出したものと同じ内容のものをもって控訴している。その最大の理由は「我々が用意して提出した書類を厳密に検討すれば、今回のような判決内容にはならない」からだ。
そう語るのは弁護士でありクラブスポークスマンでもあるジョセップ・マリア・コローナス。カタルーニャのペリーメイスンと呼ばれる敏腕弁護士だ。彼は熱いバルセロニスタの一人ではあるが、冷静な、それも非常に冷静な弁護士。彼らが作り上げた“申し出書類”の内容には完全な自信と信頼感を持っている。かつてビルバオ戦でリバルドが相手ディフェンスにヒジテツを喰わせたとしてマドリメディアが試合後に大騒ぎした事件があった。競技委員会にプレッシャーを加えリバルドに試合出場停止の処分を要求した事件だ。あの時も「リバルドはすでにグランド内で審判に制裁を受けている」として競技委員会の介入を見事に防いだ実績を持っている。

コローナスの論理は単純にして明快だ。カンプノウ閉鎖措置が誤りであるという反論理論は大きく分けて次の二つに要約される。
「まず我々は、国家及びフットボール協会が定めているスタディアム警備条項を完全な形で遂行している。地元警察の指示の下に彼らの要求するすべての警備状態も確保した。スタディアム所有者、つまり今回の場合は我々フットボール・クルブ・バルセロナになるわけだが、スタディアム所有者が一つの催し物をおこなう上での責任体制を我々は完璧に果たしていることになる。フットボール規約によれば、スタディアム所有者が警備体制などの義務を果たさなかった場合におきた“不祥事”に関しては責任を負わなければならないが、義務を果たした場合は、しかもそれが第三者による“不祥事”の場合は閉鎖というような罰則条項は存在しない。したがって彼らが検討しなければならない内容は、閉鎖するかしないか、そして閉鎖するとすれば何試合かということではなく、罰金をいくらにするか、それだけでなければならない。」

40人近くの“容疑者”が報告されているが身元確認はおこなわれていない。それは不可能に近いことだろう。もしソシオだとしてもソシオ登録するときに写真は提出義務条項には入っていない。もし何らかのつてを通じて入場券を手に入れた一般ファンだったらなおさら確認できない。ひょっとしたらマドリファンという可能性さえある。いずれにしても身元確認されていない“第三者”の行為をクラブが責任を負う法的根拠はいっさいないというのが彼の基本的論調だ。そしてなによりも閉鎖措置を決めるフットボール規約にあること、つまり観客席での暴力行為やグランド内での暴力行為、まして一般人のグランドななだれ込みという事実もなかったことを主張する。

そして二つめは、過去の他のスタディアムで起きた“不祥事事件”を例にとり「法律はすべてに平等に執行しなければならない」としているところだ。いくつかの例を彼らが提出した“申し出書類”の中から抜粋してみよう。

1999年6月20日 ラージョ・バダホス戦
観客席から物が投げ込まれ、審判を守るためにグランド内に警察官が出動(罰金600ユーロ)
1999年8月29日 エルチェ・アルバセテ戦
観客席から投げられた石が審判の右足に当たり軽い負傷(“軽い不祥事”と認定され罰金600ユーロ)
1999年12月8日 ラージョ・バルサ戦
観客席から多くの物が投げられ、電池がフィーゴに当たり負傷、そして審判にも4つの電池が当たる(罰金2400ユーロ)
2000年2月16日 ラージョ・At.マドリ戦
グランド内に靴や野球のバット、やり投げ用のヤリ、鉄棒などが投げ込まれた(2400ユーロ)
2000年3月11日 オサスナ・ログローニョ戦
観客席から多くの物が投げ込まれ、そのうちの一つの空瓶が線審に当たり負傷(罰金1500ユーロ)
2000年6月4日 オサスナ・レクレ戦
火のついた発煙筒やライターなど、ありとあらゆる物が観客席から投げられた。ファンがグランド内に何人か侵入(罰金2400ユーロ)
2000年12月5日 ベティス・エスパニョール戦
観客席から多くの物が投げられ、コインが審判に当たり負傷(罰金1800ユーロ)
2001年3月4日 マドリ・バルサ戦
コーナー付近に多くの物が投げ込まれた。セルジとグアルディオーラに携帯電話が投げられそのうちの一つがセルジに命中(罰金600ユーロ)

ほんの一部の例であるが、これらに共通していることはどこのスタディアムも罰金だけの制裁で済んでおり、スタディアム閉鎖という事態にはなっていないことだ。そしてこれを「競技委員会は法律に則り正しい判断の元に制裁を各クラブに与えた」と評価する我らがコローナス。観客席内やグランド内ので暴力はなかったし、グランドを観客者によって埋められる事態にもならなかったから罰金制裁が正しいと彼は語る。

「したがってカンプノウを閉鎖することは、法律は平等にという論理に反することだ。これらの例の中にはカンプノウでの“不祥事”よりもさらに重大なものがいくつかある。それでも閉鎖という処置がとられていないのだからカンプノウも閉鎖すべきではない。我々法律家はものごとをすべて平等に扱わなければならない。それは社会的な影響という観点から見て、それが少ない大きいに関わらず、実際に起きた事実だけを見て判断を下さなければならない。スタディアム所有者がすべてのノルマを果たしていながらも起こってしまった“不祥事”、それは我々としては非常に残念であり決して繰り返してはならないことなのは明らかだ。だが一部の人々の“不祥事”をもって10万ソシオとカンプノウに対する制裁を加えるのではなく、実行犯としての第三者に対して制裁を加えるのが法律家としての意見だ。」

競技委員会はこの「社会的に与えた影響が大きい」ということを一つの重大問題としてあげている。それは試合後の各階層の人々の意見、特に政治家を中心としての意見が毎日のようにマドリメディアを賑わしていた事実を言う。マドリメディアも独自に反暴力キャンペーンの仮面をかぶったアンチ・バルサ記事で紙面を埋め尽くした。だがカタルーニャのペリーメースンであるコローナスは純粋に法律的な観点から物事は処分していかなければならないと考える。フィーゴに対するバルサソシオの感情を理解しても、グランドに物を投げる行為は正当化することはできない。それと同じように、法律的観点以外のことを検討内容に加えることも許されない。これは純粋な裁判なのだ。

答えが見つからない多くの疑問がいまだにいくつか存在する。
この試合で審判を務めたメディナ・カンタレッホが、どの時点で選手たちに引き上げ命令を出したのかはいまだに明らかにされていない。グッティを先頭としてベンチに引き上げたマドリだが、少なくてもその時点では審判による引き上げ命令は出されていないことは確認されている。
また競技委員会がカンプノウで実際におきた“不祥事”を審議するために使用したビデオは試合中継の90分のビデオではなく、マドリの民間テレビ局がニュース用に制作した物が投げられている瞬間だけのわずかな時間のビデオだった。本来なら試合が90分どのように流れたかを見なければいけないのにだ。
そして、なにゆえマドリメディアは“2試合閉鎖”という自信を持った”予想”を、競技委員会が正式に発表する2日前から公表できたのか。

だがコローナスはこれらのことを公式には追及していない。マドリメディアや政治家たちによる競技委員会へのプレッシャーを問題にすることは避けたいと考えるコローナス。競技委員会を構成しているメンバーはマドリソシオであろうがなんであろうが、もともとコローナスと同じ法律家であり彼らへの真実への追究の精神は疑わない。だがそれでも間違いをおこしてしまったのだろうと考えるコローナスだ。

多くの関係者が予想するところによれば、控訴委員会によって制裁が2試合から1試合に変更になるだろうということだ。それはコローナスもじゅうぶん予想している結果だ。だが彼はこの中途半端な“恩赦”は基本的に受け付けることはないだろうと語る。なぜなら彼ら弁護団が目的としていることは「法の平等な行使」である以上、カンプノウは2試合だろうが1試合であろうが閉鎖されてはならないからだ。
スエルテ! 我らがペリーメースン、セニョール・コローナス!