ドクトール・アンティックの処方箋
(2003/02/04)

「彼はこのようなチャンスを何か月も、いや何年も待っていたんだ。バルサみたいなビッグクラブで指揮をとるチャンスをだ。」
ラドミール・アンティックをよく知る人々が皆同じように語る。クラブがどのような危機状態をむかえていようと、あるいはチーム状態がどのようにひどいものであろうと、そんなことは彼には無関係であるとも語る。なぜなら己の可能性に絶対の自信を持っている典型的な人物、それが彼らが知るアンティックという人物だからだ。チーム状況が悪ければ悪いほどやりがいがあると感じるからこそ、ジョアン・ガスパーから将来のバルサの運命の糸を授かった瞬間にも笑顔が絶えなかった。そして、彼は勝利者としてバルサ史に残る成功をおさめるためにやって来た。

電話では何回となくバルサ関係者と連絡を取り合っていた彼だが、最初にクラブ副会長のクロッサと直接会って話し合いをしたのは先週の金曜日の早朝のことだった。クロッサはアンティックがどのような人物であり、現在のバルサに関してどのような意見を持っているか、それを直接問いただすために彼に会っている。彼から得た印象は非常に肯定的なものだった。それはもちろんガスパーに直接伝えられることになる。ガスパーとクロッサは、今のような状況を迎えているバルサを引き受けてもらうのに彼は最適な人物だという結論に達する。そして同時にアンティックの一つの要請事項を受け入れることになる。
「At.マドリは私が世話になったクラブ。クラブに対してもファンに対しても私なりの尊敬の念を抱いているクラブだ。したがって土曜日の試合には私はバルサ関係者としてカルデロンに行かないことを許して欲しい。」
もちろんこの要請は問題なく受け入れられた。

“アンティック、どうにかしてくれ”エスポーツ紙
“凄い仕事が待っている!”ムンド紙
“地獄が待っている!”マルカ紙
“二部落ちを救え!”アス紙

バルサ監督就任が決定された日曜日の各スポーツ紙のタイトルだ。だがアンティックは穏やかに語る。
「だいじょうぶ、バルサにはちゃんとした選手たちがいる。」
アンティックがバルサの監督として就任が決定してからの最初の“公式”発言だ。残りリーグ戦18試合、そしてチャンピオンズの試合の指揮をとる5か月間の仕事を引く受けた彼には60万ユーロが支払われる。だが彼は5か月という契約に何の問題もなくサインしたものの、それだけの短い期間だけのバルセロナ滞在という意思はないようだ。
「カタルーニャに30年間居続けるつもりで来たんだ。」
これが2番目の“公式”発言だった。

彼が最初にすること、それはすべての選手の肉体的、精神的状態を確認することだ。それは日曜日の監督就任記者会見がおこなわれた前後にも、それぞれ一人一人の選手との挨拶と共におこなわれている。アンデルソンの負傷状態はどのようなものか、クリスタンバールはどのような負傷問題を抱えているのか、サビオラはビルバオ戦に間に合うのか、一人一人の選手に話しかけ肉体的な問題と共に精神状態を確認して歩き回るアンティック。そして彼が選手との個人的な会話で最も時間をさいたのはルイス・エンリケとのものだった。

アンティックがイメージするニュー・バルサにとって、ルイス・エンリケの存在は非常に大きい。それはグランドの中で戦いの“魂”を周りの選手に浸透していくために重要な選手としてでだけはなく、ベンチ内でも選手たちに与える精神的影響力があるからだ。もし必要とするならば、監督の補助的な役目としてベンチに入れることも考えている。

これまでバンガールがおこなってきたような若手の起用をできるだけ避け、ベテラン選手とはいえないまでもすでに修羅場をくぐり抜けてきている選手を優先して起用しようと考えるアンティック。それは決してカンテラ上がりの若手選手たちであるイニエスタやモッタ、オレゲールなどを信用していないからではない。このような状況、つまりクラブを囲む環境そのものが非常にデリケートな状況の今、これまで多くの修羅場をくぐり抜けてきた経験豊かな選手によって、彼らが責任を一身に背負って戦うべきだと考えるからだ。

アンティックはこれまで在籍したクラブですでに証明しいるように、自分のアイデアを無理やり選手に押しつけるタイプではない。彼のアイデアが納得できない選手には納得いくまでトコトン話し合う。グランドでプレーする彼らが監督のアイデアを納得しないまま動いていたのでは効果が半減すると考えるからだ。もちろん選手たちからの彼に対する信頼感を勝ち取るのが重要な仕事となる。そしてその役目を手助けするのが彼と常に行動を共にしてきたクノバック・コーチだ。49歳になるクノバックは戦術的、技術的な面でのコーチ業はもちろん、選手と監督との人間的な意味での接触を大事にするコーチだ。そして対戦相手となるチームの様子をさぐるのも彼の得意とする仕事の一つだ。

これまで通りトレーニングコーチとしてパコ・セイルーロは残ることになる。だがそれでもアンティックは彼に任せっきりにするのではなく、個人的にもトレーニングに参加して選手たちの様子を観察することになる。なぜならこれまでテレビという小さい画面を通して見てきただけの結論ながら、現在のバルサの選手たちの体力的な問題を非常に否定的と考える彼だからだ。彼はバルサの選手の肉体が100%の状態ではないと考えている。そうでなければ、グランドで疲れた表情を見せることの多い選手がいることがどうしても理解できない。そして後半に入ると突然のようにリズムが落ちる状態も理解できない。

昨日、バルサの監督として初めて練習の指揮をとった。初日ではありながら彼のアイデアには一点の曇りもないようだ。これまでのすべてのバルサの試合を見てきているアンティック。何をどのように変えていかなければならないか、それは彼には一目瞭然だ。だが“彼のバルサ”を準備するには当然ながら時間が必要なこともわかっている。すべての選手を必要とすることになるだろう。だがそれでも彼にとって核となる何人かの選手はすでに決定されている。プジョー、リケルメ、サビオラ、クルイベル。

すでに述べたが、これまでの彼を見る限り、アンティックは選手との会話を非常に大事にする監督である。戦術的な説明もさることながら、選手の肉体的問題、精神的問題、そして個人的な何かの問題を抱えているかどうか、会話の目的はそこまで及ぶことになる。そして常に選手に語る一つのこと、それは次のような言葉だ。
「もし冒険をする気がなくなったら、君はそこまでの選手となる。」
ユーゴスラビア代表選手だった彼は自らの選手時代のことを忘れず、しかもその選手時代の経験を生かそうとする監督である。そして選手にはミスをする権利があると主張する監督でもある。だがミスは許されたとしても冒険することを放棄した選手は認めない。したがってシュートミスしたことで再びシュートすることを躊躇する選手、パスをミスしたことで再び創造的なパスを見送る選手、それらの選手は彼にとって批判の対象となる。4回も5回も続けて一対一の勝負に負けた選手の方が彼にとっては価値のある選手となる。もしラテラルの選手が3回しか攻撃に参加しなかったとしたら、次の試合では4回以上の攻撃参加を要求する。もしセントロカンピスタやデランテロが2回ずつシュートを失敗して試合を終えたら、次の試合には4点のゴールを要求する。そう、選手たちはもちろんミスする権利はあるが、責任も果たさなければならない、そう考えるアンティックだ。

レアル・マドリ、At.マドリ、オビエド時代に共通している一つのアンティック戦術、それはセットプレーの最大限の活用だろう。フリーキック、あるいはコーナーキック、難しくなった試合を勝利に導くセットプレーからのゴール。だがこれらのゴールは、飽くなき練習の成果から生まれるもの。シーズン開始当初からバルサに就任しているわけではない彼にとって、セットプレーの成果を得るには時間がなさ過ぎる。

数字で表すシステムは4−4−2というところだろう。これが彼の基本的なシステムと言っていい。高いラインを作り上げる4人のディフェンス、それが彼のディフェンス・コンセプトの重要なものだ。だが現在のバルサの微妙な状況を考えて、ディフェンスとキーパーの間に危険なスペースが開かないような“臨時的”なディフェンスシステムを形成する可能性もある。つまりそれほど高いディフェンスラインをひかない可能性もある。しかも今のバルサには彼がAt.マドリ時代にいたモリーナという足の使えるキーパーがいない。いずれにしても、このディフェンス4人のうち3人は必ず同じラインに残らなければならない。したがってサイドから上がる選手は左右のどちらからの一人。つまりプジョーかソリンということになる。

4人ディフェンスを形成するうえで一番の問題は二人のセントラルだ。これまでのバンガールバルサが抱えていた問題はそのまま残っていることになる。アンティックはアンデルソンを非常に高く買っている監督ではあるが、そのアンデルソンが完全に復帰できるかどうか、それが一つのキーポイントとなる。クリスタンバールは3月まで計算外となる。したがってここでも“臨時的”処置としてプジョーがセントラルに配置される可能性もあるだろう。

4人の前には一人のピボッテが配置される。攻撃的なピボッテというよりは守備的なピボッテだ。タイプとしてはビスカイーノ、オノプコ、あるいはベイベル。肉体的に強靱、身長は高ければ高いほど理想的であり、相手の高い攻撃に確実に反応できる選手。現在のバルサの選手の中で理想に近い選手と言えばコクーとなるが、アンティックはここでも“臨時的”処置として二人ピボッテとしてチャビとコクーを並べる可能性もあるだろう。

セントロカンピスタ、これらの選手はオーベルマルス、リケルメ、メンディエタ、あるいはコクーが大優先となる。At.マドリ時代にオーベルマルスの獲得を狙ったアンティックだけに彼には大きな期待をしているだろう。だがポジション的には左サイドではなく右サイドにおく可能性もある。二人の右に入り込む傾向のある選手、つまりリケルメ、あるいはメンディエタを左に置き、彼らが中に入っていった瞬間にソリンの上がりを狙う作戦だ。だがいずれにしても誰がどこのポジションに入るかは別として、この中盤での偉大なロンボを構成するには一人余ってしまうことになる。オーベルマルス、チャビ、コクー、メンディエタ、リケルメ。そして我らが偉大なカピタンもいつかは戻ってくる。

アンティックにとって唯一といっていいであろう、苦労しなくてはじき出される答えを持つポジション。それはツートップのデランテロだ。もちろんクルイベルとサビオラをおいて他にいない。


EMILIO PEREZ DE ROZAS記者
EL PERIODICO紙
訳・カピタン