ライカーに関する六つの疑問
(2003/10/14)

フラン・ライカーに関しては多くの疑問があるものの、その中で代表的なものとしては次の六つの疑問となるだろう。カンプノウでのバレンシア戦は悲惨な形で終了、たが問題は敗北したことのみに終わらない。なぜならあの日のバルサは、これまでの何試合かのものと同じように、バルサとしてのプレースタイルがいまだに発見されずに終わってしまったからだ。

1.なぜ、クルイベルは悪循環から抜け出せないのか?
リーグ戦25ゴールを約束したパトリック・クルイベルにまだゴールは訪れない。ゴールが訪れるどころか試合ごとにゴールから遠ざかっていくイメージを与えているクルイベル。彼はバルサ栄光の9番を背負った選手でありながら、自ら認めているようにいわゆる典型的なゴレアドールではない。ゴール数は毎シーズンにわたってレギュラーに記録するものの、試合を決めるゴールが少ないことも彼の特徴だ。昨シーズン、彼はリーグ戦で16ゴールを決めている。問題はこのゴール数ではない。問題は彼がゴールを決めた試合が11試合しかなく、残りの25試合にはゴールを決めていないことだ。そしてその傾向はリバルドがバルサを去ってから顕著なものとなりつつある。すべてのプレッシャーが彼に覆い被さる環境が生まれていることは否定できないことだ。

今シーズン、4試合に出場しているクルイベルはこれまで5本のシュートしか放っていない。しかも先日のバレンシア戦で放ったシュートが枠内に向かっている唯一のものだ。この数少ないサンプルから単純に数字を出すと、放ったシュートのうち、それも数少ないシュートのうち、わずか20%しか枠内に向かっていないことになる。それだからこそ、的を得ているかいないかは別として、カンプノウでは彼に対する批判が試合ごとに大きくなってきている。監督が誰であれ、それはバンガールであれセラ・フェレールであれレシャックであれアンティックであれライカーであれ、つまり彼への起用法が変わろうがどうしようが彼に対する批判が消えることはない。そしてバルサにとって最大の問題は、ライカーが信頼する控えの9番が存在しないことだ。ダニは背番号を与えられず、サビオラはサイド選手、そしてセルヒオはいつまでも“将来”の選手として認識されている。チビ選手は常に将来の選手なのだ。

2.なぜ、バルサはデランテロを獲得しなかったのか?
それではクルイベルに代わるデランテロをなぜバルサは獲得しなかったのか。それには二つの答えが用意されている。一つはライカーにとってクルイベルは絶対の9番として認識されていること。二つ、もしチキ・ベギリスタインを筆頭とするテクニカル・スタッフがデランテロを獲得しようとしても資金に問題がでてくる。クラブが必要とするメディア的クラック獲得に要する資金が優先事項となっていたからだ。ヨーロッパのクラブの中ではチェルシーに次いで2番目に資金(4300万ユーロ)を使ったバルサだが、その70%はロナルディーニョ獲得に消えてしまっている。だが今年の夏にバルサがまったくデランテロの獲得に走らなかったかと言えば、決してそうではない。

マカーイとの交渉がおこなわれている。シセー獲得の交渉もおこなわれている。サンドロ・ルセーとチキ・ベギリスタインの二人はこのうちのどちらかを獲得するために多くの時間をさいている。そして会長候補の一人でであったジョルディ・マジョーがすでに仮契約していたケズマンは、外国人扱い選手となることで彼らは最初から交渉をしていない。なぜならジョアン・ラポルタの最優先事項は同じく外国人選手扱いとなるロナルディーニョだったからだ。そしてクラブ会長の希望は達成され、メディア的クラックであるロナルディーニョ獲得は確かに多くのバルセロニスタに希望を与えることになる。だが彼はゴレアドールではない。現在までのところ、マカーイは6試合で4ゴール、シセーは9試合で7ゴール、そしてケズマンは7試合で8ゴールを決めている。

3.なぜ、ライカーはベテラン選手しか起用しないのか?
フラン・ライカーにとっての優先事項はまず結果をだすことだ。好結果を出すことがクラブを取り囲む環境に冷静さを生むことになると信じたからだ。結果をだすことを優先事項とした彼にとって、チキ・ベギリスタインが望む“バルサとしてのプレースタイルの確立”は鬼が笑うような先の話しだ。ひたすら好結果をだすこと、そのためには若い選手を起用しての冒険は許されない。修羅場をくぐり抜けてきている経験豊かな選手が頼みの綱となる。バレンシア戦、この試合にライカーは8人のバンガールの息子たち(プジョー、レイジゲル、オーベルマルス、クルイベルなどの孝行息子たち、ジェラール、チャビ、ルイス・エンリケなどの普通の息子たち、そしてビクトルという親不孝息子)を起用している。もしコクーとモッタにカード制裁がなかったら、10人のバンガール息子たちが登場することになっていただろう。7人という補強選手を獲得しながら、これまでの試合で彼らが起用された確率はわずか28%にしかならない。

ライカーのチーム作りの特徴は、それまでの“相変わらず”の選手を起用しながらポジションに変化を見せていることだ。セントラルとして開花したプジョーはラテラルに、生涯ラテラルのレイジゲルはセントラルに、守備的ピボッテあるいはセントロ・カンピスタであったコクーはセントラルに、ルイス・エンリケはある日はピボッテ、ある日はインテリオール選手に、そしてサビオラは11人の地図から消え去ってしまっている。だが、これまでの結果が示すように、ひたすら結果を求めたフラン・ライカーであるにも関わらず、結果はついてきていない。これは世の中の常識では“失敗”と言われることだ。

4.なぜ、バルサは試合ごとにシステムが変わるのか?
プレステージの試合を含めればすでに20試合近く消化しているライカー・バルサだが、いまだにこれはといったシステムが決められているわけではない。エストレーモの起用だとかトリデンテの採用だとか、あるいはクライフフットボールよりはアリゴ・サッキフットボールに傾倒しているライカーの発想だとか、そういうこと以前に大きな問題がある。それはバルサというクラブのプレー傾向にこれまでのところ何のアイデンティティーがないことだ。5試合に5つの違う11人スタメンを揃え、それぞれ違うスタイルで戦っていることが問題なのだ。

「この試合は我々にとってテストではなく、勝利するチャンスの試合だ。」
これまでカンプノウでの試合やUEFAカップ、あるいは国王杯での二部Bの試合でも聞かれたライカーの発言。彼の言葉をそのまま受け取るとすると、理想的なチーム作りのために選手やシステムを変えているというわけではないようだ。これまで24人の選手を起用して、降格ラインに早くも突入しているAt.マドリには上をいかれているものの、バルサはリーグ2位となる22人の選手の起用をおこなってきている。それが理想的なチーム作りを模索するものでなく、あくまでも結果をだすためのものであることを考えると、結果がでていない以上これも世の中では“失敗”という言葉が適切となる。

5.なぜ、新加入選手がプレーしないのか?
バレンシア戦ではコクーが出場できないところからマルケスが登場したが、ほとんどの試合での新加入選手スタメンはロナルディーニョとジオのみとなっている。クアレスマやルイス・ガルシアは後半に登場すれば良い方だ。マリオやルストゥに至ってはいまだにデビューさえ飾っていない。7人の選手を獲得しながらスタメンで出場するのは“クラック”選手であるロナルディーニョと、監督の絶大な信頼を勝ち取っているジオのみだ。もっともポルテロに関して言えば、ビクトルは誰もが認めるスタメン選手としての活躍をしているし、マリオに至っては負傷期間が長いこと続いている。バジャドリ時代にも負傷が多く16試合しかまともに出場していないマリオだが、バルサに来ても同じ運命をたどっていることになる。

ライカーフットボールにおいては、選手のフィジカルが強いか弱いかで大きな差となることが明らかになっている。モッタの復帰によりチビ・チャビが消え、チビ・イニエスタやチビ・セルヒオはあくまでも“将来”の選手となる。At.マドリ戦でバルサとして記録となるかも知れない平均身長1m82cmという選手たちがスタメン選手として選ばれている。それはそれで監督のアイデアというものだ、だが納得できないこともある。それはフィジカル的に衰えているルイス・エンリケや90分の試合で10分程度しか登場しないオーベルマルスの代わりになぜルイス・ガルシアやクアレスマが出場して来ないのか。ベテラン選手の起用を最優先するというなら、アンデルソンだろがルストゥもスタメンにならなければならない。

6.なぜ、ライカーは選手交代が遅いのか?
今シーズのバルサの試合展開を見る限り、ボールの走りが遅かったり、プレーリズムそのものが遅かったりすることがほとんどだが、それとライカーの選手交代の遅さとは何の関係もないだろう。彼は選手を代えることによる“戦術の変更”を望むよりも、プレーしている選手のポジションチェンジをはかったりすることの方を優先させると考えられる。それは今までにロナルディーニョのポジションを変えたり、あるいはオーベルマルスとルイス・エンリケの左右を入れ替えたりすることが多いことからも明らかだろう。それでなければこれまでの試合で70分以降での選手交代が実に73.3%にも登ることの意味が説明できないし、20あるクラブの中で最も選手交代が少ないチームであることも説明つかない。

そして同時にライカーのこの傾向、つまりスタメン選手に対する絶対の信頼感は、実際には選手交代の遅れを生むことになる。状況が二進も三進もいかなくなりリズムの変化がどうしても必要となることによって生まれる選手交代、バルサはこれまでの多くの試合で“無駄な時間”を過ごしてきている。そして状況の変化を試みるときにはすでに遅い状況となってしまうのだ。それが如実に示されたのがバレンシア戦だった。オーベルマルスに代えてクアレスマを登場させたのは72分。彼はわずか18分の間に、それまでオーベルマルスが決して可能としなかったカルボーニとの勝負に何回勝利しただろうか。さらにサビオラやルイス・ガルシアに触れるとなると更に最悪だ。サビオラは9分、ルイス・ガルシアに至ってはわずか4分の時間しか与えられなかった。しかもサビオラの登場は観客席からの大きな要求の声がなかったら実現したかどうかも疑わしい。

バレンシア戦に敗北したバルサにはグラマネという二部Bカテゴリーに所属するクラブとの国王杯が待っていた。この試合、これまで出番がなかったサビオラやルイス・ガルシア、そしてイニエスタがスタメンに顔を連ねている。チキ・ベギリスタインは試合前のスタメンを見て次のように語っている。
「個人的にはもっと冒険して欲しい感じだ。まだ我々にはテストしなければならない選手が何人かいる。この試合はそういう意味では絶好のチャンスだと思っていた。でも、まあ、まだ始まったばかりだ。少しずつ少しずつ新しい選手と試して欲しいと思う。」


■資料
EL PERIODICO紙
EL PAIS紙