長期リハビリ必要負傷者続出事件発生
(2004/10/14)

“十字靱帯断裂”これがモッタとガブリとエドゥミルソンに共通する負傷名であり、奇しくも彼らが負傷した場所はすべてカンプノウであり、彼らのすべてがグランドに出てから3分から8分の間にタンカで運ばれる運命となるという、いわゆる長期リハビリ必要負傷者続出事件が発生した。ここ数年、バルサの選手で十字靱帯断裂という負傷を負ったのはフェルナンド・ナバーロだけとなっていたが、わずか4週間の間に三人もの患者が誕生してしまった。果たしてこれは単なる偶然なのか、あるいは医学的、科学的に説明可能となるものなのか、はたまた600キロ離れたところから連夜にわたって送られてくるフロレンティーノ・ペレスなる人物の必死の呪いのせいなのか。

だがこの事件の解明は素人探偵団がガヤガヤと騒ぐより、その筋の専門家に任せておこう。ここで触れるのは彼らの負傷の原因ではなく、負傷したことによって発生する、普段はあまり話題とならない問題だ。

■傷害保険
ヌニェス政権中には選手の負傷に対する傷害保険がかけられた時期もあったが、ラポルタ政権となってからこのての保険には加入していない。負傷する選手は毎年のようにありながらもここ何年かは長期間のリハビリを必要とする負傷選手がでていないことや、スポーツ選手の傷害保険はとてつもなく高いことが理由となっている。したがってモッタ、ガブリ、エドゥミルソンの長期負傷者組の手術代や医療費はすべてクラブが年間予算から捻出しなければならないことになる。例えば、モッタがカタルーニャの医師ではなくアメリカの手術医を選んでもバルサは彼の交通費や滞在費、すべての医療費を支払うことが義務づけられている。

だが彼らの場合はクラブの試合で負傷したからまだマシという考え方もある。これがそれぞれの国の代表戦に招集され、その際の練習や試合で負傷した場合も治療費はすべてその選手が所属するクラブ持ちとなるからだ。フットボール界の最高組織であるUEFAやFIFA、そして各国のフットボール協会も代表戦での負傷に関して何らの経済的責任を負っていない。もう何年も前からビッグクラブの責任者とフットボール界最高組織との間で、この点に関する交渉がおこなわれているにも関わらずいまだに解決を見ていない問題だ。

■負傷選手の年俸
クラブにとって少なからずも何らかの経済的打撃となる選手のリハビリだが、もちろん最大の打撃を感じているのは負傷した選手であることは間違いない。なぜなら壊れてしまったヒザの痛みだけではなく、彼らの年俸にも大きく響いてくるからだ。

半年間の戦線離脱という状況は当然ながら60%以上の年間試合出場ということが不可能となることを意味する。したがって彼らは“控え選手扱い”となるため“スタメン選手扱い”がもらえる50万ユーロは彼らの懐に入ってこない(明日のキラキラ星「一部の年俸制度」9月12日参照)。ジョアン・ラポルタ政権となって年俸方式が基本給+ボーナスという仕組みとなっている選手がほとんどの現在、長期にわたって負傷した選手の年俸は少なくてもスタメン選手のそれより50万ユーロ低いものとなる。それでもタイトル獲得ボーナスやリーグ4位以内ボーナスというのは控えの扱いの選手でもそれぞれ25万ユーロ入ってくるので彼らにとっては慰め料となるかも知れない。

■16人となった残された選手たち
冬のマーケットが訪れリーガに休息時期が訪れる12月の末までにバルサは17試合を戦うことになる。リーガ、チャンピオンズ、そして国王杯。シーズン開始当初から20人の一部選手という、他のクラブに比べると少ない選手数でシーズンを乗り切ろうとしていたバルサだが、それはフラン・ライカーやチキ・ベギリスタインが言うところの“少数精鋭”作戦であり“20人のスタメン選手”を擁す新星バルサということで、これはこれで批判の対象とはならないだろう。だが半年間レベルでのリハビリが必要とされる3人の選手や1か月のシルビーニョ、そして2か月のジェルケラと続々と計算できる選手が抜けてきている今、16人の選手たちで戦っていかなければならない状況となっている。

つまり、一人でいいポルテロにはバルデスとルーベン、デフェンサの4つのポジションにベレッティ、プジョー、オラゲール、マルケス、ジオ、そしてナバーロという6人の選手。3人が必要とされる中盤にはジェラール、再びマルケス、チャビ、デコ、イニエスタの5人。やはり3人を必要とするデランテロにはロナルディーニョ、エトー、ラルソン、そしてジュリーの4人で合計16人となる。したがってもしベンチに入れる最大7人の選手を確保しようとフラン・ライカーが考えた場合、バルサBから毎試合のように2人ほど調達してこなければならないことになる。

■負傷選手を補う新たな選手の獲得
一部チーム登録選手への新たな追加は一般的に“冬のマーケット”時期までおこなえないことになっているが、5か月以上のリハビリが必要とされる負傷者選手がでた場合は別問題となる。クラブが抱えるドクターの診断書をLFP(リーガ・デ・フットボール・プロフェッショナール)に提出することにより新たな選手を加入させる許可を得ることができる。加入時期はいつでもよく、また負傷していた選手が現場復帰可能となった時点でもすでに加入している選手の選手登録が消えることはない。もちろん一部チーム選手登録25人の限度を超えないという条件付きとはなる。

スペインリーグから新たな選手を加入させようとする場合、その選手が4試合以下の出場数であることも条件となる。つまり“冬のマーケット”での選手加入と同じで、5試合以上の試合出場を果たしている選手の獲得は不可能だ。もっとも、二部リーグ以下のカテゴリーでプレーしている選手に関しては出場試合数は関係ないルールとなっている。つまり6節が終わった段階ですべての試合に出場している選手であっても移籍可能な選手と見なされる。またスペイン以外の国のリーグ戦に出場している選手の獲得はこの時期では不可能だ。もしバルサが、例えばオランダリーグでプレーしている選手の獲得に興味を抱いた場合、獲得が可能となる“冬のマーケット”時期まで待たないといけないことになる。もちろん失業中の選手に関してはいつでも獲得可能となる。

■注目を集める若大将
モッタに続いてエドゥミルソンの負傷により、俄然注目を浴びる選手となったのがジェラールだ。これまでモッタやエドゥミルソンが務めてきた守備的ピボッテと呼ばれるポジションで彼ら以外にプレーしたことがある経験を持つ選手はマルケスをのぞくとジェラールのみということになる。もっとも彼にしてもモッタが負傷したセビージャ戦で途中交代で入り、そしてグラスゴー戦で守備的ピボッテとしてスタメン出場しただけだでエドゥミルソンが出場可能となった時点で控えにまわされている。

彼がスタメン選手として継続性を持ち得なかったのは、一つはフラン・ライカーの戦術的な問題からであり、もう一つはフィジカル的な問題による。すでに何週間も前から恥骨の痛みを訴えているジェラールは時期が時期だけに手術だけは避けようとバルサドクターの作成したメニューによるあらゆる器具を利用して、マッサージなどのいわゆる“外部”からの手当によって回復を待っている。だが、それでもエスパニョール戦に間に合うかどうか、それは彼のリハビリ次第となっている状況だ。もし彼がクラブ首脳陣、スタッフテクニコ、そして少数のバルセロニスタの期待に応え、負傷もせず休みもせず試合に出場し続けて結果をだすことになれば、それは新たな奇跡の誕生と語り継がれることになるだろう。毎年毎年シーズンが始まるときには“今年こそジェラールの復帰”と叫ばれながら、それでも見事に期待を裏切ってくれたガッチョ〜ン・ジェラール、契約の切れる土壇場の今シーズンに若大将ジェラールの復帰の大チャンスが与えられている。