2004−05シーズン中間総括
(2005/02/19)

2005年2月9日、バルサの金庫番であるフェラン・ソリアーノがクラブ経済問題に関するシーズン中間総括を発表している。幸か不幸か、現在のラポルタ体制にはかつてのヌニェス政権時代やガスパー政権時代のような強力な野党勢力が存在していないため、少なくとも経済問題に関してはクラブ発表、いわゆる“大本営発表”のみがバルサソシオにとって知ることができる唯一の情報源となっている。したがってここで触れられるものは、すべてバルサ金庫番フェラン・ソリアーノの語る内容に絞られる。

まず結論から入っていこう。フェラン・ソリアーノの言葉を借りて一言でまとめてしまう。
「少なくとも経済的な観点から見たクラブ運営は非常に順調にきている。」
そういうことになる。
彼の楽観的とも思われるこの中間総括は、今シーズンが終了する段階では予想以上の純利益がでる可能性が濃くなったことから来ているようだ。
「2004年12月31日までの純利益が540万ユーロ、そしてシーズンが終了する2005年の6月31日までには1600万ユーロの純利益が見込めることになる。」
カンプノウ観戦チケット売り上げが75%増えていること、ペー・パー・ビューの売り上げが33%伸びていること、そしてマーケティングの売り上げ(昨年の夏と更に今年の6月にもおこなわれるであろうアジア遠征や各スポンサーからの収益、そしてバルサグッズなどの販売による売り上げ)が34%も伸びていることなどがこの純利益を生み出した原因だと語るフェラン・ソリアーノ。だがここでは、これまでどの歴代会長もしなかったことをおこなった事実に関しては触れていない。それはソシオアボノ(年間指定席)の40%前後の値上げや、アウエーにおける試合での異常に多い第二ユニの着用、そしてすでに完成間近と言われていたシウダー・デポルティーバ(バルサの新しい練習場)を経済的問題から一時的に工事を中断していることだ。問題が微妙なだけにそのことに関しては触れないフェラン・ソリアーノ。それでもソシオの代表として選出されたバルサの金庫を預かる役目の人だから借金問題に関しては触れざる終えない。

「我々が理事会を誕生させた段階でのクラブが抱えていた借金総額は2億2千万ユーロ。つまりガスパー政権が残してくれた借金の総額がこういう数字だ。そして現在の借金総額は2億2千7百万ユーロ。若干の増加が見られている。」
そう、クラブが抱える借金は減るどころか増えていることになる。だがこれは前もって予想されていたことだと語るフェラン・ソリアーノ。
「我々の基本構想ではラポルタ政権誕生3シーズン目に入ってから借金の返済を可能とすることだった。そしてここ2年にわたるクラブ財政状況を見る限り、予想以上のスピードで借金返済が可能となりそうだ。」
もっとも、多くのソシオにとってクラブ借金問題はそれほど関心のあることではない。百年以上の歴史の中で借金を抱えた時期はこれまで多くあったし、何よりもカンプノウや多くの土地を擁するクラブであるだけに固定資産はどこのクラブより豊富だ。各シーズンの運営を確実にうまくこなしていけばいつかは借金が返済されることになる。気の遠くなるような借金総額であり、気の遠くなるような借金返済期間であろうと、いつかは借金ゼロという日がやって来る。したがってソシオにとって、やはり一番関心があるのはスポーツ面なのは間違いない。

1988年にヨハン・クライフと当時の会長ホセ・ルイス・ヌニェスによって約一チーム分に当たる新加入選手を獲得しチームそのものの刷新を図ったように、ジョアン・ラポルタ会長は2年がかりながらもチームを一新することに成功している。彼が会長となりチキ・ベギリスタインがスポーツ・ディレクターに就任した際、彼らがメディアに発表したアイデアは“T作戦”と呼ばれるものだった。Tの文字、それは横棒がデランテロを示し縦棒がセントロカンピスタとデフェンサを意味する。この2年間にわたりチキの構想通り多くのデランテロが加入してきている。具体的に名前をあげれば、クアレスマ、ルイス・ガルシア、ロナルディーニョ、エトー、ラルソン、ジュリー、マクシ・ロペスという七人のデランテロとなる。そして縦棒となる選手たちと言えば、ルストゥ、マルケス、マリオ、ダビッツ、ジオ、シルビーニョ、ベレッティ、エドゥミルソン、アルベルティーニ、デコの十人。つまりセントロカンピスタには四人(ダビッツ、エドゥミルソン、アルベルティーニ、デコ)、デフェンサには六人(ルストゥ、マルケス、マリオ、ジオ、シルビーニョ、ベレッティ)という数になっている。この中で今シーズン残っているデランテロはロナルディーニョ、エトー、ラルソン、ジュリー、マクシの五人、セントロカンピスタはエドゥミルソン、アルベルティーニ、デコの三人、そしてデフェンサはマルケス、ジオ、シルビーニョ、ベレッティの四人となっている。チキが構想したT構想であるものの、何故セントロカンピスタとデフェンサを含めた縦棒に七人もいるのか、それはフラン・ライカーの発言力が強くなってきていることを示すと言えるだろう。

フラン・ライカーは決してチキの“T構想”に異議を唱えたわけではない。だがチーム作りに関する彼のアイデアは、まず強固なデフェンサ作りからすべてがスタートするものだった。セントロカンピスタとデフェンサが一体となって強固なデフェンサを作ること、それがバルサの監督に就任した初日からの構想だった。驚異的なリズムでの快進撃をおこなった昨シーズン後半の結果、バルサはシーズンが終了した段階ではリーガの中でも四番目に失点数が少ないチームとなっている。そして今シーズンの前半までを見る限り、失点数の少なさはリーガの中でもトップとなっている。

ジョアン・ラポルタを筆頭とし、サンドロ・ルセー、チキ・ベギリスタイン、そしてフラン・ライカーなどのスタッフ・テクニコが新たなチーム作りをする際に基本構想としたのは三つのことだ。選手に支払われれる年俸がクラブの年間予算を食いつぶさないような“お安い”チーム構成とすること。バンガール時代から続いているベテラン選手を放出しチームそのものを若返らせること。そして最後に、可能な限りのカンテラ起用だ。

ラポルタ政権19か月間で17人の選手を獲得し、その経費は1億1千万ユーロとなっている。この数字は世界の数多くの金持ちクラブの中でもチェルシーに継ぐ最大の投資額となっている。これだけの資金を投入しながらも借金総額がわずか7百万ユーロしか増加していないのはそれなりの理由がある。それは現在のチームは前政権時のそれより非常に“お安く”できているからだ。“お安い“チーム作りが可能となったのは、それまでの給料体型を大幅に変えることなしにはあり得なかった。これまでの“年俸いくら制度”から“基本年俸+各種ボーナス制度”としたこと、いわゆる出来高制と言って良いシステムを採用することにより、経費の削減がおこなわれている。もしタイトルと無縁のシーズンとなれば選手たちの各種ボーナスはとても低いものとなるし、もしタイトルを獲得してもクラブは最低額を保証するだけでほとんどは保険会社が支払う方式となっている。だが現在のバルサの選手の中で唯一の例外となっている選手、それはジェラールだ。ガスパー政権時代に新たな契約を結んだ最後の生き残りであるジェラールは、年俸5百万ユーロというのをいまだに維持し契約期間最後のシーズンを迎えている。

同じくラポルタ政権19か月間で、30歳を超えた7人のベテラン選手(ボナノ、デ・ボエル、アンデルソン、コクー、レイジゲル、オーベルマルス、ルイス・エンリケ)がバルサからサヨナラしている。したがって、クアレスマとかルイス・ガルシアなどという若手の選手を放出し、ジュリー、エドゥミルソン、ベレッティ、デコというようなベテラン選手を加えた上にラルソン、アルベルティーニというような超ベテラン選手を加入させても、それでもチームの若返りが成功することになる。そして興味深いことに、この19か月の間にバルサを離れていった26人の選手のうち、タイトル獲得経験者はわずか5人に過ぎない。4人のオランダ人選手(デ・ボエル、コクー、レイジゲル、クルイベル)とカピタン・エンリケのみ。この若返り作戦はすでに負けることに慣れてしまっているベテラン選手を放出し、そしてこれまで他のクラブでタイトルを獲得し年齢的にも脂ののった選手たちを獲得することも重要な課題となっていた。オポルトからデコ、モナコからジュリー、リヨンからエドゥミルソン、彼らなどはその典型的なパターンの選手と言える。

タイトル獲得に誰よりも意欲を燃やす若手カンテラ選手の起用も順調におこなわれている。今シーズンのバルサ一部チームには10人のカンテラ選手がいる。バルデス、ジョルケラ、ナバーロ、プジョー、オラゲール、チャビ、イニエスタ、ガブリ、モッタ、ジェラールの10人。メッシーやダミアはバルサB所属選手だからしてあえて外しておこう。だが、それでも10人のカンテラ選手だ。セルヒオ・ガルシア、オスカー・ロペス、ラモン・ロス、ダビー・サンチェス、トルトレロというカンテラ選手がレンタルされていながら一部チームに10人というのは決して毎シーズンおこり得ることではない。

2005年2月段階でいまだに他のクラブにレンタルされている選手は9人を数える。すでに触れた5人のカンテラ選手たちと4人の外国人選手、つまりルストゥ、リケルメ、サビオラ、ロッケンバックだ。2006年までの契約期間が残っているロッケンバック以外は3人とも2007年までの契約となっている。さて彼らの将来はどうなるのか。

その答えを引き出すには、再びフェラン・ソリアーノの登場が必要だ。彼は今シーズンが始まる前に次のように補強選手獲得資金について触れている。
「これから3年間で用意されている補強選手獲得予算は基本的に9千万ユーロ。つまり年間平均3千万ユーロを目標としてやっていきたい。」
今シーズン、エトーが加入するまでバルサが補強選手獲得に擁した資金は予定通り3千万ユーロだった。だがエトーの加入により2千4百万ユーロが必要となった。しかも多くの負傷者が続出したことにより冬のマーケットではマクシ・ロペスが入団してきている。彼の移籍料は6百万ユーロ、つまりエトーとマクシの移籍料を足すとすでに来シーズンのの予算を使い切っている計算となる。だが、それでもバルサスタッフテクニコは一人、あるいは二人の補強選手の加入を要求することになるだろう。その資金を生み出す材料、それがこれらのレンタル選手ということになっても不思議ではない。そもそも、彼らはどうしてもフラン・ライカーが必要だとしている選手たちではないのだから。

まだ2月の段階であるからして、レンタル選手を含めた真夏の移籍話に具体的に触れるのは余計なことだ。例えばこの時期において、チキ・ベギリスタインが次のように語るとき、バルサにとってはまったくもって利益のないコメントとなる。
「来シーズンの構想にリケルメやサビオラが入り込む隙間はなさそうだ。」
外国籍であるリケルメがバルサに戻ってこないことは誰もが知っていることだし、サビオラのバルサ復帰が“政治的”にも“スポーツ的”にも非常に難しいことも誰もが知っていることだ。彼らが売りにだされる可能性が非常に多い状況の中にあって、売り手が自らの“商品”価値を下げるような発言をしてはならないのはビジネス界の鉄則である。いらない“商品”とされたものを高く買うものは誰もいない。したがってチキ・ベギリスタインの余計な発言の翌日にフラン・ライカーが次のように語るのは監督としてのそれというよりはビジネスマンのそれと判断すべきだろう。
「リケルメにしてもサビオラにしても来シーズンは必要な選手となるかも知れない。」

リケルメやサビオラがもうバルサに戻ってこないのが既成事実だとすれば、もう一つ確かな既成事実がある、それは来シーズン以降バルサのユニフォームにスポンサーロゴがつくことだ。クラブ理事会の計画通りにことが運ぶとすれば、ジョアン・ラポルタはバルサ百年の歴史においてその伝統あるユニを汚すことを決定した最初の会長として名を残すことになる。そしてバルサユニを汚すロゴの最大候補、それは“北京2008”というものだ。“クラブ以上の存在”として他のクラブとの違いを自ら胸を張って世界に誇ってきたバルサだが、40代前後の若者によって構成されているラポルタクラブ首脳陣のアイデアによって徐々に徐々に“普通”のクラブになりつつある。メディアチックなものへの急激な時代の流れは、バルサという特殊なクラブさえ特別な存在にすることは許さないのかも知れない。


資料 カタルーニャ各紙