ガラクティコス急降下365日の旅−上−
(2005/03/18)

今週の木曜日、つまり2005年3月17日をもって、宇宙戦艦レアル・マドリに大打撃が加えられた日からちょうど1年となる。誰しもが予想しなかったほどの打撃、それは当の宇宙戦艦レアル・マドリでさえ気が付かなかったほどの大打撃となって後の世に記録されることになる。国王杯決勝戦サラゴサ相手の敗北、それから365日たった今、ガラクティコスチームは依然として急降下の真っ最中だ。

■2004年3月17日
国王杯決勝戦 レアル・マドリ2ーサラゴサ3

この国王杯決勝戦に臨むに当たって、レアル・マドリはリーグ戦では61ポイント獲得し、2位のバレンシアに4ポイント差で首位を走っている。もちろんバルサは下の下の方にいる。チャンピオンズの戦いでもすでにバイエルンを破り準々決勝進出を決定させている。したがって多くのマドリディスタにとって、そしてマドリの選手にとってもサラゴサ相手の国王杯決勝戦はこのシーズン最初のタイトル獲得となるはずだった。だが延長戦に入り10人しか選手がいないサラゴサに勝利の女神が微笑む。ラウルは試合後に次のように語っている。
「決勝戦で負けるのは何とも悔しいが、我々にはもっと大事なリーグ戦とチャンピオンズの戦いが残っている。この敗戦は何てことはないさ。」
だが、実は何てことはあったのだ。

■3月24日
チャンピオンズ準々決勝1回戦 レアル・マドリ4−モナコ2

モナコ相手の準々決勝は国王杯敗北から1週間後にサンティアゴ・ベルナベウで戦われた。4対2のスコアー、地元ベルナベウで2失点を許したのは予想外だったものの、2週間後におこなわれるアウエーでの試合には影響を及ぼさないだろうというのがマドリメディアの一般的なコメントだった。だがこの試合、マドリ監督のケイロスが怒り狂った事件が起きている。それは試合終了間近のところでベッカムが“意識的”にイエローカードをもらったことだ。このことにより彼は累積カードでアウエーの試合を“意識的”に辞退したことになる。

■4月7日
ホームでの4−2という結果に満足してしまって、翌日におこなわれるアウエーの試合には特別のモチベーションがないかのようなマドリチーム。それはマドリメディアにしても同じだった。もう戦う前に準決勝進出を決めてしまったような雰囲気を感じ取ったジダーンが試合前日に次のように語っている。
「今週の練習風景を見ているとみんな余裕たっぷりという感じでどうも理解できない。もっと真剣な取り組み方をしないのであれば我々は次のステップに進めない可能性もあるし、その価値も我々にはないかも知れない。」
その言葉をベッカムはアルプス山脈で聞いている。以前から予定されていたビクトリアとのミニ旅行で、大勢のイングランドメディアを引き連れてアルプスの山の中に来ている。

■4月8日
チャンピオンズ準々決勝2回戦 モナコ3−レアル・マドリ1

誰しもが予想しなかったまさかのチャンピオンズ敗退。国王杯決勝戦敗北から3週間たち、それまで気が付かなかった人々の目にもガラクティコスチーム降下現象が見え始めることになる。マドリ敗戦のきっかけとなったモナコの選手はモリエンテスという、マドリからレンタル中の選手であったことがこの敗戦を更に笑えるものにしてくれる。ゴレアドール・モリエンテスをレンタルしたレアル・マドリがこの試合に出場させた選手はボルハ、メヒア、ブラーボ、ポルティージョという選手だった。試合後、レアル・マドリ会長のフロレンティーノ・ペレスは語る。
「我々の路線に間違いはない“ジダーンとパボン”これが我々のとる路線だ。」

■4月11日
リーグ戦 レアル・マドリ0−オサスナ3

オサスナのゴールを決めたのはフロレンティーノが言う“パボン”ちゃんの一人であるバルボだった。だがマドリ会長にとって悔しいことには、バルボはすでにオサスナの選手になっていたことだ。この日、サンティアゴ・ベルナベウで初のフロレンティーノ・ペレス批判が起きた。

■4月13日
週末のマドリダービー戦に備えてラ・マンガというところでミニ合宿がおこなわれている。スポーツ・ディレクターのホルヘ・バルダーノはこのシーズン初めてのミニ合宿に関して次のように語っている。
「ここら辺で少し気分転換という意味もこめて、環境を変えてのミニ合宿をおこなうことにした。キャプテン連中を集めて事前に連絡をして彼らの賛同も得ている。」
だが、我が道を行くロベルト・カルロスは黙っていない。
「これまで地元の試合でミニ合宿なんかしたことはないし、その必要もないだろう。いずれにしても事前に我々になにか連絡があってもよかったのではないか。」

■4月17日
リーグ戦 At.マドリ1−レアル・マドリ2

ミニ合宿の成果があってかどうか、レアル・マドリはカルデロンでの試合でAt.マドリを下している。だがこの勝利を最後に、クラブ史上初の5連チャン敗北を達成することになるとはこの時点では誰も予想しない。バルサ、コルーニャ、マジョルカ、ムルシア(ムルシア!)、そしてソシエダに連敗するレアル・マドリ。誰の目にもガラクティコス急下降は火を見るよりも明らかとなってきた。
いいぞ、いいぞ!

■4月25日
リーグ戦 レアル・マドリ1−バルサ2

歴史的な5連敗の派手なスタートとなった記念すべき試合。フロレンティーノが言うところのバルサ“ジダーン”であるロナルディーニョの派手な活躍と共に、バルサ“パボン”と言ってはチャビに失礼にあたるが、その彼の劇的なゴールによりバルサが勝利する。

■5月23日
リーグ戦 レアル・マドリ1−ソシエダ4

すでに4連敗しているレアル・マドリはリーグ最終戦で地元サンティアゴ・ベルナベウにレアル・ソシエダを迎え、歴史的な5連敗を達成することに成功。これまでのクラブ歴代会長誰一人として不可能だった記録を最初に可能とした会長としてフロレンティーノ・ペレスの名が残されることになる。リーグ戦がすべて終了してみれば、バレンシアが77ポイント獲得して優勝、2位には72ポイントのバルサ、71ポイントのコルーニャは3位、そして70ポイントのレアル・マドリは4位に終わりどうにかこうにかチャンピオンズの予備戦参加ラインにひっかかっている。

■5月25日
リーグ最終戦が終了して2日後、フロレンティーノ・ペレスは記者会見を招集しカルロス・ケイロスの更迭を発表すると共に、新監督にアントニオ・カマッチョを招いたことも合わせて発表。
「ケイロス前監督にはガッカリしているが、彼を選んだ我々のミスと言ってもいいかも知れない。我々のようなスター選手が多いチームでは監督の強い采配が必要であるにもかかわらず、彼は最後の最後まで選手を統一することができなかった。したがって次期監督はこれらを可能としてくれるカマッチョが最適だという結論に達した。彼は選手たちをコントロールするカリスマ性を持っている人物であり、誰よりもマドリディスモを理解している監督。これで来シーズンはいただき!」

■6月9日
「まあだいたい俺に何を期待しているかはわかっているが、少なくとも俺はフットボールの監督であって軍曹でも警官でもないんだ。これをしちゃあイカン、あれをしちゃあイカンとは選手たちに命令できるが、それを守らなかったヤツを逮捕することまではできない。要は選手たちが自覚しなければどうしようもないんだ。人々は俺がクラブのことを誰よりも知っている人物と持ち上げるが、クラブそのもの、あるいはフットボールそのものが俺が選手をしていた頃とはまったく変わってしまっている。マーケティングのことまで俺には考えられない。唯一誓って言えることは、これまで以上に練習に練習を積み重ねてできる限りのことをする、ということだけだ。プン、プン、プン!」
そして彼はいくつかのことをフロレンティーノに要求している。まずモリエンテスの復帰、そして契約切れが近づいているロベルト・カルロスの契約延長を認めること。メディオセントロの補強のためにアルベルダ、コスティーニャ、あるいはビエイラの中から一人獲得すること。そして最後にサムエルとコンビを組むセントラルとしてカルバージョの獲得を要求している。

■6月10日
フロレンティーノ・ペレス会長の任期が切れるため、レアル・マドリ新会長選挙が7月11日におこなわれることが決定された。

■6月11日
ロベルト・カルロスの延長契約を発表するフロレンティーノ。この記者会見は第一次フロレンティーノ政権最後のものとなり、選挙によって新会長が決まるまでの臨時政権が発表された。そしてこのシーズンをもってスポーツ・ディレクターの職を辞任することを決めていたホルヘ・バルダーノも最後の記者会見をおこなう。
「我々が最後におこなう仕事としてロベルト・カルロス選手の延長契約を成立させたことは非常に誇りに思っている。レアル・マドリの顔としての代表的な選手の一人がクラブに残り、現役をこのクラブで終えることができることは我々クラブ関係者としても非常に嬉しいことだ。」
この外国人籍選手ロベルト・カルロスの残留が決定した段階でエトーの加入はまったくなくなったと言える。
グラシアス!

■7月1日
会長選挙運動が始まる前からフロレンティーノは各種のアンケートをソシオに対しておこなっている。その一つに次期監督は誰が望ましいかという項目があるが、圧倒的多数でカマッチョが選ばれている。フロレンティーノが任期の切れる2日前にカマッチョの監督就任を発表したのは決して偶然ではないと考えるのが普通だろう。いずれにしてもフロレンティーノ・ペレスは圧倒的多数のソシオ票によって再選出された。
「この勝利はマドリディスモの勝利であり、そして我々の明るい将来に向けた明確な回答となった。」
と、まずぶちあげるフロレンティーノ。
「これまでどおり、世界の最高峰を行くレアル・マドリが再スタートした日として歴史に残るものとなるだろう。」
宇宙戦艦の下降が更に激しくなった。

■8月12日
白いものなら容赦なく噛みつく黒豹サムエル・エトーのバルサ入団が決定。2400万ユーロの移籍料はマドリとマジョルカによって分配されることになるが、バルサがその4回払いの移籍料を支払うことになるのは翌年の夏からとなる。このエトー入団が発表された日、レアル・マドリは交渉中であったビエイラとの話し合いを突如として打ち切り、オーエンの入団を電撃発表する。ラウル、モリエンテス、グッティ、ジダーンがいるラインに入るオーエンの入団をマドリメディアでさえ疑問の目を向けることになる。そしてオーエン入団から1週間後、謎のデフェンサ・ウッドゲートの入団が発表される。いまだに負傷中であり、マドリ医師団はOKを出さなかったと言われる謎の人物の謎の入団でもあったが、いずれにしてもレアル・マドリはサムエルとウッドゲートという二人のセントラル選手にロナルディーニョ、エトー獲得と同じ資金を使うことになった。

■8月11・25日
前シーズン4位となった宇宙戦艦レアル・マドリは屈辱的にもチャンピオンズの予備戦を戦うことを義務づけられた。相手はクラコビアという知っている人だけが知っているクラブだ。ホーム・アンド・アウエー方式でおこなわれたこの試合、もちろんマドリは何の問題もなく勝ち抜くことができた。だがまだリーグ戦の口火が切られていないこの季節に何人かの選手が「ここだけの話」として仲のいいマドリジャーナリストに次のようなことを語っている。
「それにしても何だね、この監督はしょっちゅう不機嫌なようだぜ。」
ありゃりゃ〜!

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資料 EL PAIS