ガラクティコス急降下365日の旅−下−
(2005/03/18)

■9月15日
レバクーゼン3−レアル・マドリ0

リーグ初戦となったアウエーでのマジョルカ戦に0−1で勝利、そして第2戦は地元にヌマンシアを迎えてやはり1−0で勝利。だが多くのマドリディスタにとって納得できる勝ち方ではなかった。そして最初のチャンピオンズの試合がレバクーゼンでおこなわれた。3−0という完敗の結果に終わったこの試合だが、敗戦以上に問題となったのはチームそのもののイメージだった。90分で放ったシュートは2回しかなかった。
「この敗戦の責任はすべて監督にある。グランドの11人の選手に伝えなければならないことを正確に伝えることができなかった監督の責任だ。自分が彼らに望んだものとまったく違うプレーをしたということは自分のアイデアを正確に伝えられなかったからだろう。選手一人一人がバラバラな動きをしていたのはすべて監督である自分の責任だ。プン、プン、プン!」
ものには色々と言い方があるものだ、プン、プン、プン!

■9月19日
リーグ戦 エスパニョール1−レアル・マドリ0

これまでリーグ戦2試合を戦って2ゴールしか決めていないレアル・マドリ。モンジュイクでのエスパニョール戦ではついに一つもゴールを決められず敗戦している。この試合、カマッチョはベッカムをベンチに置いている。
「これは私の望むマドリではない。」
ベッカムは毎試合出場しなければならないと思っているフロレンティーノは試合後にそう語っている。そしてマドリッドに向かう飛行機の中でカマッチョはスポーツ・ディレクターのブートラゲーニョに辞任を申し出ている。
「今日のは私が考えているフットボールではなかった。しかも、このメンバーではこれからも自分のフットボールはできないだろう。プン、プン、プン!」

■9月20日
「自分が監督でいる限りこのチームはよくなるとは思えない。自分のアイデアが彼らに伝わっているのかどうか、伝わっているとしても彼らがそれを理解できないのかどうか、いずれにしても自分のアイデアとするフットボールが展開できないでいる。もっと時間をかければと言う人もいるがもう3か月近くも彼らと一緒に働いているんだ。個人的には時間はじゅうぶんあったと思っている。それでもダメなんだから自分以外の適切な人物が監督として働けばいい。自分が愛するレアル・マドリのためにはそれが一番いい方法だと思う。プン、プン、プン!」
彼の助手をしていたガルシア・レモンが監督に推薦された。カマッチョの親友中の親友と言っていいレモンだ。
「今日は非常に悲しい日となった。これまで必死に働いてきた個人的にも親しい人物がクラブを去ることになった。彼以上のことが自分にできるかどうか、それは限りなく白紙状態と言っていい。」
情けない監督就任第一声だった。

■9月27日
リーグ戦 ビルバオ2−レアル・マドリ1

第5節を消化した段階でレアル・マドリは4得点しかあげていない。このビルバオ戦に敗北したこと以上にチームが作り出すイメージ自体を問題としなければならないマドリだったが、それでもマドリメディアはクラブの危機感を表明するところまでは至っていない。ラウルの調子が戻ってくれば、ロナルドのゴールの嗅覚が戻ってくれば、ベッカムがベッカムらしいプレーをするようになれば、フィーゴがかつてのフィーゴに戻れれば、そしてジダーンが奇跡的にもう少し若くなれば、いずれ宇宙艦隊レアル・マドリは再び栄光に輝く、そう信じていたマドリメディア。

■11月21日
リーグ戦 バルサ3−レアル・マドリ0

バルサの圧倒的な勝利に終わったクラシコ。つい半年前まではマドリが50%の権利を有していたバルサエトーのゴールが先制点となった。ロベルト・カルロスは試合後にカシージャスのミスによるゴールだったと語っている。そしてマドリメディアもこの試合後、初めてレアル・マドリ危機感を伝えるコラムを発表。

■12月20日
フロレンティーノ・ペレスは記者会見を招集し、スポーツ・ディレクター職にアリゴ・サッキが就任することを発表。それまで同職についていたエミリオ・ブートラゲーニョは理事会入りし副会長となった。

■12月22日
リーグ戦 レアル・マドリ0−セビージャ1

前節のサンタンデール戦にベッカムをベンチに置いたことでフロレンティーノに批判されたレモン監督は、地元ベルナベウでのセビージャ戦ではロナルドをベンチに置いている。
「今週の練習ではイマイチだった。」
それがレモン監督のロナルドを控えとした理由。ロナルドがスタメンに出場しなかったこととは関係なく、レアル・マドリの敗戦に多くのソシオがフロレンティーノに向かって批判の声を上げた試合となった。スポーツ・ディレクターとなって初の試合観戦に来ていたサッキは試合後に語る。
「レモン監督には100%の信頼をおいている。」
7歳の坊やでもこのタヌキ親父の言葉を信じるわけがない。

■12月31日
サッキのその言葉から9日後の大晦日、真夏のブラジルからバンデルレイ・ルクセンブルゴが真冬のマドリッドにやって来た。レモンに代わってマドリベンチに座るためだ。カマッチョ、レモン、ルクセンブルゴと、わずか半年で3人目の監督誕生となった。
「私が選手たちに要求することは非常に単純な三つのことだ。選手一人一人の犠牲的な精神、試合同然の気持ちでの練習、そしてプロ選手としての自覚、これだけだ。」
ルクセンブルゴが監督就任発表の席でそう語れば、クラブ最高責任者のフロレンティーノは次のように語る。
「我々のスポーツ・ディレクターであるアリゴ・サッキの要請による監督交代であり、彼がルクセンブルゴを推薦してくれた。」
だがサッキはイタリアのラ・ガゼッタ・デロ・スポーツ紙にほんのチョットだけ違う表現で新監督就任のいきさつを説明している。
「ルクセンブルゴという監督は個人的にもまったく知らない人だったが、ブラジルの友人が彼を推薦してくれた。なかなかいい監督らしい。」

■2005年1月1日
ルクセンブルゴの監督就任が発表された翌日、ロベルト・カルロスは誰にも聞かれないのに次のように語っている。
「ルクセンブルゴは一人で試合に勝ってしまうほどの凄い監督さ。これで本当のフットボールがマドリに戻ってくるだろう。」
それはよかった、よかった。

■1月15日
フロレンティーノ・ペレスがグラベセン選手の入団を発表。
「我々はデンマークにおける最高の選手の獲得に成功した。」
そう、フロレンティーノにとって、クラブに入団してくる選手は常に“最高”でありガラクティコでなければならなかった。宇宙人的な顔をしているからガラクティコと呼ぶのは間違いではなかったかも知れないが、この選手は単に“デンマークにおける最高”の選手でしかなかった。その彼を誰よりも知るマイケル・ラウドゥルップは次のように語っている。
「彼はデンマーク最高の選手でも何でもないし、もし自分がマドリの監督だったら獲得などしない選手。マドリは明らかに間違いをおかしている。」

■1月19日
国王杯 レアル・マドリ1−バジャドリ1

ホーム・アンド^アウエー方式に入った国王杯で、アウエーゴールの威力でバジャドリがレアル・マドリを撃沈。前半の45分間、ルクセンブルゴはジダーン、ロナルド、ラウルをベンチに置いている。パルコから苦々しい表情でその風景をみていたフロレンティーノは試合後にあからさまにルクセンブルゴを批判している。
「あの監督は自分のしていることがわかっているんだろうかね?」
フロレンティーノがわかっていることは、タイトル獲得の可能性が最も大きい国王杯を決して逃してはならないということだった。もしこのカップを逃せば、そう、2年連続タイトルなしの可能性が強まるからだ。

■2月14日
まだ離婚問題が法律的に終了していない二人の男女による“結婚式ゴッコ”がパリの古城を借り切っておこなわれた。前の奥さんとの離婚問題が成立していないロナルドと、前の旦那との離婚問題が成立していないダニエラ、この二人の“結婚式ゴッコ”は見逃せませんと300人近くの有名人が集まった。慣れないダンスの最中に足を踏まれて軽い負傷をしたロナルドは翌日の練習に大幅に遅れて参加し罰金を取られたばかりか、大事なビルバオ戦に備えての練習も満足にできない体調となってしまった。

■2月20日
リーグ戦 レアル・マドリ0−ビルバオ2

“選手一人一人の犠牲的な精神、試合同然の気持ちでの練習、そしてプロ選手としての自覚”のたまものの7連勝というよりは、どこまでも幸運の女神がからかっていたとしか思えないルクセンブルゴ・マドリについにリーグ戦初の敗戦が襲ってきた。チャンピオンズのユベントス戦を前にしてルクセンブルゴは語る。
「もしロナルド頼りのチームだと知っていたならブラジルを離れるべきではなかった。」

■3月10日
チャンピオンズ ユベントス2−レアル・マドリ0

魔の3月がやって来た。地元ベルナベウでのビルバオ戦に敗北し、それまで緩やかな下降状態となっていた宇宙戦艦レアル・マドリに再び恐ろしいほどの急降下現象が襲ってきた。リーグ戦では首位バルサに8ポイント差と離され、タイトル獲得の望みが唯一見られたチャンピオンズであったにもかかわらず、この大会からも姿を消すことになった。
「この敗退を肯定的に受け止めるとするならば、我々のすべての力をリーグ戦に注ぎ込めることになったことだ。」
嘘つきなのか、はたまたあくまでも楽観的な人なのか、サッキはそこまでルクセンブルゴのことを知らない。

■3月13日
リーグ戦 ヘタッフェ2−レアル・マドリ1

すべてのエネルギーを注ぎ込んで戦われたヘタッフェ(ヘタッフェ!)戦だが、実力の違いは何ともしがたく2−1というスコアーで敗退。これで10試合残した段階で首位バルサとの差は11ポイントと広がることになった。そしてこの試合はこの1年間の宇宙戦艦レアル・マドリの落下ぶりを象徴する出来事が見られた。“ジダーンとパボン”作戦の顔であるジダーンがこれまでどおりまったくいいところなしに途中でベンチに下がり、そして“パボン”の一人であるブラボーに代わってパレンシアという名も知らない選手が出場してきている。もともとカンテラ選手を信用していないと公表しているルクセンブルゴであり、そしてジダーンに代わる“ジダーン”選手も存在しないレアル・マドリ。翼どころかエンジンまで失いかけている宇宙艦隊レアル・マドリは止めようもないスピードで落下現象を続けている。

■3月14日
リーグ制覇を絶望的なものとしたヘタッフェ戦の翌日、ベッカムはイングランドに、ロナルドはドイツにとそれぞれCM撮影の仕事で飛び、モデルに囲まれてニヤニヤしている二人の映像がニュースで流された。多くのマドリディスタにとってこのニュースは決して冗談ではすまされるものではなかった。選手たちが自由時間に何をしようがそれは自由ではあるものの、ファンにとっては何か納得できないものがあったとしても不思議ではない。ちなみに、彼らのCM撮影のギャラは50%がクラブの金庫に入る契約となっている。これがカマッチョには決して理解できなかったフットボール世界の変化でありマーケティングというお化けの正体でもある。そしてこの日を境にマルカ、アスを中心とするマドリメディアは“現在のメンバーの大粛正の可能性”を具体的な選手名をあげて報道し始める。ロベルト・カルロス、フィーゴ、ロナルド、彼らが指をさされた選手だ。

■3月16日
フロレンティーノ・ペレスは記者会見を招集し、マドリメディアが伝える大粛正の噂否定に走る。
「我々は現在の“ジダーンとパボン”たちに非常に満足している。したがって契約が残っている彼らを放出する可能性はまったくないと言っていい。しかもまだリーグ優勝の可能性が消えたわけではないし、それどころか可能性はまだ大いにあると信じている。」
2004年3月17日、国王杯の決勝戦に敗北してからちょうど365日たった。マドリディスタが「ガスパー政権がいつまでも続くように」と願ったように、いま多くのバルセロニスタは「いつまでもフロレンティーノ政権が続きますように」とお願いしている。


資料 EL PAIS