ラポルタ風ジョーク
(2005/08/15)

タイトル獲得からも見放されクラブ財政もかなり厳しい状況を抱えているまっただ中で、ジョアン・ラポルタはクラブ創立以来最多数のソシオ投票によって選ばれた会長だ。“バルサに変革を!”というカッコいいスローガンを掲げた若き青年実業家たちによって構成されたクラブ理事会は最初のシーズンでは多くのバルセロニスタに希望を与えることに成功したし、2年目には久しくご無沙汰だったリーグタイトルをプレゼントすることができた。クラブの金庫を預かるフェラン・ソリアーノ副会長の語ることをそのまま信じるとすれば、ラポルタ政権2年目が終了した段階でクラブ財政はかなりいい方向に向かっているという。スポーツ面でも今シーズンはエスケロとボンメルを無料で獲得した上に4人の長期負傷者も戻ってくることにより昨シーズンにも勝る期待が持てるだろう。だが、すべてのことにパーフェクトが存在しないように、彼らにもそんなものは存在しない。これまでメディアに登場したラポルタとその仲間による矛盾した行動や発言などは文字通りパーフェクトではないラポルタ理事会そのものを象徴しているだろう。そしてそれらの矛盾したものを把握していくことは、ラポルタ理事会批判ということではなく、より本当のバルサを知るということで意味あることかも知れない。

さて、今年の7月25日、ラポルタはTV3のインタビュー番組に出演し次のように語っている。
「ユニに付けるスポンサー獲得は我々にとって緊急の問題ではない。なぜならクラブの財政は非常にうまくいっているからだ。」
ラポルタ理事会にとってスポンサー探しは“緊急”のことであったからこそ、この半年間にわたって中国との交渉を何回も繰り返してきたことは誰もが知っていることだ。だが、それでもこの発言をもって“ラポルタウソツキヤロ〜”というのはユーモアのセンスが欠けている人間がすることであり、心に余裕がありユーモアのセンスをもつバルセロニスタであるならば“ラポルタはジョークがお好き”こういう反応をするのが正しい。さらに日本での講演会中にアルフォンス・グダイが次のように語るのもシャレがきいた発言としなければならない。
「私はロマンティストだから、ユニにスポンサーがなければいいと思う。もし付けるとしたら格調高いものとしなければならない。」

それでは、今年に入ってからのラポルタ理事会を構成する人たちの発言をまとめてみよう。
●1月15日(EFE通信)
ラポルタ「多額のスポンサー料を提示してきているベタウインという企業、さらに他の二つの企業がスポンサーを申し出てきている。」
ベタウインという企業がブックメーカー、つまりネットを通じての“公認賭や”企業であり、その他の企業というのがビアグラの会社だということがわかり、多くのソシオの反対を勝ち取っている。

●4月25日(エル・ペリオディコ紙)
ラポルタ「最終的な合意に達するのは時間の問題というところまできている。早ければ今月の末、遅くとも来月の初めには合意が得られるだろう。」
もちろん中国関係のことを言っている。

●4月29日(マルカ紙)
ラポルタ「北京との間でおこなわれていた交渉はほぼ最終的な合意に達するだろう。」

●5月5日(ラジオ局RAC1)
マーク・イングラ「我々は中国政府からの直接の招待を受けたばかりだ。この訪中により細かい点での最終的な話し合いがおこなわれることになる。」

●6月13日(ラ・バンガルディア紙)
ソリアーノ「最終的な合意に達するまでにわずかなところまで来ている。もちろんサインがおこなわれるまで詳細に関しては語れないが・・・。」

●6月21日(ムンド・デポルティーボ紙)
ラポルタ「中国政府との交渉内容に関してはお互いの了承が得るまで語れない。それが彼らとの約束だ。」

●6月27日(ユーロッパ・エクスプレス)
ラポルタ「お互いに要求することが多いこともあり、理想通りの展開が見られない。」

●7月6日(ムンド・デポルティーボ紙)
ソリアーノ「ついに最終的なサインがされる日が近づいた感じだ。おおまかな部分での合意は得られており。残るは細かいことだけとなっている。」

●7月21日(TV3)
ラポルタ「中国の関係者との交渉は非常に難しい。もっとも、彼らとの交渉以外にも我々は3つ程度の他の企業との交渉も同時におこなっている。」

そして7月25日、ジョアン・ラポルタは前に触れたようにTV3のインタビューに出演している。
「ユニに付けるスポンサー獲得は我々にとって緊急の問題ではない。なぜならクラブの財政は非常にうまくいっているからだ。」
これをラポルタ風ジョーク言う。

ラポルタ理事会がなにゆえ中国政府との交渉に失敗することになったのか、その推論は次回にまわすとして、彼らが本気で中国との交渉にかけていたことは間違いない。年間スポンサー料1900万ユーロに加え年間2回の親善試合に400万ユーロというのはバルサでなくても超魅力的な金額だ。しかもラポルタ政権が誕生して以来、これまで歴史に残るようなビッグ契約を勝ち取っていないということも、この中国との交渉をジョークなしで本気にさせていた。彼が会長に就任してからカンプノウ入場者数が増えたり、ソシオ数が増えたり、あるいは季節外れのアジア遠征などでお小遣い程度の収入が増えたり、そしてソシオ年間シート料を40%値上げすることで収入が増えたりしたものの、かつてのヌニェス理事会が勝ち取ったようなスケールの大きいビジネスには成功していない。

ヌニェス理事会もパーフェクトなものでなかったのは当然としても、ソシオに残してくれた偉大なる三つの遺産は高く評価されるものだろう。一つはナイキとの、当時としては異常な数字と思われた年間1200万ユーロのスポンサー料。そしてこれも当時として、そして現在でもそうであるけれど、TV3との間で結んだ年間5400万ユーロというテレビ放映権料だ。この二つだけで現在のラポルタ政権が組む年間予算の三分の一近くの数字ということになる。そして三つ目は彼ならではのビッグビジネスだ。土建屋会長ヌニェスとしての不動産関係に対する将来への鋭い読みが、いくつかの土地買収というビジネスをおこなっている。もちろんそれらの土地の名義はヌニェス不動産ではなく“フッボークルーバルセロナ”、言い換えればバルサソシオと言ってもいい。カンプノウ及びクラブ各施設が集まっているラス・コーツ地域には約20万平米、バルサインフェリオールカテゴリーが引っ越すことになるシウダー・デポルティーバがあるサン・ジョアン・デスピ地域には約14万平米、そしてそれ以外の三つの地域に合計約45万平米の土地をバルサは所有している。すべてを足すと80万平米近い土地ということになる。しかもヌニェスはこれらの土地をいつか売買するものとしてではなく、クラブの何らかの施設を建てるためとしたところが凄いところだ。

だが、止まることを知らないラポルタ風ジョークは、このヌニェス理事会が残してくれた土地にまで悪質に及んでしまっている。上で触れた“それ以外の三つの土地”の一つであるカン・リガーの土地の一部を売却してしまったことだ。
「クラブの財産を売ることは決しておこなわない。」
会長選挙運動中でのこの公約は、ベッカム獲得ほぼ間違いなしという公約ジョークより数倍タチの悪いものだろう。

ヌニェス当時会長はこのカン・リガーという土地をほぼ10年前に購入している。約5万5千平米の土地を140万ユーロという資金を投入してのものだ。それから10年後、この土地の評価価格がいくらになっているか。驚くなかれ、なんと1億1100万ユーロだ。ラポルタはこの土地の三分の一を売り払い約3500万ユーロの収益を上げている。そしてリケルメ移籍交渉成立、“早い(交渉終結)、安い(移籍料)”とうたわれたこの短期間による交渉終結に疑問を持つソシオも多かったが、この移籍で得られた600万ユーロという資金を足すことにより、昨シーズンは黒字経営となったことを発表しているラポルタ政権。この黒字経営は財政部門における政治が成功したというだけではなく、次のような重要な意味を持つことになる。それは今シーズン年間予算の“保証金”を用意する必要性がなくなったことだ。つまりこれまでのように理事会員一人一人が準備しなければならなかった“見せ金”が必要なくなったということになる。もしリケルメの移籍交渉が長引いていれば、もし選挙公約通りクラブの財産を売ることにならなければ・・・彼らは昨シーズンと同じように私財を運用しなければならなかった。

さて、中国政府との交渉が突然のように中止状態となり、すでに既成事実であった“北京”関係のスポンサー獲得が今のところ闇の中に葬られてしまっている。もちろん“クラブの伝統を守るため”でも“ロマンチスト”の副会長がいるからでもない。次回では真相かも知れない一つの“推論”を書き綴ってみよう。


■資料
スペイン各紙