再びロナルディーニョの勝利
(2005/09/06)

「非常に幸せ。これまでの契約期間を更に延長し、バルサの選手としてプレーできる期間が増したことは自分の夢を実現したことであり、とてつもない喜びを感じている。バルセロナという非常に気に入っている街に住み続けることができるし、個人的にこれ以上必要なものは何もないと思っている。この喜びはお金では買えないものだ。」
クラブから提示された分厚い契約書に49か所のサインを済ませた直後、記者会見場にあらわれたロナルディーニョ・ガウチョは例のトーンの高い声でこう語っている。そう、これまでの彼の言動から察するに彼の言葉に嘘はないだろうし、本心から発せられた言葉に違いない。だが当然ながら彼はプロの選手である。バルセロナという住みやすい街で暮らしながら仕事のしやすい環境の中で働く、だがこれはあくまでも“可能ならば”という程度の条件であり、つまるところどのくらいの年俸が稼げるか、それがプロ選手としての絶対条件となるのは当然のことだ。その意味でロナルディーニョは「金で買えない喜び」を勝ち取ったことになる。想像を超える高額な年俸、そして最低5年間という長期契約を結んだロナルディーニョ、この喜びは確かに金では買えない。そしてクラブ運営をソシオから任されているジョアン・ラポルタは経済的な意味合いで再び敗北することになった。

わずか2年間ですでに2回にわたって新たな契約を結んでいるロナルディーニョに対し、バルサ理事会はすでに半年前から新契約の準備をはじめている。年俸の引き上げと契約期間の延長を約束するバルサ側だが、クラブの最大の目的はロナルディーニョの肖像権の一部獲得というものだ。これまでの2回の契約交渉では失敗に終わっているロナルディーニョ肖像権の獲得、それは例えば、フロレンティーノ・ペレス・マドリが勝ち取っているクラック選手(ベッカム、ジダーン、ロナルド、そして今またロビーニョ)達の50%肖像権のように、ジョアン・ラポルタ・バルサもまた大きな収入源となるそれを狙っていた。事実、バルサは新政権が誕生してからプジョーとロナルディーニョをのぞいて他のすべての選手からは50%近い権利を譲り受けている。そして今回、レアル・マドリのクラック選手と同じように高額なCM年俸をとっているロナルディーニョの肖像権の一部権利獲得というのがこの新契約でどうしても勝ち取りたいものだった。

すでにかなり前から始まっていた新契約交渉の初期段階において、バルサ側は50%の肖像権利譲渡を要求している。最後の最後となった段階ではその数字が28%にまで下がって交渉されているが、ロナルディーニョの兄にして代理人の一人であるロベルト・デ・アシスのガードは固い。とてつもなく固い。早くて7月、遅くてもソシオ審議会のおこなわれる8月までには新契約成立を発表すると口癖のように語っていたラポルタだが、あまりのガードの固さに交渉は予想以上に長引くことになってしまった。
「緊急を要することではないのでじっくりと話し合って双方がベストの形で終わりを見ることが理想的。」
今では闇の中に消えてしまっているものの、かつて中国とおこなっていたスポンサー交渉が長引いてしまった時と同じように8月の末にこう語るジョアン・ラポルタ。

ロナルディーニョは現在4つの会社とCM契約を結んでいる。ナイキ、ペプシ、トライデント、そしてダノネ。この4つのコマーシャル料を合計すると年俸1000万ユーロ以上になると言われている。だが止まることを知らないロナルディーニョ人気に、さらなるスポンサー契約が予定されている。ブラジルのTIMと呼ばれる電話会社、そしてセレソンのスポンサーとなっているブラウマというビール会社とも近々契約が結ばれる予定となっている。したがって近い将来、ロナルディーニョのCM年俸はバルサで獲得してる年俸を大きく超えることになるだろう。そしてもし来年のワールドカップでセレソンが優勝することにでもなれば、このCM料は想像もつかない額となることは間違いない。だが、残念ながら、それはラポルタにとってもクラブを支えるソシオにとっても残念なことに、ロナルディーニョの肖像権獲得は失敗に終わってしまった。3度目の失敗だった。

ロナルディーニョとバルサとの契約が一応終了する2010年までの5年間、彼にいったいどのくらいの額が支払われることになるのか、その数字は各メディアによって大きく違っている。エル・ムンド・デポルティーボ紙は4200万ユーロ程度、ペリオディコ紙は5000万ユーロ、エスポーツ紙は6000万ユーロ、、エル・パイス紙は7000万ユーロ、そしてマルカは1億3000万ユーロとしている。いずれにしてもクラブの財政をかけた数字だ。

22年間の長期政権を築いたヌニェス元会長は、それまでの多くの会長と同じように、そして現在のラポルタ政権と同じように、多くの適切な処置と同時に多くの過ちも犯してきている。例えば、シマオを獲得したときヌニェス理事会は8年間という長期契約を結んでしまった。ゼンデンに対しても6年間という、やはり愚かな長期契約を結んだ過ちも犯している。そしてその時、正しくもこの長期契約に反対の声を上げたのはヨハン・クライフと若き弁護士ジョアン・ラポルタだった。
「多額の年俸もさることながら、これほどの長期契約はクラブ財政そのものを危機に陥れるのと同時に、選手自体のモチベーションにも影響を与えることになる。」
まったくもって正しい彼らの意見だった。

ヌニェス政権が終わりを見ることになり、正しい副会長だったガスパーが正しくない会長に就任したとき、彼が最初におこなったことはリバルドに対する想像を超えた額の新契約とペップ・グアルディオラに対しての終身契約というわけのわからないオファーだった。バサート会長候補メンバーに入っていたジョアン・ラポルタはこの時も正しい批判の声を上げている。そして歴史は彼が正しかったことを示した。リバルドを必要なしとした新たな監督がバルサに就任してきたとき、移籍させようにも彼の高額な年俸を支払う勇気のあるクラブは存在しなかった。もしリーガ最終戦となったバレンシア戦でのリバルドのチレーナ・ゴールにビビることなく、ガスパー当時会長が翌シーズンが始まる前にとてつもなく美味しい移籍オファーを受けていれば話はまったく違うことになっていた。だが、ルイス・フィーゴ・ペセテロをフロレンティーノに持って行かれたばかりのガスパー・バルサはリバルドを手放す勇気がなかった。そしてシーズンが終了し、リバルドはバルサから多額の賠償金を受け取った上に無料という形でバルサを去ることになる。

サンドロ・ルセーとヨハン・クライフ、この個性の強い二人は“犬猿の仲”というほどのものではないにしても“馬が合わない”仲として知られている。だが彼らの中に共通しているアイデアが多く存在するのも確かなことだ。“選手の長期契約”と“異常に高額な年俸”というのは避けるべきだというのが彼らに共通した意見だ。サンドロ・ルセーは理事会辞任以来、約束通り沈黙を守っているのでロナルディーニョの新契約に関しても何も語っていない。だがヨハン・クライフは昨シーズンの終了間際から、この予想されていた多くの選手の長期契約と高額な年俸に疑問を呈している。ロナルディーニョ獲得の最大功労者であるサンドロ・ルセーだが、この新契約については苦々しく思っているに違いない。ロナルディーニョの親友である前に、彼はソシオのひとりであり絶対のバルセロニスタであろうからだ。

チャビ、デコ、メッシー、エトー、バルデス、ロナルディーニョ、そして近々契約延長するであろうプジョー、彼らの契約期間はすべて2010年までとなっている。もし、すべてのバルセロニスタが望むように、グランドの中で結果を出すことができれば、それも5年間しっかりと結果を出すことができれば、彼らの新契約は忘れられたものとなるだろう。だが、もし、結果がでなかったら、スキャンダルな話題として復活して来るに違いない。ラポルタの“2010年路線”に大拍手をおくっていたメディアも手のひらを返して批判キャンペーンを洪水のように流すことになるだろう。

次回の会長選挙はクラブの規約通り2006年におこなわれるのか、あるいはラポルタ理事会が主張するように2007年におこなわれるのか、それは未だに結論が出されていない。だが、誰が会長席に座っていようと、もし悲惨なシーズンが続いたとしたら、契約書をたてに居残りを主張するクラック選手達の高額年俸を支払い続けるためにバルサはさらなる借金地獄へと邁進することになる。したがってクラブ財政危機を口実に再び多額のアボノ(年間指定席)値上げをされることを回避するために、ソシオは例年にもまして心の底から願うことになる・・・

バルデスが3回目の反乱をおこしませんように、プジョーやオラゲールが今のようなモチベーションでプレーし続けてくれますように、ベレッティやジオがセンターラインをこえたままでいませんように、マルケスやエドゥミルソンやモッタやガブリが負傷しませんように、チャビのカラコーレスがきれいにきまりますように、デコがいつまでも現場監督でありますように、ロナルディーニョのマジックが消えませんように、ジュリーがオーベル二世になりませんように、そして、もちろんエトーのゴールパフォーマンスがいつまでも見られますように、そしてそして、イニエスタとメッシーが爆発しますように・・・アーメン。


■資料 スペイン各紙