オラゲール・プレッサスがニュースになった
(2005/09/24)

ここ何試合かのオラゲール・プレッサス右ラテラルスタメン出場、というのがニュースとなっている。これまでフットボール選手としてのオラゲールに関してニュースらしいニュースというものはほとんどないと言っていい。だがそんな彼が、このところ良い意味で悪い意味でもニュースとして登場してくる日が続いている。

ひたすら地味で控えめであり、もちろんメディアチックに目立つことなく、だが、それでも気がついてみればいつからかバルサのスタメン定着組の一人となっているオラゲール・プレッサス。2003年1月12日、ロサレダでおこなわれたマラガ戦にバンガール当時監督が彼を起用して以来、彼はひそかにスタメン出場を重ねてきている。それでもオラゲールだから、そう、彼だから、そのことは大したニュースとはならなかった。その彼に関してほんの少しニュースっぽいものが流れたのは今シーズンの開幕戦となったアラベス戦後だ。セントラルとしてではなく右ラテラルを務めたことが理由となっている。これまでは試合途中からベレッティに変わって右ラテラルを務めることは何回かあったものの、シーズン開幕戦でいきなりベレッティをベンチに追いやっての右ラテラルスタメン出場はメディアをほんの少しだけ賑わせることになった。

現在のバルサの選手の中にあって、彼はフラン・ライカーからの大いなる信頼を勝ち取っている選手の一人だ。それはセントラル選手としてだけではなく、ラテラル選手としても高い評価を勝ち取っていることも意味する。相手のチーム状況によってはベレッティよりも、そしてガブリよりも、あるいは試合招集さえされなくなったダミアよりも、アラベス戦に関しては“選ばれた”右ラテラル選手となった。
「精神力が誰よりも強い選手。」
そう言いきるフラン・ライカー。
「バルサというようなビッグクラブでプレーする選手にはプレッシャーに負けない強い精神力が必要となる。特に、多くのことが要求される我々のデフェンサシステムにあってはそれは欠かせないものだ。」
精神面だけにとどまらず、さらにオラゲールの特徴を説明するフラン・ライカー。
「見た目よりも非常にスピードを持った選手であるだけではなく、物事を複雑にせずにシンプルに処理する能力を持っている。それはデフェンサの選手にとっては大事なことの一つなんだ。」
アラベス戦の翌日のメディアでは左エストレーモとしてプレーしたエトーの話題に隠れてしまったこともあり、ほんの少しのニュースとしてしか扱われなかったオラゲール右ラテラル起用。だがブレーメン戦、マジョルカ戦、そしてバレンシア戦と続けて右ラテラルスタメン出場となると、いかにひそかなオラゲールといえどニュースとなる世界だ。

だが、それでも、彼をよく知るバルサの同僚選手たちにはそのことはまったくニュースとはならない。特にカンテラ育ちの選手たちにとっては目新しいことでも何でもないようだ。例えば、彼をよく知る一人のイニエスタがこう語る。
「バルサに来る前に所属していたグラマネでは彼は右ラテラルでプレーしていた。バルサにやって来た最初のシーズンも確か右ラテラルじゃなかったかな。試合を重ねるうちにいつの間にかセントラルをやっていたけれど、彼は見た目よりも器用な選手だと思う。もし右エストレーモを次の試合でやれといわれれば、4日間の練習でこなしてしまうだろう。」

スタメンセントラル選手に定着したことはまったくニュースとならないオラゲールだが、スタメンから外れる選手候補の話題となると彼はニュース素材の一人となる。エドゥミルソンが長い負傷から戻ってきたのは昨シーズンの終了間際だった。ブラジル代表でありこれまで多くの修羅場をくぐり抜けてきているエドゥミルソンが、プレシーズンでは好調にプレーしていた。メキシコ代表カピタンのマルケスもバルサではもともとセントラルとして期待された選手だ。したがってプレステージの段階で“オラゲール控え説”がひそかに流れたとしても不思議ではない。だが、オラゲールにとっては不思議な話だ。まったく理解できない不思議な話だ。
「そういうくらだない噂話にはウンザリオラゲールなんだ。」
ベティス相手に0−3で勝利したスーペルコパの試合後にそう語るオラゲール。
「チームが自分を必要としているからこそ自分はバルサAチームにいるんだ。そしてスタメン選手として監督が相応しいと考えたからこそ自分が試合開始と共に走り回っているんだ。もちろんカンテラ育ちなんていうレッテルは何の関係もなく、一人のプロ選手として自分が選ばれているに過ぎない。そして監督がこの試合では他の選手をスタメン起用しようと考えれば自分はベンチスタートとなるし、そのことに関してグダグダ語る必要もないし議論のタネとなるほどのことでもない。俺たちはプロなんだから。」
彼が語るように、毎試合スタメンが約束されているわけではない。彼は決して“プジョー”ではないし“ロナルディーニョ”や“デコ”でもないのだから。だが、それでも、これまでの試合出場数を見てみるとオラゲールは限りなく彼らに近い存在となっていることも確かだ。

バンガールが彼を抜擢したシーズン、オラゲールは18試合に出場している。そして昨シーズンはチャビやプジョーと同じように38試合に出場し、39試合出場を果たし最多出場選手となったイニエスタにわずか1試合出場が足らないだけの働きをしている。その38試合出場の中でほとんどがセントラルとしてプレーしているが、右ラテラルとしてプレーすることも珍しくはなかった。例えば、メスタージャでの難しい試合でもベレッティに代わって途中からラテラルを務めているし、その試合から1週間後のレバンテ戦、つまりリーグ優勝を決定させたあの試合では90分間にわたって右ラテラルとして起用されている。

「オラゲールは周りにいる人間に安心感を提供してくれる選手なんだ。それはポジションがセントラルであろうとラテラルであろうと変わらない事実さ。いや、もっと言ってしまえばグランドの中でも外でも同じように周りの人々に安心感を与えてくれる人間なんだ。」
“現場監督”デコがそのようにオラゲールを語れば、ポジションをとられてしまったベレッティが続ける。
「彼はバルサの選手だろ、そこら辺に転がっているクラブではなくバルサというクラブの選手なんだ。つまりフットボールエリート世界の中でも一流中の一流選手だということさ。わかる?」
セントラルの選手としてコンビを組むことが多いカピタン・プジョーは同じデフェンサの一人としてオラゲールについて語る。
「彼は偉大なデフェンサの一人。それは隣にいる自分にだけではなく、すでに多くの人々にも証明していることだと思う。完璧にデランテロをマークすることができるし、いざとなれば容赦なくタックルをする根性もある。そして何と言ってもスピードという武器を持っている。多くの人はそのことに気がついていないようだけれど。」

イニエスタと同じようにチャビもまたオラゲールをよく知る一人だ。その彼が練習風景について語っている。
「向上心というのは多かれ少なかれ誰にもあるもんだけれど、彼の場合は周りの選手から学ぼうという気持ちが人一倍強い選手だと思う。それは練習風景を見ていればわかるもんさ。彼が我々と一緒に練習を始めた日から今日に至るまで、いったいどのくらい成長したか計り知れないものがあると思う。他の選手から学ぼうという意欲もさることながら、やはりインテリジェンスもあるんだろうね。でも問題なのは・・・」
と続けるチャビ。
「でも問題なのは、それが問題だとすればの話だけれど、彼はフットボール選手としてより私生活のことで話題になることが多いことだ。彼を取り巻く政治的背景を気に入らないと感じるファンもいるようだし、事実そのことが彼のマイナス材料となっているかも知れない。」

チャビが指摘する私生活の話題、それは警察沙汰(チキート過去ログ「気になるあの人」)を起こしたり、EU憲章反対の論文を発表したり、あるいは彼の地元であるサバデル市の市長辞任を要求したりしたことだ。昨シーズン、マラガ戦で初のゴールを決めたオラゲールは試合後に次のように語っている。
「このゴールをサバデル警察所によって逮捕された14歳の少年に捧げたいと思う。サバデル市長辞任要求デモにくっついていった少年が不法にも地元警察に逮捕されてしまっている。苦しい状況に立たされているあの少年を少しでも元気づけたい。だからこのゴールをあの少年に贈ろうと思う。」
仲の良いチャビの心配をよそに、オラゲールはそれらのことを気にしてはいないし、もちろん反省などもしていない。むしろ自分のしてきたことを誇りに思っている。フットボール選手である前に彼は一人のサバデル市民であり、カタルーニャ人だという強い思いがあるからだ。
「いずれにしてもオラゲールはオラゲールさ。彼は信念に基づいて行動しているわけだから個人的には批判しようなんて思わない。もうすでにバルセロニスタにはバルサの重要な選手の一人であると認められているし、唯一欠けているのはまだ卒業試験に受かっていないことぐらいかな。」

もし、バルサが快調に飛ばしていたとしたなら、オラゲールは相変わらずひそかなオラゲールであり続けただろう。彼の右ラテラル起用など特に問題となることもなかっただろうし、しかもバルサの現在の“不調”は彼の右ラテラル起用から来ていることでもない。クラブとの美味しい長期契約を手に入れお腹パンパンとなって少したるんでいる選手たちや、ワールドカップに備えて体の調整を普段より遅れさせている選手、あるいは昨シーズンより大きくなったパズルを埋めるのに苦労している監督の問題であったとしても、オラゲールを批判の的にするのは見当違いだ。彼は監督の要請通りにひそかに仕事をこなしている右ラテラル選手であり、ダミアと並んで最も年俸の低い選手であり、しかも試合結果が悪かった翌日に電撃的契約更新で明るい話題を提供できるタイプでもない。

実はオラゲールのことなら他の誰よりも知っている気になっているチャビにもまだ知らないことがある。それはオラゲールはこのプレステージ中に最後の試験を済ませすべての単位を取得していたのだ。それでも、ひそかなオラゲールはそんなことはバルサの同僚仲間には報告しない。学生仲間にはもちろんすでに報告済みだが大学生活と関係ないバルサの選手には報告する必要ナシと考えているオラゲール。今年の夏、彼は経済学士にひそかになっていた。


■資料 スペイン各紙