第二の男、フェラン・ソリアーノ
(2005/10/14)

10月に入ってしばらくして、EFE通信がバルサのユニの胸スポンサーに関する“独占記事”を発表している。曰く、バルサと中国との関係はすでに崩壊状態にある、したがってクラブがどのように否定しようが中国関係の胸ロゴの可能性は100%なくなったと断言できる。このニュースだけをとってみれば別段目新しいものではない。すでに何か月も前から交渉さえおこなわれていないのは、メディアが伝えるだけではなくクラブ自体が認めていることだからだ。だが興味を引くのは、この“独占記事”の内容がクラブ内部から流れたことだろう。サンドロ・ルセー派をクラブ内から抹消し、ラポルタにはクラブ内に敵がいないはずであるにも関わらず、なぜかクラブ内部からの情報漏れが続くバルサである。だが、そのことに関しては今後の機会触れるとして、ここではバルサ金庫番のフェラン・ソリアーノのお声を聞いてみよう。サンドロ・ルセーが抜けたことにより、ラポルタに次いでクラブ内の実権を握る“第二の男”となったソリアーノ、たまには大本営放送を流してみるのも良いかも知れない。

中国関係の胸スポンサー獲得という課題は、バルサにとってクラブ財政を救う重要なものであったにもかかわらず、今の状況を見てみるとまるで霧に包まれたように謎の多いものになっているようですが・・・

それは違う。クラブの財政を救う重要な課題であったというのは大げさな表現だし、まして霧に包まれたものでもない。もちろん中国関係のスポンサーの話が生じたとき我々は全力を挙げてその実現に努めてきた。なぜならいくつかのオファーの中で彼らのものが最も魅力的であったからだ。そして今年の5月には最終的な合意にまで達し、あとは中国内部の行政的な手続きを待つだけとなっていた。だが彼らの行政的手続きが我々の予想以上の遅れを伴ったため、残念ながら今シーズンのスタートと共には実現することが不可能となってしまった。そこで我々は他のオファーを含めて検討することにしたわけだが、それは決して中国関係のスポンサー獲得を放棄したという意味にはならない。5月の段階との違いは、彼らだけではなく今では他の企業のオファーも検討材料となったということだ。

望むところではなかったとしても、あれだけメディアに騒がれ、クラブ自体も多額のスポンサー料が入ることを喜んでいたにも関わらず、いまだにそれが実現していないということは、あなた方の敗北と受け取れるが・・・

それは違う。我々の敗北でも失敗でもないと思っている。もちろん現実を見れば両手をあげて喜んでいられるものではないことは確かだ。予想通りにことが運べば、ユニフォームにはもうとっくに中国文字が入っているはずだったのだから。だがね、ビジネスの社会ではこういうことはよくあることだ。交渉が何回もおこなわれ最終的に契約書が用意され、さてと、残るは両者間のサインだけだ、となった段階で何らかの理由でそれがなされないで終わってしまう、こういうことはビジネスの世界では決して珍しいことではない。しかもここ2年間で我々が達成したビジネスの成果を考えれば、決して我々の敗北だとか失敗だとか、そんな総括はでてこない。繰り返すことになるが、我々はいまでも常に胸ロゴスポンサーの獲得に動いていることを忘れないで欲しい。中国関係の話もまだ生きているのだし、それ以外の可能性も追求中というところだ。

“捕らぬ狸の皮算用”という表現があっているかどうかわかりませんが、いずれにしても中国関係のスポンサー獲得に関してはそんな感じを受けますが・・・

正しいスペイン語では“捕らぬ熊さんの皮算用”というのだが、その表現でも理解できる。そう、確かにバルサというクラブは歴史的にもそういうことが多いし、多くのビッグクラブでもそういうことがよく起こるものだ。我々は難しい交渉であることを最初から認識していた。したがってメディアに騒がれることなしに交渉を進めようと計画していた。だがカタルーニャ内部ならいざ知らず、中国にまで出向いていかなければならない交渉を秘密裏に進めることは、そもそも不可能なことだと言ってもいい。そしていつものことながら、クラブ内からの情報漏れもあったことも認めなければならない。

クラブはもうスポンサーを見つけるのをあきらめたような感じを受けますが。例えば、メディアの間で“スポンサー獲得作戦が難航中だ”とでると、翌日には必ず「スポンサー獲得は我々にとって緊急事項ではない。」というラポルタのコメントが聞かれます・・・

それは違う。いや、ラポルタ会長が語っていることが誤りだということではなく、あなたの言うことが違っているという意味だ。スポンサー獲得がクラブにとって“緊急事項”ではないことは最初の段階から明らかにしている。いまだにユニフォームにロゴが入っていないという事実は、我々がスポンサー獲得をあきらめたというわけではなく、我々が理想とするスポンサーがいまだに見つからないということを意味する。“緊急”でないとしても我々のアイデアはいつかスポンサーを探し出すということにある。確かにソシオの中にはユニフォームを“汚す”ことを良しとしない人々がいることを我々は知っている。その意見は“バルサの独自性”を保つためというアイデアに基づいていることも知っている。だが、例えユニフォームにロゴが入ろうとバルサの独自性が消え去ることにはならないと信じている。例えば、現在のフットボール産業における典型的なスタイルを持つチェルシーというクラブでは、我々が選手に支払う年俸予算の1.5倍もの予算を抱え、しかも補強選手獲得には我々の3倍もの資金を用意している。そしてそのクラブを支えるのは一人の金持ちオーナーだ。我々はそのようなクラブと歴史的にも対等以上に張り合ってきている。バルサは一人の金持ちオーナーによって支えられているクラブではなく、13万人のごく普通の人々がソシオとなり、そしてその人々がオーナーとなっているクラブだ。この事実だけを見てもバルサというクラブの大いなる“独自性”を主張することができるのではないだろうか。

それでは現実的にいくつぐらいのスポンサー企業候補があり、いくらぐらいのスポンサー料獲得を目指しているのか・・・

真面目なオファーとして受け取っているのは5つの企業からのものだ。メディアにおいて過去に名前が出てきた企業もあれば、まだ知られていない企業もある。だが、我々は周りの騒音に悩まされることなく交渉を進めたいと思っているから、具体的な企業名は教えられない。それでもこの5つの中には“北京2008”というのも存在することだけは教えよう。スポンサー料に関しては周りのクラブを見れば相場というものが理解できると思う。ここ数か月間で二つのクラブが新しいスポンサー獲得を発表している。サムスンと合意を得たチェルシーは1千五百万ユーロ、タモイルと再びスポンサー契約を結んだユベントスは2千万ユーロと言われている。バルサというクラブの重要性と歴史性を考えれば、まず少なくともユベントスと同じ2千万ユーロを最低基準とすべきだろう。

タイトルの獲得という事実は経済面に大きなメリットを与えることになったのでしょうか・・・

それは良い質問だ。少しずつではあるが確実に反映してきている。我々のこれまでの研究によれば、経済面への効果はタイトル獲得から2年後に如実に現れることになっている。タイトル獲得から見放されたことによる経済的なマイナス面も同じように2年後に現れるようだ。例えば、マンチェスターというクラブを分析したところによれば、彼らがタイトルから見放された2年間は収入面では以前と変わらなかったものの、3年後には大きなマイナス面となって現れてきている。マドリも2年間何のタイトルも獲得していないが、今のところ経済的なダメージは受けていない。だが経済的ダメージが生じてくるのは今年からだし、もし今シーズンもタイトルがとれなく終了した場合、彼らには大きな問題が生じてくるだろう。

しかしながらマドリの場合は特殊な気がします。かつてルイス・フィーゴと名乗りその後ペセテロと改名した選手が「マドリはタイトル獲得が優先事項ではなくユニフォームがどれくらい売れるかがクラブの基本方針」とミランあたりでほざいていますが・・・

それは非常に興味深いテーマと言える。偉大なクラブは常にタイトル獲得を狙っていかなければ生き延びられない、というのが我々の考えだ。少なくても偉大なクラブとして認識されるためにはタイトル獲得なしには考えられないだろう。だがフロレンティーノ・ペレスのアイデアは違うようだ。彼のアイデアを全面的に否定することは今のところ誰にもできない。いずれにしても歴史が証明するのを待つしかない。

今のところマドリの方があなた方より圧倒的な経済面の優位さを誇っています。例えば、今シーズンのクラブ年間予算は3億ユーロ、あなた方は2億4千万ユーロ、つまり6千万ユーロ多いことになります・・・

それは正しいようで違う。なぜなら彼らは我々より3年先を歩いているからだ。フロレンティーノが会長に就任したのが2000年、そして我々が会長選挙に勝利したのは2003年、つまり3年間の差があることを忘れないで欲しい。財政的に非常にマイナスという同じような状況を抱えながら誕生した二つの理事会、だが彼らと我々のスタートは大きく違っている。フロレンティーノは政治的なコネを通じて彼らの練習場であったシウダー・デポルティーバを売却し、4億8千万ユーロという驚くべき収入を得ることができた。その資金でそれまでの借金を返済するだけではなく、フィーゴ、ジダン、ロナルドという選手の獲得資金にまで運用することが可能となった。つまり、クラブ首脳陣として我々がスタートした状況と彼らのそれとはまったく異なっている。我々がおこなってきていることはスポーツビジネスを通じて地道に収入を増やそうということであり、スター選手を集めることによる効果で収入を得ようとする方針であるフロレンティーノの政治とどちらが正しいかは、繰り返すことになるが歴史が証明することになるだろう。

あなた方に対するソシオの評価は高いと思いますか・・・

それはもちろんだ。ソシオはクラブのオーナー、したがってスポーツ的にも経済的にも順調にいっている彼らのクラブに満足しているのは間違いない。例えば、前政権が崩壊した2002−03シーズンの収入は1億2千万ユーロ、そして昨シーズンに我々が勝ち取った収入は2億4千万ユーロ。彼らが作り上げた年間赤字が7千万ユーロで我々が昨シーズン残した数字は2千万ユーロの黒字。彼らが残してくれた借金は1億8千万だが、今シーズンが終了する頃には1億5千万となっているはずだ。更に我々は日本を中心とするアジアへの乗り込みに成功しつつある。これは将来大きな収入源となる可能性を含んでいる。もちろん、チーム内容を見ても大きな差が発見できるだろう。彼らはロッケンバック、クリスタンバール、オーベルマルスというような選手を、それに対し我々はロナルディーニョ、デコ、エトーという選手を擁している。年間指定席を値上げしたと批判されたが、それでも他のクラブのそれに比べれば最も経済的なものとなっている。カンプノウ正面スタンドの年間料金は800ユーロでリーガ、チャンピオンズ、国王杯のすべての試合が含まれている。マドリではどうか?1300ユーロと我々より500ユーロ高いにもかかわらずチャンピオンズの試合観戦の権利はない。したがってあらゆる観点から分析してもソシオが満足する数字を出していることがわかる。

フェラン・ソリアーノによる“大本営放送’が流された日、バルセロナにある裁判所ではラポルタ理事会に対して一つの判決を下していた。簡潔にまとめると次のようなものになる。ラポルタ理事会に対し前政権を引き継いだときのすべての書類を公表しろ、と訴えていた二人のソシオがいる。ロベルト・ブランク氏とフランセスク・フォルド氏がその二人だ。クラブ理事会に対して以前からそのことを要求していた彼らだが、2年たっても好意的な反応がなかったため裁判所に訴えていたものだ。彼らの要求の意図は次のようなものと発表されている。一つ、多額の借金を作ったガスパー政権にクラブ規則を犯すような不法行為がなかたのかどうかを知るため。二つ、そもそもラポルタ政権が語るように本当に2億2千万ユーロ(この数字はクラブが何回も発表している数字だが、このソリアーノのインタビューでは何故か1億8千万ユーロとなっている)もの借金があったのどうかを知るため、そして三つ目、“クラブ内の不透明感を一掃するため、我々が抱えている状況をすべて明らかにする”という会長選挙の公約を実行すべきだというもの。そしてこの訴えに対し、バルサソシオでもないであろう裁判官がこの二人のソシオの訴えを認める判決を下した。この判決に対しラポルタ理事会は緊急会議を開いている。“この判決に対し控訴するかどうか”それが議題だ。そして「クラブ理事会員のエチェバリア氏はフランコ基金のメンバーであったことはないし、将来もそうなるはずはない。」と2004年に続き2005年のソシオ審議会でもソシオを前にして嘘をついたと追求されているラポルタ政権は、この判決が下りてから三日後に控訴することを決意している。“バルサに変革を!”というスローガンのもとに誕生したラポルタ政権であり事実上これまで多くの“変革”を達成しているにもかかわらず、かつてのヌニェス政権もそうであったように、ソシオの要求する“クラブ内の透明感”というのは権力者にとってどうしても譲れない項目のようだ。


■資料 カタルーニャ各紙