バスクの宝石 ミケル・アルテッタ(2001/2/25)

彼がにわかに注目を浴びるようになるには、いくつかの偶然が必要だった。
パリス・サン・ジェルマン(PSG)が国内リーグ戦においても、チャンピオンズリーグにおいても不振が続いていること(リーグ戦27試合経過した段階で9勝12敗6分けの12位)、シーズン途中でチーム再建のためにスペインの選手事情に詳しいルイス・フェルナンデス(元ビルバオ監督)が選ばれたこと、そしてバルサの首脳陣がこの若者に一流チームでの経験を積ませたかったこと。
これらの要素が重なり、アルテッタはスペインリーグ2部のBからフランスの1部チームPSGへの、今シーズンだけの貸し出しが実現されることになった。

ミケル・アルテッタ。今年の3月26日に19歳になるサン・セバスチャン生まれの彼は、ごく普通のバスク選手がそうなるように、当然アスレティック・ビルバオのカンテラとなり、将来はビルバオ1部のチームを目指すはずであった。だが彼はそうはならなかった。それはひとえにFC Barcelona の若手発掘スカウトマン、ジョアン・マルティネス・ビラセカの仕業である。彼はアンティグオ・コ・ギスプスコアーノというバスク地方のクラブにいた少年アルテッタに注目していた。今から5年前、アルテッタ13歳の時である。

地方からスカウトされた多くの少年達が過ごす「LA MASIA」に、アルテッタは1997年7月に入寮する。彼は、スカウト陣、クラブ首脳陣の期待に応え、97−98はバルサCADETE、98−99にJUVENIL(LA MASIA フェレール編参照)と順調に上がっていき、同時にCADETEスペインチャンピオン、JUVENILスペインチャンピオン、そして2年前セレクション・アンダー16のヨーロッパチャンピオンのタイトルを手にする。このナショナルチームにはレイナ、ナノも一緒だった。

99−00のシーズンでBarcelona Bに昇格したアルテッタは、今シーズンに入って何回か1部の練習に参加している。だが彼のプレーする場所は2部であり、しかもBからAにチームを引き上げなければいけない重要なシーズンでもあった。そんな時PSGの新監督ルイス・フェルナンデスから声がかかる。「おい、ミケル、うちのチームに来ないか?」。この時点で、クラブ間同士では条件面も含めてすでに合意に達していた。後はアルテッタ当人のOKを待つだけだ。彼は迷った。フランスの1部リーグの、それも名門PSGではあったが、彼の目標はあくまでもバルサでプレーすることだった。だが、今シーズン限りの貸し出しということを知った時、その迷いも消えた。それだったら、スター選手がたくさんいる強いチームで成長して帰って来ればいい。

Barcelona Bで最後にプレーした日から約3週間後、アルテッタはサン・シロースタディアムでミラン相手にチャンピオンズリーグを戦っていた。翌日のフランスの新聞「L' Equipe」が彼のプレーを評して次のように語っている。
「彼は有名選手になるには欠かせない、”キャラクター”を持った選手だ。技術的には卓越したボールテクニックと、試合の流れを読む眼を持っている。名選手になる素質をじゅうぶんに備えている」
ルイス・フェルナンデスは次のように彼を分析する。
「すごい素質に恵まれた若造だ。やつは、正確な場所に抜群のタイミングでパスを出せるテクニックと、それに必要なインテリジェンスを持った数少ない坊やだ」

彼はこの試合、ユニフォームに4番をつけていた。そのことは、彼の最も尊敬するグアルディオーラに、ほんの少しではあるが近づけたという自信を与えてくれた。その喜びは、フランスのプレスが彼のプレーを賞賛してくれたことや、ファンの人たちが彼の名を連呼してくれることより大きなものだった。
「グアルディオーラは、あのポジションでの世界最高の選手だと思います。僕がバルサに来てから、同じポジションということもあり常に彼と比較されてきました。でもね、彼は誰かと比較される選手ではないんです。彼は最高であり、唯一だから。今の僕は彼にまだまだ遠い存在だと思うんです。でも少しでも早く、少しでも近く、彼に近づきたい。そのためには、僕を必要だと思ってくれたルイス・フェルナンデスの期待になんとしても応えなければばらないと思っています。そして貴重な経験を積んで、できるだけ早くバルサに帰りたい。だってあそこは、僕がバルサの1部でプレーできるようにと4年間必死になってチャンスを待ち、そして最終的にどうしても成功したい場所だから」

マシアは伝統的に「4番」を生み出してくるフットボール学校だ。アモールに始まり、ルイス・ミージャ、グアルディオーラ、セラーデス、ジェラール、チャビ、そしてアルテッタ。また、ついこの間話題になった16歳のアンドレス・イニエスタも皆を追う。

専門家の中には、グアルディオーラを継承する選手はチャビではなく、アルテッタだという人までいる。確かにスケールの大きさという点では、チャビを上回っているような印象を受ける彼だが、レイナの例を見るまでもなく、「幸運」という誰もが計算できないものに将来が左右される事が多いのがフットボール社会だ。このチャンスを逃してはならない。

アルテッタ、18歳。限りない希望と夢を膨らませて、いま冒険の真っ最中。