「一部のメディアがエドゥミルソンとの衝突によって負傷したと書いていたけれど、実際は自分一人でやってしまった怪我さ。彼が一番最初に心配して倒れている自分のところにやって来てくれたから、そう勘違いした記者がいたようだ。」
これまでの人生の中で最大の負傷が「右足親指の爪を割ったこと」と語るチャビに襲いかかったリハビリ半年病。2005年12月2日の金曜日の練習中に右足膝十字靱帯断裂という大怪我をしてしまった。あれからもう3か月がたとうとしている。
リハビリは順調に進んでいる。すでにリハビリ“第一ステージ”は消化され、次のステージに入っている。1日約8時間、日曜日だけが休みというリハビリが毎日淡々と進められていく。彼の生まれ故郷テラッサの街にある“アスレティック・テラッサ”という陸上ホッケークラブ施設が、彼のリハビリを進めていく上での重要な場所となっている。そして彼と常に行動を共にしているのが、リハビリ担当医師であるエミリ・リカール。朝の9時にはもうこの二人一緒の姿が見られる。それは時にはゴルフ場であったり、時には街外れにある自然公園であったり、時には近くの砂浜であったり、どこであろうと1時間近くの散歩メニューが消化されていく。
「午前と午後を利用して3時間ぐらいは歩かないといけないが、いつも同じ景色のところではつまらないからね。テラッサの街を離れてスキー場だとか、山へ行くこともある。」
そう語るエミリ・リカール。
散歩が終わる10時過ぎに、アスレティック・テラッサ内にあるバールで朝食をとるのが日課となっている。まるで待ち合わせでもしているかのように、彼らが向かうテーブルには一人の友人が座っている。ジョルディ・クライフだ。彼はチャビのような大怪我をしているわけではないが、いまだに膝の調子が悪くリハビリをこなす毎日だ。年齢的に差がある彼らだからカンプノウで一緒にプレーしたことはない。だが“ラ・マシア”育ちという同じ経験をもつ二人のカンテラ育ち選手だから、共通話題は山のようにある。バルサB時代やミニエスタディの話題、ジョルディも個人的にはかなり親しい付き合いをしているフラン・ライカーの話題、そしてクライフの話題、あるいはイニエスタやメッシーの話題、とにかく話のタネは尽きない。
「自分もそうだけれど、ジョルディにしてもイニエスタという選手を誰よりも高く評価している人物さ。イニエスタの少年時代からの練習風景を見ているからその凄さをよく知っている。メッシーも凄い選手だし、ラ・マシアからどんどん素晴らしい選手が出てくるのは先輩としての我々の誇り。まあ、そんなことより、このバールでの朝食の時間は1日の始まりでもっとも楽しいひとときさ。何たってジョルディは自分の知らないことをたくさん知っているから、話していて楽しくてしょうがない。」
朝食の後はプールが待っている。エミリ・リカールにとってはもうすでに何十回、何百回こなしてきているメニューだ。ここ3、4年だけをとってみても、ペップやルイス・エンリケ、あるいはガブリなどと一緒にこなしてきているメニューだ。
「チャビは泳ぐのが苦手だからこのメニューは嫌がっていたんだが、もう慣れてきている頃だね。もっとも、彼のリハビリにかける意欲は凄いものがあるので、苦手な運動でも笑顔でこなしてきている。リハビリで大切なのは、復帰しようというその意欲。その意欲次第でリハビリ効果はまったく違ってくる。チャビの場合は、もちろんペップやその他の選手もそうだったように、復帰意欲が強いからリハビリメニューの消化が早く進んでいる。半年病と言われているが、そんなにはかからないだろうと思う。」
午後にはいると、もう少しスポーツ選手らしいメニューが待っている。ジムでの筋肉トレーニングやボールを使っての運動メニューがこなされていく。そしてもう少しすれば、走り込みや芝生の上での練習が開始されることになる。ボールを使っての練習もそれほど遠い話ではないし、ワールドカップにはほぼ100%に近いフィジカルを持って望めることはもちろん、リーグ戦にも間に合うかも知れない。だがチャビにしてもエミリ・リカールにしても、その話題には触れない。リハビリのリズムを必要以上にアップしたために、再びダウンしたというスポーツ選手を多く見てきている二人だし、焦ることなしに一つ一つステップを上がっていけば必ず予定時間より早く戻れることを暗黙の了解としている二人だからだ。
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