ドン・アンドレス
(09/03/20)
「イニエスタはカンテラ組織でプレーしている少年たちにとって見本となる存在。ピアスをつけるわけでもなく、ネックレスをするでもなく、髪の毛を染めることもせず、そしてタトゥを入れているわけでもない。それでも、なお、彼が最高の選手だということを多くの人々が認めることになる。しかも、どこのポジションに置かれても不満をもらすことはないし、例え20分程度しかプレーするチャンスがないときでも不平は言わない。あらゆる意味で、彼はカンテラ選手として最高の見本さ。」
先日ペップ・グアルディオラがイニエスタについてこう語っていたが、個人的に付け加えさせてもらえば、残念ながらカリスマ性もないし、リーダーとしての資質にも欠ける。それは彼のキャラクターからくるものだから致し方のないことだ。いっそのこと、髪の毛を真っ赤に染め、ピアスを10個ほどつけ、ボハルデのようなネックレスをぶら下げ、見る者を恐怖に落とし入れるようなタトゥをおでこにでもしてみたら、更に偉大な選手へと変貌するかも知れない。だが、イニエスタはイニエスタだからそういうことはしない。
チャンピオンズ・リヨン戦。フランス人選手アンリが大活躍した試合ながら、フランススポーツ紙“L' Equipe”はイニエスタに焦点をあてて、彼をこの試合のナンバーワン選手として褒め称えている。
“リヨン・バルサ戦には出場しなかったバルサ選手アンドレ・イニエスタは、カンプノウでおこなわれた試合で何と10回ものファールを受けている。リヨンが犯したこの試合でのファール数は合計26回、その中でも多くのファールがイニエスタに対しておこなわれていた。それは明らかに、バルサのスペクタクルなリズムを作り出すのは、イニエスタが中心となることをリヨン側が認識していたからだろう。90分間に10回のファール、それもかなり厳しいファールが幾度となく犯されたにも関わらず、イニエスタの動きを止めるところまでは至らなかった。そしてフランスのチームが恐れていたように、彼の素晴らしい働きによってこの試合は決定づけられてしまった。偉大なりイニエスタ。”
テレビで見ると、確かに痛々しいファールを受けていたことがわかる。つま先を踏んづけられ、足には強烈な蹴りを入れられ、ケツをブチかまされ、背中にはパンチが飛んできた。どんな試合でも多くのファールを受けることが多い彼だが、それでもこの試合でのダメージは相当なものだったようで、試合後は車の運転ができず、仲間の車に同乗させてもらって帰宅している。そしてその翌日、練習に参加してきたイニエスタの両足の指は腫れ上がり、動かすと強烈な痛みが走る右腕は三角巾で吊られていた。それでも“ラ・マシア物語”を読むとわかるように、外見からは想像できないほどの根性の持ち主でもある。リヨン戦から4日後におこなわれたアルメリア戦で、彼はいつものように退屈そうな顔をして、普通にプレーしている。
エスパニョール戦、アトレティック戦とどことなく沈みかけていたバルサが、イニエスタの復帰と共に再び上昇気流に乗り始めた。偶然かも知れないし、偶然ではないかも知れない。そしてメッシーやチャビと同じように契約切れとなるのが2014年となっている。これも偶然かも知れないし、偶然ではないかも知れない。ただ、偶然であってはいけないことは、彼の年俸の低さだ。彼の隣でルンルン気分でプレーしているチャビの半分にしか満たない年俸というのは、どうも納得いかない。人ごとながら、どうにも納得いかない。あんな顔であんな性格だから、注目を浴びるために声を大にして要求することはしないだろう。余程のことがない限り、カンテラ組織から上がってきた選手の年俸は、外部から来た選手のそれより低いことが多い。イニエスタはこんなことにまでカンテラ選手の見本となる必要はない。どうでもいい自分の契約延長交渉などより、チキにはしなければならないことがあるのだ。
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