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アベラルド Abelardo

「俺はスポルティング・ヒホン出身の選手であり、同時に誰にも負けないバルセロニスタ。それを隠そうとは思わない。だからバルサを去った後も、このユニのカラーを心に刻みつけていくんだ。」

2002年5月24日、涙の「退団記者会見」をおこなった後に彼はそう語っている。彼は人前で泣き顔を見せるタイプではない。常に物事をそのまま受け入れ、冷静に運命に従うタイプ。決して大げさに物事を考えないことを良しとするアベラルド。したがって「男は人前で涙を見せない」そう彼が語っても何の不思議もない感じがする。だが退団の記者会見では彼の予想通りにもの事は運ばなかった。
「いつかは愛するクラブを離れなければいけないんだから、その日が来ても普通に語ることができると思っていた。これまで多くの同僚がクラブを離れる瞬間を見てきているしね。ペップ、ミゲランヘル(ナダール)、アモールとか。記者会見の席にはけっこう冷静になって出席したんだ。ところがしゃべり出したとたん胸にドットつかえるものがあって、もうわけがわかんなくなってしまった。非常に悲しい日だった。会長は1年の延長契約を提案してくれたけれど、新たに来る監督が俺のことを必要としてないのがわかっているのに残ることはできない。それじゃあ給料泥棒ってもんだ。確かに俺の年になって練習だけして1年間これだけの年俸をもらえるのはありがたいことだけれど、それは俺の流儀に反する。しかも個人的にはまだどこのビッグクラブであれプレーできる自信はある。」

これまで新たなシーズンが開始されると、常に控え選手候補と噂されたアベラルドだ。だが試合が消化されていくに従い、いつの間にかスタメン出場を勝ち取ってきていた。ゼロからのスタートであれば、競争を許されるものであるのならば、来シーズンもスタメンを勝ち取る可能性を信じている。だが今回はゼロどころかかなりのマイナスからのスタートとなることがわかっていた。いや、スタートさえ切らせてもらえない可能性だってあるようだった。バンガールは彼をまったくの構想外としていることを第三者を通じて告げているからだ。

これまでそうであったように、アベラルドはクラブを去るときもプロ精神を貫き通していく。そして彼はプロ選手である以上に、感謝という言葉を知っている人物だった。
「これまでこのクラブで多くの素晴らしい監督、そしてそれ以上に多くの素晴らしい選手たちと友情を分かち合ってきた。カタラン人の友達は死ぬまで、というけれどまさにそういう感じだ。クラブや選手たちには非常に感謝している。もちろんバルセロニスタにもだよ。バルサの素晴らしいファンの人々にお礼を言いたい。心からのお礼を言いたい。長い負傷から戻ってきたときのカンプノウでの暖かい歓迎を一生忘れることはないだろう。本当に感謝しているんだ、心の底からね。」

1994年にバルサに入団したアベラルドは8年間の在籍中に8つのタイトルを獲得している。それもほとんどの試合をスタメン出場しながらのタイトル獲得だった。彼の最初の契約は3年という期間だった。だが結局8年間も常に一線で活躍することになる。
「バルサに入団して契約書にサインしたときに、まさか8年間もいられることになるなんて想像もできなかった。俺はスポルティング・ヒホンという、それこそUEFAカップに参加することができれば大成功のクラブから来たんだ。だがバルサはそうじゃない。3年連続リーグ優勝して初めて大成功と喜ぶファンがいるところさ。親善試合でも負けることを許されないクラブなんだ。そういうところで8年間プレーできたことは、孫の代まで誇れることだよ。」

バルセロニスタにとって彼がバルサカンテラ育ちではないことなどはどうでもいいことだろう。そう、多くのバルセロニスタにとってそんなことはどうでもいいことだ。これまで彼がいかにクラブに貢献してきてくれたかが問題であって、そして彼の心がバルセロニスタと共にあることが問題なのであって、どこの出身かは決して問題ではない。だからアベラルドがバルセロナの街を歩いているところを見た人がいるなら、多くのファンが彼と共にあることを理解できるだろう。彼とすれ違うほとんどの人々が「ブエナ・スエルテ!」と声をかけてくる。それはもちろん街の人だけではなく、他のセクションのバルサ選手やバルサ職員にしてもそうだ。「ほとんどの人々」ではなくすべての人々が彼に声をかけてくる。そして同時に「クラブを離れないですむ方法はないのか?」とも聞いてくる。アベラルドはそれらの人々に常に笑顔で挨拶し「いつか戻ってくるよ」と答えている。

だがバルセロニスタにとってアベラルドは決して戻ってこない。いや、正しい言い方をすれば、決して去ったわけではないのだから戻る戻らないの問題ではない。アベラルドが彼の心の中にバルサカラーを染みつけたように、彼らの心の中にはアベラルドはこれからも存在し続けるのだから。


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