73 クライフインタビュー(94−95ー96)

このシーズンからラウドゥルップやサリーナス、スビサレッタというバルセロニスタに親しまれた選手たちが抜け、新たに多くの選手の補強がおこなわれた。クライフにとっては“新たなサイクル”が始まるスタートのシーズンとならなければならなかった。だが入団してきた選手の顔ぶれを見る限り、多くのバルセロニスタにとってそれほど大きな期待を抱かせるものではなかった。1994−95シーズンが始まる直前の1994年8月におこなわれたクライフへのインタビュー。

今シーズンのチームはどうですか?

多くの良い選手が獲得できたこともあり、非常に良いチームになっていると思う。選手層も昨年に比べれば厚くなっている。

プレステージを終了した今の段階では多くのジャーナリストが反対のことを言っているようですが。

昨シーズンのバルサよりは確実によくなっていると思う。そうでなければ選手を代える意味がないだろう。チーム状態を悪くするために選手を放出したり新たな選手を獲得したりする監督はいない。新たに入ってきた選手たちに対して疑問符を投げかける人たちは、これまでその選手が何をやってきたかということで判断しているからだ。だが私の見方は違う。将来この選手にとって何が可能か、そういう観点から私はその選手を判断する。その選手が可能性を秘めているかどうか、それが私の選手評価の原点だ。実際問題としては多くの計算できない要素、例えば負傷だとか第三者にはわからない精神的な問題だとか、あるいはプレッシャーに負けてしまうとか、そういう要素が成功するかどうかに影響を与えることが多い。したがって、可能性を秘めた選手が必ずしも成功するとは限らない。だがそれはまた別の問題だ。

そうは言っても多くの人が、バルサにはキーパーはおろかゴールストライカーもいなくなってしまったと感じでいるようですが。

スビサレッタがいなくなった今、ブスケが彼と同じような仕事をしてくれるだろう。当然ながら彼にはまだ学ばなければならないことがあるが、足でのボールコントロールというテクニック面ではスビサレッタを越えている。ゴールストライカーがいないというが、もしロマリオが昨シーズンのようなロマリオでなければシステムを彼が来る前のものに戻せばいい。ラウドゥルップが9番をつけていた時代のようなシステムへね。

それでもリーグ優勝するためにはロマリオが必要でしょう。

そんなことはない。彼が来る前に我々は3年連続リーグ優勝しているんだ。しかもゴール数にしたって、ロマリオが来る前もそれ以降もトータルのゴール数としては同じようなものだ。確かにロマリオはゴールを保証してくれる選手だし、あのポジションでは彼以上の選手はいないだろう。だがチーム総体として考えた場合、彼一人では何もできないのも確かなことだ。

そのロマリオは一人で走り込みの練習をしていますが。

監督の仕事の一つは、一人一人の選手が持つ才能を最大限に引き出すところにある。どんなスポーツでもそうであるように、そのためには最低限必要とされる基本的な体力を作り上げなければならない。ロマリオは他の選手が1か月前にやっていたことを今しているだけで、決して罰則という意味で走り込ませているわけではない。

これまでのクライフバルサがスペクタクルだといわれていた一因に、ラウドゥルップの存在があったように思います。そのラウドゥルップは今シーズンからマドリに移籍しました。もうラウドゥルップはバルサには必要ないと言うことですか。

ここ2年間のラウドゥルップの力は落ちてきている。それはどんな優秀なスポーツ選手にも寿命があるということだ。彼に終わりが来たとは思っていないが、それが近づいてきていることは確かだ。もちろんモチベーションの問題もある。彼はクラブとの契約が切れて、我々は彼を雇う必要がないと思ったから延長契約をしなかった。そしハジという、実力的にはラウドゥルップと同じかそれ以上の選手、そのハジを我々は選んだ。新しいクラブでプレーが可能となったことでモチベーション的にもかなりのものがあるだろう。

ラウドゥルップからハジへの変化でバルサが失うものと勝ち取るものは。

失うものはラウドゥルップが持っていた“優雅さ”だろう。ハジにはそういうものはない。だがラウドゥルップが持っていない多くのものを持っている。例えば、長距離からのシュート能力、スペクタクルはフリーキック、自陣でボールをとってからのロングパス、etc.etc。いずれにしても我々は良い補強をしたと思っている。スペクタクルなフットボールが見られることは間違いない。

スペクタクルですか。

バルサがスペクタクルなフットボールを展開していることは今では常識となっているだろう。毎シーズン85から90ぐらいのゴールを我々は決めている。フットボールに関心ある人々はバルサが攻撃的なチームであるということをじゅうぶん知っていると思う。そういう意味で、今さら我々がスペクタクルなフットボールをしていることに関して説明する必要はないだろう。昨シーズンの最終戦を覚えているかな?セビージャとの試合で優勝までかかっていた重要な試合だった。我々はカンプノウで1−2と負けていた。想像を超える大きなプレッシャーが選手を覆っていた試合だ。それでも終わってみれば我々は5点をあげて逆転して勝負に勝った。これがスペクタクルなんだ。しかも正真正銘のスペクタクルだ。

今シーズンのマドリはブートラゲーニョを中心とするスペイン人選手たちに加え、レドンドとかラウドゥルップという優秀な選手がいますが。

一つのチームを評価するとき、個々の選手だけを見るのではなくチーム総体のバランスを見なければならない。確かにマドリは素晴らしい選手が揃っている。だがここ何年かを見れば明らかなように、それでも彼らは何も勝ち取っていない。今シーズンの彼らがどうかはしばらく様子を見ないと判断できないだろう。彼らはスタートがいつも悪いし、チームが機能していくのに時間がかかる傾向がある。それが我々の彼らに対する有利なところだ。

ベニート・フローロに代わりバルダーノが監督になりましたが。

個人的な意見としては、バルダーノの方がはるかにいい監督だろう。彼はフットボール選手としても優秀だったし、テネリフェでも監督として立派な仕事をしていた。彼を良い監督とする判断には根拠がある。

プレステージではいろいろなスタイルを試していました。練習試合を見ている限りではこれまで違い4人ディフェンスというシステムが多かったように思います。今シーズンはシステムを変えるつもりですか。

我々のシステムはいつも同じだ。ボールを可能な限り支配し、攻撃にできる限りの時間を費やし、なるべく相手のカウンターアタックを防ぐ。これが一貫した我々のシステムだ。そのシステムを保つにはいろいろな戦い方がある。いつも私が言っているように、もし相手のデランテーロが二人しかいないのなら我々のディフェンスは3人でじゅうぶんだ。我々が4人のディフェンスで戦うことは不可能だと思う。