74 ロマリオインタビュー(94−95−96) 

1994年アメリカワールドカップで最優秀選手に選ばれたロマリオは、1994−95シーズンに備えてのバルサの練習開始日に大幅に遅れて合流してきた。このインタビューがおこなわれた1994年11月にはすでに多くのメディアがシーズン終了を待たずにバルサを離れる可能性を伝えている。そしてこのインタビューがおこなわれてから2か月後の1995年1月中旬、シーズン途中でバルサを退団しブラジルに帰国することになる。

あなたはブラジルでは神様ですか?

ブラジルという国にとって、この前のアメリカ大会はこれまでの大会以上に大きな関心の的になっていた。セナの死によってブラジル人は大きな悲しみに包まれていたからな。なにか、そうなにか明るい材料が我々には必要だった。それがフットボールにおける明るい材料だったら最高だった。ブラジルではフットボールは社会や経済、政治を動かす源なんだ、わかるか? そしてフットボールの魅力はゴール、ゴールは人々を笑顔にさせたり泣き顔にさせたりする魅力あふれるもの。そして俺はゴールストライカー。ゴールを入れるのが俺の仕事。だから俺はアメリカ大会ではゴールを決めまくった。

優勝したことで有頂天になり、バルサのシーズン開始前の練習日に来なかったという批判があります。

ブラジルには借りがあったんだ。リオ・デ・ジャネイロの人々には特にだ。ワールドカップ前に誘拐された親父の釈放に全力をあげてくれたリオの人々には特にな。あの時、俺はリオの人々にたくさんのことを約束してしまった。例えば、自分のように恵まれない幼児期をおくっている多くの子供たちを助ける“ロマリオ基金”の設立だとか、ワールドカップでの優勝だとか、バルサを出た後はブラジルのクラブに戻ってくることとか。だから時間が必要だった。それらの約束を実現させるための多くの時間が必要だったんだ、わかるだろ?

約束の一つであるブラジルのクラブへの帰還に関する交渉をしていましたね、まだバルサとの契約が切れてもいないのに。そのために、あなただけが23日間も練習に遅れてしまった。不快に思っている同僚の選手たちもいると聞いています。

リオの人々に借りを返すことなしに戻ってくることはできなかっただけだ。バルセロニスタはそれくらいのことは理解しているだろう。ただブラジルには俺の権利を買えるだけの資金を用意できるクラブはなかった。俺は用事が済み次第バルセロナに戻ってきてクライフが要求した1千万ペセタの罰金も払った。朝6時に起きて俺一人の練習を1週間もこなした。これでもじゅうぶんじゃないって言うのか。こう見えても俺はプロ中のプロなんだ、そうだろ!

PSV でも同じような問題を起こしていましたね。

グランドが俺の家であり、ゴールが俺の親友さ。言いたいことはつまり俺の評価はグランドの中でして欲しいと言うことだ。グランドの外にいるロマリオにいったい誰が興味を示すというんだい。俺のゴールが必要だからクラブが大金を出して俺を買う。そして俺は期待通りゴールを決める。それだけだ。グランド内のロマリオに文句言いたいヤツもいるだろう。例えば試合中にボールに触る時間が少なすぎるとかさ。だが俺の仕事はゴールを決めることだ。一人じゃ何もできないのがフットボールだということぐらい俺にもわかっている。だから俺はいつも才能ある選手が周りにいることを望んでいるんだ。そして今、俺の隣にはウリストがいるさ。

そういう選手を必要と言う割には、グランドを離れてのつき合いが少ないですね。

俺はグランドを離れれば一人さ。同じ職業をしていると言ったって考え方や生き方はみな違うんだ。しかもフットボール選手はほとんどがわがままだから友情なんて存在しないんだ。わかるか? 肌に合うヤツだとか合わないヤツというのはどこにでもいるけれど、本当の親友なんてフットボール選手間にはあり得ない。

フットボール選手としてもあなたは”一匹狼”ですね。

フットボール選手はいろいろだ。例えば、自分の価値を証明するために一生懸命やるヤツがいるかと思えば、俺みたいに自分のためだけにプレーしているヤツだとかな。試合での俺の目標は、試合後に自分に満足することさ。相手チームなんかどうでもいい。試合結果もどうでもいい。もちろん勝つにこしたことはないけれど。でももっとも重要なのは俺が個人的に満足できる試合をしたかどうかということだ。家に着いた時に自分自身に祝福できること。これだけだ。

相手がどこであろうと同じということはないと思いますが。

俺には同じさ。ワールドカップの決勝戦のときだって、南米の予選と同じ感じでやっていた。フットボール選手にとって特別な試合があるなんて俺には想像できない。どんな試合でも同じさ、少なくても俺にはな。ただ、ある瞬間にすべての責任を引き受けなければならないことがある。例えば、ペナルティーを蹴らなければならないときなんかわな。俺はペナルティーのスペシャリストではないけれど、チームすべての責任を引き受けてやらなければならないときはやるよ、根性いれて。

チームの状態はどうですか?

最初の何試合かはラウドゥルップが抜けた穴が大きい感じがした。決してハジが悪い選手という意味ではないぜ。それどころか彼は世界の中でも10本指に入るほどの選手だと思っている。まあ、ラウドゥルップは長いことバルサにいたからな。彼の不在が気になったということかも知れない。でも最近はチームも上昇気味になってきている。少なくてもファンは喜んでいるんじゃないかな。

バルサのフットボールに関して。

テクニック的な面で言えば、バルサを越えるチームは世界中どこを探しても見つからないだろうと思う。一人一人の選手が持っているテクニックは凄いレベルだ。そういう意味で、個人的にはブラジル代表でプレーするよりバルサでの方が楽しい。バルサのようなプレーをするチームは世界中あり得ないだろう、例えブラジル代表といえどもな。バルサに来てよかったと思うのは、毎日何キロも走らなくてすむことさ。フットボール選手は練習で走ることなんかあまり必要じゃないくせに、やたら走りまくるクラブが多いからな。それは陸上競技選手がやることでオレ達フットボール選手がやることじゃない。

レアル・マドリについて

マドリはチームブロックとしてはオレ達より上だし、体力面でも優ってる。だがボールがバルサの選手たちによって回り始めれば、はっきりと力の差がわかるだろう。マドリは決してオレ達みたいなテクニックを持っていないし、オレ達みたいなプレーの仕方はできない。わかるか? テクニック的には大きな差があるんだ。俺がビックリしたこと教えてやろう。バルサの選手として最初の練習の日のことだ。バルサはロンドという練習スタイルをよくやる。俺は大好きだよ、ああいう練習。そう、初日のロンドで名前も知らない選手が何と4回もカーニョス(ボールを股の間を通すこと)をやりやがった。ビックリしたよ、俺にそんなことをしたヤツは今までいなかったからな。

クライフに関して

俺はフットボールというスポーツはクライフの目を通して理解されるものだと思い始めている。彼は偉大だ。偉大なんてもんじゃないかも知れない。フットボールがどういうものか知りたかったら彼に聞くしかないだろう。

昨シーズンはあなたとクライフはよく口論していましたね。あなたのプレー内容を批判することが多かった。だが今年に入ってクライフが変わったような印象を受けます。練習日に遅れたことに関しても彼は爆発しなかっただけでなく、あなたを擁護しようとさえしていた。

俺が監督だったらやはりロマリオを理解しようとしたと思う。だからさっきから言っているように、フットボールはクライフの目を通して理解されるものなんだ。グランド内や外を問わず、選手のおこないに関していくつかの決まりがある。練習に遅れてきたからクラブや監督が要求する罰金を払ったんだ俺は。そのあとに俺に関する“討論会”なんて必要ないんだ。ミスをしたらそのミスに相当するものを払えばいいし、それで終わりとしなければいけない。クライフはフットボール界に長くいる人物だから色々な経験をしてきている。だから“フットボール選手としてのロマリオ”と“個人としての人間のロマリオ”を分けることを知っている。クライフは俺がどういう選手でどういうタイプの人間かを知っていて俺を欲しがった。だから、外では好きなことをしても良いがグランド内では余計なことを言わず黙ってゴールだけを決めろ、それがクライフさ。

個人のロマリオに関しては、クラブ理事会は違う考えをもっているようですが。

クラブ理事会の人間が何を言おうと俺には関係ない。私立探偵を雇って俺の生活を探ろうが何しようがそれは自由だ。そして俺が何をしようが自由ってもんだ。俺は夜が好きなんだ。毎日4時間のシエスタをした後、街に出ていく。夕食をレストランで取って、踊れる場所にいって踊りまくる。だが試合前の夜にはそういうことをしない。俺はプロだから。そうだろ!