ウッ、ウッ、ウ〜、ドジったか!
(07/02/10)
オラゲールの政治的な発言が問題となっている。どういうことかを説明するには、よくわからないスペイン刑法にまで触れなければならないので面倒くさい気もするが、できる限り簡潔にぶっちぎって単純にわかりやすくしてみよう。まず、最初にバスク武力解放戦線ETAメンバーの1人に関して触れなければならない。
1985年から1987年にわたり、マドリッドを中心としてETAによる爆弾テロが盛んにおこなわれ、多くの犠牲者をだした時期があった。そして警察の必死の捜査により1987年の末、ETAマドリ部隊隊長のホセ・イグナシオ・デ・フアナ・チャオスというテロリストが逮捕される。11回にわたる自動車爆弾や各種の爆弾テロにより、合計25名の死者をだした一連の事件の主犯とされ、裁判の結果懲役3000年の刑に処されている。3年でも30年でも300年でもなく3000年。この国は累積刑とでもいうのか、例えば1人殺せば懲役5年、10人殺せば懲役50年というように、すべての犯罪行為を足していく方式なので、25人の死者と何百人という犠牲者をだした犯罪行為をトータルすると懲役3000年という判決となったようだ。
このテロリストは逮捕されてから11年後の1998年、セビージャでETAのテロにより死者が出たとき、刑務所の中からETA色の強いあるバスク新聞にコラムを発表している。
「葬式に出席している死者の家族の悲壮な表情が、我々に大いなる喜びを提供してくれる。この刑務所の中からテレビ画面を通じて見る彼らの不幸は、同時に我々にとって何にも変えられない幸福でもあるのだ。セビージャの作戦は完璧だったようだ。この作戦の成功は我々に1か月間の幸福を与えてくれるだろう。」
そう、思わずヒィーヒィー言ってしまうほどとても恐ろしい人物なのだ。
そして先月、逮捕されてから20年たったこのテロリストの話題がスペインのメディアを騒がしていた。なにゆえ騒いでいたのか、それは彼が刑務所の中でハンガーストライキに入って2か月近くたっており、死にそうな健康状態になっていたからだ。では、なにゆえハンストをしていたのか、再び面倒なことを説明しないとならない。
スペイン刑法には死刑制度もないし無期懲役というのもない。裁判で有罪となり刑務所行きとなると具体的に“懲役○○年”として刑務所生活の年数が決められる。だが、それが何年であろうと、例えば懲役50年であろうが50万年であろうが、最高の刑務所暮らしは30年までと決まっている。しかも刑務所の中で“再犯”を犯さない限り、どんなに長くても18年というのがほぼ最高収監年数となるらしい。つまり懲役30世紀のこのテロリストもすでにシャバにでている時期になっていたのだ。
確か何年か前に刑法が改正され、政治犯やテロリストの場合のみ30年間満期の拘留を義務づけられたような記憶がある。あるいは10年伸びて40年だったかも知れない。だが、この処置がとられるのは新刑法以降の裁判によって有罪となった犯罪者のみということだから、彼の場合はいずれにしても旧刑法によって判断されている。したがってこれまでの慣習どおり、18年経過すれば他の犯罪者と同じようにシャバに出られることになる。だが、このETAのテロリストはすでに20年も収監の身となっている。これはおかしいとばかりにETAシンパが騒ぎ出し、当人もハンガーストライキに入ってしまった。
ここで、やっと我らが主役オラゲールが登場してくる。つい先日、彼は一つの短い論文を発表している。カタルーニャ地方のオスピタレ地元週刊誌でカタルーニャ語による2ページ程度のコメントだが、それを2行でまとめてしまうと次のようなる。
「他の一般犯罪者や政治犯と同じように、彼もまた釈放されるべき時期が来ている。自分は彼のハンガーストライキを支持したいと思う。」
国家権力が何らかの形で司法に介入し、圧力を加えているいくつかの例の一つとして、このETAテロリストにまで触れてしまったオラゲール。
フットボール選手の中には一般の世界と同じように、政治に無関心な選手もいれば大いなる感心を持つ選手もいる。マドリのレジェスのようにスペイン首相の名を知らなかったり、レバンテに移籍したばかりのサルバのように“ファシスト宣言”をした選手もいれば、オラゲールのように“カタルーニャ独立”を強く希望する選手もいる。彼らもフットボール選手である前に普通の人間であるのだから、政治や経済に関して自らのアイデアを公表することも間違いではない。ただ、ETAに触れるのはプラスよりも圧倒的にマイナスの方が多い。これまでのETAテロリストによる多くの爆弾テロで多くの人々が犠牲者となり、そしてその犠牲者数の何十倍何百倍何千倍という数の親族や友人などがおり、そして被害者と実際の関係を持たない人の間でも、当然ながら多くのアンチテロの人々がいる。そして彼らもまたフットボールを観戦に行く人々だったりするのだ。これからしばらく、オラゲールは各地で注目の選手となるかも知れない。自らまいたタネだからしかたがない。
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