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![]() 選手時代の経験がクライフにとって大きな宝となっていることは間違いない。彼はいわゆる「トータル・フットボール」を体験してきた貴重な選手の一人でもある。そしてさらにその「トータル・フットボール」が、守備的なフットボールのシステムに変貌していくのを見てきた数少ない選手の一人でもある。その経験がバルサでの強みとなっているのは確かだ。 「ボールコントロールをする試合が好きだ。自分のチームがボールを支配しているのを見るのが好きだ。もちろん攻撃的なフットボールを展開するためには、それらのことが必要だからだ。他のスタイルのフットボール、例えばロングパス中心のものとか、ボールをワンタッチ処理していくのでなくてボールを止めながら試合展開していくものだとか、あるいはカウンターアタック中心とか、スタイルは色々あるだろう。でも私のスタイルは、個々の選手のテクニックを基に構成される攻撃的フットボールさ。」 彼のシステムを特徴づける一つの縦の線。それはキーパーからデランテロに走る縦の線だ。クライフが呼ぶこの「中心軸」は、クライフバルサの心臓であった。
クライフの頭の中にある複雑なジグソーパズル。それはそれぞれのポジションにどのような選手を配置していくかということだ。このジグソーパズルの完成図を第三者が予想することは非常に難しい。これまで示してきた各試合での図を見てもらえばわかるが、基本的に「中心軸」を除いて多くの選手が違うポジションをこなしてきている。そしてポジションの変化は試合中に頻繁におこなわれることも大きな特徴と言えるだろう。あくまでも「中心軸」だけは守りながら、左右の選手が頻繁にポジションを変更していく。 クライフがバルサの監督に就任した最初の年のことを思い出してみよう。彼は多くの新しい選手を加入させている。ある選手はうまくジグソーパズルに埋まっていったし、またある選手はジグソーパズルから外れていってしまった。ジグソーパズルがそれなりの形を見せてくるのは3年目だ。クライフは3年間かかって魅力的なジグソーパズルを作り上げていく。テクニック的才能にあふれた選手がそれぞれ試合の展開に応じてポジションを変えながら、チームブロックを壊さずに攻撃を展開していく。そう、コンセプトは常に攻撃的フットボールでなければならない。 クライフが監督として就任するまでの5年間で、3人の監督がバルサに就任している。ラテック(ドイツ人)、メノッティ(アルゼンチン人)、そしてベナブレス(イギリス人)。そしてクラック選手と呼ばれる選手は、常に監督と同じ国籍の選手だった。ラテックの時代にはシュステル、メノッティの時代にはマラドーナ、そしてベナブレス時代はアーチバル、リネッカー、ヒュークス。 だがクライフは、それこそタレント養成学校と言っていいような、カンテラシステムが進展している国から来た人物だった。そして幸運にもバルサカンテラはちょうど「旬の時期」を迎えているときでもあった。 クライフの頭の中にのみ存在するジグソーパズル。それが形を見るようになるまで3年かかった。才能にあふれる多くの選手たちの集まりとなる”ドリームチーム”のバルサ。カンテラ育ちの若き才能ある選手たち(アモール、グアルディオーラ、フェレール)、パワーと闘争心を信条とするバスク出身選手(バッケロ、チキ、ゴイコ)、そして3人の世界最優秀選手5本指に入るクーマン、ストイチコフ、ラウドゥルップ。もちろん各ポジションでスペインの代表的な選手となっているスビサレッタやエウセビオ、サリーナス、アレサンコを忘れてはならない。 さて、集中力やボールコントロールテクニック、あるいは適切なポジショニングやプレッシャーなどの能力を高めるためにどのような練習をしているのか。それは次回で触れる「ロンド」という練習システムだ。 |
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