76 グアルディオーラインタビュー(94−95−96) 

1995年12月2日、カンプノウでのラーシング・サンタンデールとの試合で1−1と引き分けたバルサ。1週間前におこなわれたレアル・ソシエダー戦でも引き分け、とても快進撃とはいえない状態のバルサだった。このインタビューはサンタンデール戦の後、何日かたっておこなわれている。

今シーズンのバルサの試合のシナリオは毎回同じように見えます。バルサのペースで試合が展開され、時間の経過と共に相手のペースにはまり、試合が終わってみればいつの間にか負けている。ゲームコントロール能力の欠如や選手のの経験不足、あるいはポジショニングの悪さやポジションチェンジした時のお互いの選手の理解不足、何かそういうものがいつも気になりますが。

90分間にわたって集中力が続かないという感じの試合が確かに多い。なかなか試合の運びが自分たちの思い通りにいかないんだな。選手たちの気力が衰えたり闘争心が弱まったり、あるいは何をしても中途半端なプレーになったり。そういう意味で考えると、今のチームは全般的にまだ経験不足で若いと言われてもしょうがないかも知れない。しかし物事がうまくいかなときはこんなもんだ。焦りやプレッシャーからプレーを急ぎすぎる傾向がでてくる。できるだけ早く答えを見つけようとする学生みたいにね。

してはいけないことがわかっているのであれば、こうしなければいけないというアイデアは?

もし必要なら過去のように15回のワンタッチパスを回していくことだろう。自分たちはカウンターアタックで戦うチームではない。我々のフットボールはタッチなんだ。ワンタッチ、あるいはツータッチ。15回の効果的なボールタッチが意味するもの、それは1回のゴールチャンスだ。それが我々のフットボールだった。だが残念ながら今やっているフットボールは別なものとなってしまっている。ディフェンスから始まる攻撃が、中盤を通り過ぎていきなり前線へとつながれてしまう傾向が多い。つまり急ぎすぎなんだ。ボールを失ったらボールタッチは当然ない。タッチがなければコントロールもない。コントロールがなければゴールチャンスはない。ゴールチャンスがなければ・・・それはバルサの試合じゃない。

不安定な状態が続くバルサですが、プレステージの段階でクライフが批判された内容とはチョット違った形でチーム状態が悪い感じです。例えば、バルサにはキーパーがいないと批判されたけれどもブスケがスタメン選手となって安定してプレーしている。だがコドロは20ゴールは固いといわれながらも、今では本当に必要な選手かどうかも怪しくなってきている。そしてポペスクは5番目の外国人として入団してきたにも関わらず、シーズンが進むにつれて彼は一番目の外国人選手として評価されてきた。セビージャ戦では4番のあなたがベンチに座り、代わりにカレーラスが4番で出場していた。ハジは放出候補ナンバーワンだったのに、シーズンが始まるとスタメン選手となっている。

プレステージの段階から我々の戦い方は明らかにはなっていた。それはかつてのクライフフットボールの原点に戻ること。クライフフットボール、それは彼が我々に示したもの、つまり4番の役割、6番の役割、そして9番の役割とかね、そういうもので表されるだろうと思う。

具体的に言うと?

原則的な決まりだけを説明しよう。まず3人のディフェンスで守ること。それは二人の相手デランテーロを個人マークする二人のマーカーとして左右のラテラル選手。彼らは2番と5番と呼ばれ、ボールを奪った段階で左右に大きく開く役割を課せられている。そしてもう一人のディフェンスは3番、つまりセントラルだ。彼は守備の最後の要としての役割もさることながら、攻撃態勢に入った時のスターターとならなければならない。そして3番の前にいる4番の選手は相手のメディアプンタをマークすることがディフェンス的な仕事になる。攻撃的な役割としてはボールが回るリズムにスピードをつけること。もちろん左右にボールを展開していき、攻撃がダイナミックに展開されるようにすることが彼の大きな役目となる。7番と11番の左右のエストレーモ、彼らの仕事はひたすらコーナーフラッグに向かって走っていくこと。そしてメディアプンタとしての6番とデランテーロの9番の選手は相手ゴールポストを正面に見てのプレーを展開していく。彼ら同士の約束事はセンターリングが来た方向のゴールポストに9番が行き、6番は反対側のゴールポストに向かうこと。そして最後に8番と10番の左右のインテリオールの選手たちは重要な仕事を任されることになる。守備に回っているときは相手パスを防いだりボールを奪ったりする仕事、そして攻撃に入ったときは6番と9番に続いて攻撃に参加しなければならない。攻撃時の主な仕事は跳ね返ってきたボールの処理だ。

それだけ役割がはっきりしていれば、監督がすることはそれぞれのポジションに優れている選手を選んでいくということですね。

例えば自分の本来のポジションである4番について言えば、彼の役割はさっきも言ったように守備的には相手のメディアプンタをマークすること、攻撃的には攻撃にリズムを与えること。したがって監督はこの二つの役割を果たさなければならない一人の選手を選ばなければならない。試合によっては守備的に優れている選手を優先するか、あるいは攻撃的な部分で優れている選手を優先するか、それは監督の判断となる。そしてこの4番というポジションに関していえば、その両方の仕事をこなす一人の選手を監督は決めなければならないということだ。二人の4番がいるバルサとなると、それはそれで違うシステムで戦うということになるから。

つまりアヤックススタイルということですね。

アヤックスの強さは何から来ているか?彼らの強さは一人一人の選手が、それが守備の選手であれ攻撃の選手であれ、常に一対一の勝負にアグレッシブに戦いを挑んでいくことだと思う。相手の3番の選手、つまりセントラールの選手がボールを持って上がって行こうとしたら、アヤックスの9番の選手が彼をどこまでも追いかけていって最終的には勝負に勝ってしまう。これが彼らの強さだと思う。先日ベルナベウでおこなわれたマドリ・アヤックス戦を見終わった時、クライフが我々に質問したんだ。
「アヤックスの最高殊勲選手は誰だと思う?」
誰も答えられなかった。そうするとクライフが、
「それが最高の答えだ」
と我々に言ったんだ。つまり彼らは一対一の勝負に11人が勝っていた。その勝負に勝利するために周りの選手が協力しあって一人の選手が勝負に勝つ。マドリはたった2回か3回のボールタッチでアヤックスを攻撃しようとしていたけれど、ついに1回もゴールチャンスは生まれなかった。

バルサは歴史的にマドリと違い、プレースタイルをミランではなく常にアヤックスにおいてきましたね。

アヤックスのスタイルは個人的に好きです。我々の目的はヨーロッパチャンピオンであるアヤックスのように戦うこと。でもその道のりは長い。そして同時に、ファンの人々にも理解して欲しいけれど、アヤックスはいつの時代でも同じように戦ってきたのにも関わらず、常にタイトルがとれたわけではない。それどころか何年にもわたって落ち込んでいた時期さえある。でも今のアヤックスには、彼らのシステムを実践するのに理想的な選手が集まっている。システムがどうであれ、常に良い時代や悪い時代があることを忘れてはいけないと思う。

ところであなたにも移籍の噂がありますが。

自分はカンテラ出身の選手。カンプノウでプレーすることを子供の時から夢見てきた人間さ。そしてそれが今は何年間にもわたって現実となっている。できれば、そう、可能ならという意味だけれど、バルサというクラブで引退できればいいと思っている。それはカンテラ上がりの選手としては理想的なことだろうね。でもその反面、それではバルサというクラブしか知らないで現役選手を終わってしまうということも意味する。個人のペップとしてはバルサで終わりを見たいと思うし、プロのフットボール選手としてのペップとしては違う文化のフットボールにも触れてみたいとも思う。まあ、いずれにしてもずいぶんと先の話しだけれど。