Xavier Hernandez Creus
チャビ

-
-
-
-
06 - 07

チャビとイニエスタ
(07/01/04)

チャビ(以降チャ) アンドレシンのことを初めて知ったのは自分がカデッテカテゴリーでプレーしているときで、メディアを通して知ったんだ。アルバセテから来た少年で何やらマドリも欲しがっていたとか・・・

イニエスタ(以降イニ) よく覚えているね(笑)。

チャ そりゃそうだよ、自分と同じ4番のポジションの選手で、しかもプレースタイルが似ているという紹介だった。自分だけではなく、マリオとも比較されて紹介されていたよね。当時のカンテラニュースと言えば、マリオのことばっかりだったし。

イニ そう、彼は凄い選手だった。

チャ だが、アンドレシンの入団でラ・マシア内での“将来が期待される4番の選手”が、自分も含めて3人になってしまった。みんな少年とはいえ、それぞれライバル意識というのは絶対あるよね。でもそれは年齢が近い仲間内だけのことで、上の方を見ると気が遠くなるような感じがしていた。
「あんな選手に追いつくことができるのだろうか」
いつも自分に問いかけていたのを覚えている。

イニ ライバル意識というか競争心というか、そういうものがないとダメな世界だと思う。ラ・マシアにやって来てしばらくしてからは、チャビがプレーしていたフベニルの試合をよく見ていたけれど、凄いチームだと思った。自分もあんな選手たちになれるのかどうか不安になるぐらいだった。

チャ 1979年〜1980年生まれ世代のチームだったね。マリオを筆頭にしてジョフレだとか、とにかくいい選手が多いチームだった。
「このチームを構成している選手たちがプロになれないことなんてあるんだろうか」
いつもそう思っていたし、マリオをはじめ何人かの選手はやはりバルサAチームデビューをすることができた。

イニ でも、実力があるだけじゃダメな世界なんだよね。運が大きく将来をわけてしまう世界だとも思う。自分の周りにいた多くの才能ある選手たちが、その後クラブを離れていくのを見ながらそう思った。

チャ もちろん運がないと将来は開けてこないけれど、それでも根性というか頑張りというか、そういうものも大事な世界であることには変わりがないと思う。例えば、11歳ぐらいの年齢で家族と離れてラ・マシアで生活しなければならなかったアンドレシンみたいに、外からやって来る少年たちは本当に大変だと思う。

イニ それはそうだけれど、自宅から通ってラ・マシアで練習生活をしている少年たちだって、多くのものを捨てたりあきらめたりしなければならないわけでしょ?チャビはいくつでバルサにやって来たの?13歳?やはり、普通の少年たちのような生活はいずれにしてもできなかったわけだ。休みなく義務づけられた練習が、普通の少年たちのような日常生活をおくることを不可能にしているのは、外から来た選手でも地元の選手でも同じことだと思う。

チャ 目標とした選手は誰だった?

イニ ペップとマリオ、そしてチャビ。

チャ 自分の場合はペップだった。でもこうしてみると、我々はラッキーな環境で育ったと思うんだ。常に同じポジションで目標や手本となる選手がいる環境で育っている。それはシステムが生んだ環境とも言えるよね。同じシステムというかフィロソフィーというか、そういうものがいつも同じクラブで育ってきたから、常に目標とする選手が存在することになる。

イニ でも、バルサのカンテラ組織もずいぶんと変わってきているの知ってる?ついこの間、インファンティルの試合を見ていたら、ほとんどが黒人選手だった。

チャ 知ってるさ。本当に黒人の選手が多いよね。自分のカンテラ時代には一人もいなかった。世界各国から優秀な選手が来ることはとても良いことだけれど、別な言い方をすれば、地元の少年だけではなくスペイン各地の少年にしても、ラ・マシアに入るには昔以上に難しい時代になったと思うんだ。

イニ そう、今思い出したけれど、獲得する少年の選択アイデアも変わってきているらしい。今はフィジカル面の強さを昔以上に考慮して入団チェックをしているとコーチが言っていた。

チャ それは確かに感じている。でも我々が目指すフットボールは“ボールタッチ”であり、“リズムの変化”であるわけで、フィジカル面だけを強調しては間違いだと思う。しかも、フィジカル面の強さというのは、身長だけの問題でないことも忘れちゃあいけないと思うんだ。例えば、アンドレシン、外面から感じる以上にフィジカル的に強いものがある。

イニ でも、自分はビエイラにはなれない(笑)。

チャ そう、確かにビエイラではないさ。でもああいうフィジカルの塊みたいな選手が襲ってきても、ボールを守ることを知っている。身体でボールと相手選手との間に壁を作り、彼らにボールを触らせることなく味方の選手にパスをだすテクニックを持っているじゃないか。しかも瞬間のスピードも持っている。ボールを持って走るかと思えば突如として止まり、止まったかと思うとマークしている選手が気がついたときにはもう前の場所にはいない。これは凄いことだぞ。

イニ でもそういうチャビだって違う能力を持っている。ボールを持ったらマークの選手が近づいてくるのを待つ。そして近づいてきたらカラコーレスで相手選手を煙にまいしてしまい、気がつけばもう他の場所でボールを転がしている。持って生まれた才能と言ってしまえばそれまでだけれど、やはり練習の成果が生んだたまものだと思うんだ。

チャ 練習の大事さはね、長いあいだケガをして戻ってきてから、その必要性を更に感じているんだ。グランドに復帰してきて、そのことにすぐに気がついた。まったくリズムが戻っていない、周りが全然見えない、どこにパスをだして良いのかわからない、そうこうしているうちにボールをとられてしまう。復帰直後は情けないったらありゃしなかった(笑)。

イニ でももう負傷前のチャビに戻ってるじゃない。どういうチャビかというと、ラ・マシアのフィロソフィーをそのまま受け継いでプレーしているチャビさ。ボールタッチ、パス相手を探す、パスをだす、パスを受ける場所を探す、再びボールタッチ、そしてパス相手を探す。もうかつてのチャビに戻ってるよ。

チャ ラ・マシアといえば、アンドレシンはラ・マシアに入寮した瞬間から注目を浴びていた選手だったな。もうすでにラ・マシアのフィロソフィーを完璧に取得してしまったような選手だった。今でもペップが自分に言った言葉を覚えているさ。
「見たかあの少年?チャビは俺を引退させるかも知れないけれど、あいつは俺たち2人とも引退に追い込むかも知れんぞ。」

イニ でも、バルサAチームの練習に参加させてもらえはじめた最初の頃を考えると、今でも鳥肌がたつ思いさ。

チャ それはよくわかる。自分もそうだったからね。今までテレビでしか見たことのない凄い選手たちが、自分と同じ練習をしている。そして自分に問いかけるんだ。
「フィーゴのことをみんなルイスって呼んで練習しているけれど、自分みたいなガキは彼のことをなんて呼べばいいのだろう?ルイスさん?フィーゴさん?セニョール?(笑)」

イニ そうそう、本当にそうだよね(笑)。自分の場合はルイス・エンリケとペップだった。ルイスさん?エンリケさん?ペップさん?グアルディオーラさん?ボールを要求するときに何と呼んでいいかわからず、もう穴があったら入りたい気分だった。練習中にペップが近づいてきていろいろとアドバイスをしてくれた。
「ハイ,ハイ、ハイ!」
アドバイスしてくれる人の顔も見ることができず、下を向いてハイ、ハイ、ハイ、16歳の少年にはこれが精一杯だった。でも思うんだけれど、最近下から上がってきた選手たちはもっと大人だよね。

チャ それは自分も感じている。たぶんジェネレーションの違いってやつじゃないか。この変化は良い面もあるし、悪い面もあると思う。環境にとけ込むのが早いというのが良い面だとすれば、悪い面はすでにトップチームで活躍している先輩選手を尊敬する気持ちが少なくなっていることだよ。謙虚さが感じられなくなったと言ってもいいかも知れない。すでに髪の毛を染めたりしているカンテラ選手などを見ると、ラ・マシアの教育も昔のような厳しさが足らなくなったんじゃないかとも思うことがある。

イニ それは僕に言っているの?

チャ まさか!アンドレシンは今のままでじゅうぶんさ。そして個人的にはいつまでもいまのようであって欲しいと思う。17歳や18歳の選手が髪の毛を染めていたり、10個や20個ものペンダントをつけているのが理解できないだけさ。俺たちはバルサの選手であり、そしてフットボールの選手であり、目立つのはグランドの中だけで良いんだ。

イニ 自分もそう思う。

チャ 自分はこういう考えのもとで教育を受けてきたし、自分でもそれが正しいと思って今日まで生きてきている。選手同士の尊重感というのはこういう些細なことで生まれてくるし、そういう意味で言えばアンドレシンはまさに手本となる選手だよ。しかももうあんたはチームにとって重要で欠かせない選手の一人と成長してきている。チームが必要とするときは決して隠れることなく持っているすべてのものをだそうとすることは重要なことさ。

イニ それにしてもと不思議に思うのは、自分とチャビは共有できない選手だと思っている人がいることだよね。まったく信じられないことさ。今まで何試合も一緒にプレーしているし、それでもそういうことを言う人がいる。それを聞く度に気分が重くなるんだ。特にチャビがリハビリをしている最中にそういうことを言うメディアが登場したときは、本当に気分が重くなった。自分もリハビリの経験があるからわかるけれど、練習もできない、もちろん好きなフットボールもできないという苦しい時って言うのは、普段以上にメディアの声が伝わってくるんだよね。まるで、自分とチャビにケンカをして欲しいみたいな雰囲気でメディアが騒ぐのは、本当にバカげたことだと思う。これまで自分を最も助けてきてくれた人なんだから。

チャ おまえは良いヤツだな。もっとも、ペップが誰よりも自分の面倒を見てくれたように、俺が次の世代の面倒を見るのは当然のことさ。アンドレシンだって次にやって来る世代の手助けをすることは間違いないよ。いずれにしても、そういうことを言う人はフットボールをわかっていないんだよ、アンドレシン。あんたが活躍し始めた今では、チャビの出番はすでにないという人までいることを知っている。つまりイニエスタがプレーすれば、チャビは必要なし、あるいはチャビが活躍すればイニエスタは必要なし、そういう短絡的なアイデアを持っている。

イニ 本当にバカな話だよね。

チャ 我々をまったく同じタイプの選手、つまりクローン選手だと思っている人が言うことなんだと思う。実際は、お互いに助け合いながらプレーすることで更に効果的な試合運びが可能となることを見逃しているんだ。個人的にはアンドレシンと一緒にプレーしていると非常に楽しい。でも、俺たちに何らかの罪があるとすれば、それは2人ともカンテラ育ちだからなんだ。

イニ それはよくわかる。例えば、プジョーとマルケスが2人ともカタラン人でカンテラ育ちだとしたら、彼らにも共存不可能というラベルが貼られていたと思う。

チャ 外から来た選手はクラブ内から育ってきた選手より高く評価されるのがこれまでの歴史。もちろんその傾向はバルサだけじゃないけれどね。なぜデコに対しては議論がされないのか、それは彼は外から来た選手だからじゃないか?

イニ そういうことは言わない方がいいよ。

チャ そうだ、そうだ、余計なことを言っちまった(笑)。明日の新聞の見出しを作るようなもんだ。
“バルサにデコは必要ないとチャビの発言”
もしかしたら、デコはバルサにやって来た外国人選手の中でも最も優秀な人かも知れないし。

イニ もしかしたら?それは違うよ。間違いなく最高の選手だと思うよ。彼はまるで精巧に作られたマシーンみたいな選手だよ

「こちらカピタン」より