チームが連勝している状況にあって、しかもダントツの首位を走っている状況にあれば、いかに悲観的なキャラクターを持つカタルーニャメディアであれ、バルサ選手に対する批判が生まれないのは当然のことだろう。だが、ひとたび連敗という思わぬマイナスな事態が訪れてくると、それまで潜んでいた選手批判が浮かび上がってくるのもよくあることだ。At.マドリ戦での敗北に続いてバレンシアにも敗北することになったバルサの選手に対して、地元メディアからの厳しい批判が登場している。そしてその批判の的となっている一人の選手がアンドレス・イニエスタだ。彼への批判は、同時にチャビへのノスタルジーともなる。曰く“チャビの不在を埋められないイニエスタ”となり“もしチャビがいれば・・・”という、カタルーニャメディアの特徴の一つとなる“不在者ノスタルジー”のコメントが花を咲かす。
だがフラン・ライカー監督にとって、イニエスタとチャビはまったく違うキャラクターとして認識されている。チャビが“カラコーレス”の選手であるとするならば、イニエスタは“プリメル・トッケ(ワンタッチフットボール)の選手であり、チャビがリズムを作り出す選手であるとするならば、イニエスタはスピードを生み出す選手である。昨シーズン、イニエスタは12番目の選手として後半に登場するのがほとんどだったが、チャビと交代して登場してきたのはわずか2回程度しかない。常にジュリーとの交代選手であり、あるいはデコとの交代選手だった。
それでもチャビの不在というアクシデントが、イニエスタの状況を少し複雑にしてしまっている。例えば、昨シーズンと今シーズンではフラン・ライカーがイニエスタに要求することが変わってきていることだ。チャビが負傷してから、フラン・ライカーがイニエスタに要求し始めた基本的なことは三つほどある。試合の流れを読みとりリズムメーカーとなること、状況を判断してチームに“休息”を与えること、そして機を見てゴール前への進入を試みること。
「監督からの要請が昨シーズンとはキャラクターを変えてしかも増えてきていることは確かさ。それはそれで期待されている証でもあるから可能な限り期待に応えていきたいと思う。でも、自分以外のセントロカンピスタの選手が誰かによって自分の動きも変わってくるのも確かなこと。例えばバン・ボメルがメンバーとして加われば自分の攻撃参加は少なくなる。なぜなら彼はゴール前に飛び出していくことが多い選手だから、その状況を判断して誰かが後ろをカバーしなくてはならない。でも自分が組む相手がデコだと状況はまったく違ってくる。彼は多くのスペースをカバーするしピボッテの位置にまで下がってボールをとることが多いから、より自分はフリーになるし攻撃参加もしやすくなる。小さいときからそうであったように、常に攻撃参加できる“自分のポジション”が与えられることになる。」
バルサコーチのエウセビオが続きを語る。
「イニエスタの良さを最大限にいかすにはメディアプンタの位置に置くのが良いと思っている。だがチャビがプレーしている間はそれも可能となるが、その彼が負傷中の今はそれができない。もしイニエスタの他にバン・ボメル、そしてエドゥミルソンという選手で中盤を組むことになると、イニエスタが攻撃に参加する確率はとても低くなることは仕方がない。そうでないとバン・ボメルやエドゥミルソンの良さがなくなってしまうからだ。したがってこのメンバーでの彼の役割はボールコントロールということになるが、そういう意味ではAt.マドリ戦でもバレンシア戦でも期待通りの活躍をしてくれていると思う。」
チャビがいようといまいと、毎週末の試合が彼にとって最終テストとなっていると語るイニエスタ。そのテストとは監督の要請にどれだけ応えられるかということだ。
「自分の特徴にあっていようといまいと、監督が要求することに応えるのがプロの選手だと信じている。そして自分なりに判断すれば、後半20分だけの仕事であれスタメン出場90分の試合であれ、監督の期待には少なくとも応えることができていると思う。もちろん改良していかなければならない部分は山のようにあるさ。例えば、相手選手からのあたりに強くなること、ボールを奪われないようなテクニックをさらに磨くこと、ボールを奪う技術をもっと高めること、そしてゴールの確率をもっと高めること、そう、いろいろあるさ。ただゴールに関しては運の問題が大きいと思っている。バルサインフェリオールカテゴリーやスペインアンダー時代にもゴール運がある時は自分でも信じられないぐらい気持ちよくゴールが決まったし、まったくダメな時期は何でこれが入らないのかと思うぐらいゴールが決まらない。ゴールなんてそんなもんだと思っている。」
メディアの間で囁かれるイニエスタ批判が気にならないわけがないだろう。だが、そこは冷静さを装う彼でもある。
「監督の要請に確実に応えられることが自分にとって一番重要なこと。もしその使命が達成されたと自分で納得できれば外部からの批判なんかどうでもいい。」
イニエスタはあくまでもイニエスタ一世であり、決してチャビ二世ではない。それだけは確か
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