アンドレス坊やからイニエスタに
(06/11/29)
11月4日、リアソールで戦われた“イニエスタ対デポル”との試合での大活躍以来、イニエスタはすべての試合でスタメン出場となっている。もちろんチャビの負傷という不幸な出来事がその原因の一つとなっているが、彼がリハビリから戻ってきた今でもスタメンを勝ち取っている。
あの試合はまさにイニエスタのリサイタルと呼んでもおかしくない試合だった。アンドレス・イニエスタ・ルハン、アルバセテ生まれでラ・マシア育ちの22歳となった彼のプレーは、フットボールをやったことのない人にも「ひょっとしたら俺にもできるスポーツじゃないか?」と思わせるようなシンプルで、難しいプレーをさも簡単なものに見せてしまう、そんな彼の持ち味がすべて出し尽くされた試合だった。そしてこの試合から3週間後、ビジャレアルを相手にしたカンプノウの試合で、イニエスタコールが7万人を埋めた観客席から自然発生的に登場。それは、彼にとって初めてのことだった。
“イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!”
“イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!”
“イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!イニエ〜スタ!”
大勢で一緒になってコールするにはチョイと呼びにくい名前ではある。だが彼の名はイニエスタ。それまで選手間だけではなく多くのバルセロニスタの間でも“アンドレス坊や”と呼ばれていた彼がイニエスタとして、つまり一丁前の選手として認識されたことを意味する。カンテラ組織から上がってきたいわゆる“自前の選手”に対して限りない愛情を示すものの、同時にとてつもなく厳しい目で判断することで知られているバルセロニスタ。それを誰よりもよく知っているカンテラ上がりのイニエスタだから、試合後に珍しくも興奮して語っている。
「鳥肌がたってしまった。」
あの限りなく白い肌にたつ鳥肌はやはり白いのだろうか・・・。
アンドレス坊やからイニエスタになった彼の原点の一つは、5月のパリにある。
「人生の中で最も悔しい思いをした日」
今でもそう語るイニエスタ。彼をスタメン選手として起用しなかったライカーに対する批判ではなく、試合開始の瞬間からチームを助けることができなかったことに対する悔しさだ。だがこの悔しさが彼のメンタル面の強さを助成する一つの原因となったのではないか、と語るチキ・ベギリスタイン。
「テンカテがバンボメルの起用を訴え、イニエスタを最も買っているエウセビオがイニエスタスタメンをライカーに要請していた。最終的にライカーはバンボメルを選んだが、後半に入ってイニエスタを投入。ミラン戦やベンフィカ戦でも素晴らしい活躍をしていた彼だが、あの決勝戦では目の色が違っていたし、凄い活躍を見せてくれた。よほど悔しかったんだろうと思うよ。でもあの日以来、それまでの成長ステップ度とは比にならないくらいグ〜ンと伸びていったように感じている。」
誰よりもイニエスタを信頼しているというエウセビオが語る。
「フットボールというスポーツをシンプルに理解し、しかもそれを実践してプレーできる選手。つまり本当は難しいプレーであるにもかかわらず、彼の手(足とするべきか)にかかるといとも簡単に見えてしまう、そういうテクニックを持った選手だ。彼の足下にボールがやって来た瞬間、まるで好調時のジダンのようにキラリと光る。もちろんフィジカル的に似てもにつかない2人の選手だが、ボールテクニック、判断力の速さ、そしてプレースタイル、それらのものがジダーンのそれとダブることがよくある。」
デポル戦がイニエスタのリサイタルだったというのには、それなりの理由がある。チームを引っ張っていた選手としてだけではなく、まるでデコのように守備面にまで活躍しているからだ。この試合でエドゥミルソンが6回、デコが3回ほど相手のボールを奪っている。そしてイニエスタは1人で彼らの2人分、つまり9回のボール奪取をしている。デコという見本となる選手から学んだことも理由の一つとなるだろうが、フィジカル面の成長もまた忘れてはならない理由の一つだ。身長170センチ、体重65キロ、セントロカンピスタとして決して恵まれた身体とは言えない。だが外面から感じるきゃしゃさとは正反対な、鍛えられた筋肉がユニフォームの下に隠れている。
バルサのフィジカルトレーナーであるパコ・セイルロ制作メニューにより、4年前から毎日のように特別メニューでのジムトレーニングをおこなっている。カピタンであるプジョーが練習時間より1時間前に来てジムトレーニングをしているのは知られた話だが、地味なイニエスタもまた同じように誰よりも早くやって来て地味に彼用の特別メニューをこなしている。もともと持久力に関しては何の問題もなかったイニエスタだが、さらなる瞬発力をつけるためのメニューはいまだに続けられている。
ここ1、2年のプレーをもしイングランドのクラブで見せていたならば、いやイングランドでなくとも、例えばカルッチオのクラブでこれだけの活躍をしていたならば、あるいは彼の名前がアンドレシーニョだったとしたら・・・カタルーニャメディアに連日のように獲得目玉選手候補の一人として紙面を賑わせていただろう。橋を叩いても渡らないチキやライカーも彼の獲得に走っていただろう。だが、幸いにも、イニエスタはバルサのイニエスタとして正当に評価されつつある。これまで“無期限延長”状態となっていた契約見直し交渉が、再び開始されそうな雰囲気だ。もうすでにアンドレス坊やではなく生意気にも彼女までいるイニエスタに、実力に見合った内容の契約交渉が間もなく開始される。
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